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ある共産主義国家の記録  作者: HTTK
ワーストコンタクト
12/42

交渉2

 北日本の諜報機関は防諜が精々な能力しか持たない程度の組織しか有していなかった。

何せ、自国の有力な同盟国であるロシアは世界的な規模の諜報組織を有していた事から情報の入手手段には事欠かなかったのだ。

それに、防諜が精々と言っても迎賓館に盗聴機を仕掛ける事ぐらいは造作もないのだ。

その為、北日本は交渉の情報をある程度彼らから得ることに成功していた。

北日本の詳細な分析と、我々の条件との差異、交渉の条件等を魔導とかいう技術を用いて遠方のどこかと行っていた事に諜報部の連中は驚いていた。

「魔導を用いた防諜対策に予算を振り向けるべきかと。連中の会話を盗聴することはできるのですが、本国との通信の傍受は不可能です。」

そういう諜報部の報告によって、二宮を始めとした交渉団はどういう対応をすべきか悩んでいた。

(相手の情報が全く不明な以上、一方的な交渉は不可能……、次善策を取るしかないか。)

「まず私は、絶対に譲れない条件はボヘミア王国の非武装中立と完全に平等な貿易条約の締結だと考えています。」

それに関しては、全員が首肯する。

しかし、次の私の考えは喧々囂々の議論になった。

「故に、それらが守られるのならば、彼らの講和条約に記載のあった安全保障条約の締結と無賠償での講和を行うべきだと考えています。」

二宮のその発言に軍部はおろか内務委員会等からも反対意見が出る。

軍部は戦力を失ったわけでも、国家の中枢を失ったわけでもないのになぜ他国の軍を受け入れるような講和条約を結ばねばならないのかと反発し、内務委員会からも在日ロシア軍との関係から他国軍の進駐は大きな問題を生じかねないとの意見が出た。

それに対して二宮は、軍の駐屯を認めないとの条項を特約として記載し、また現在の我が国に必要なものは資源と市場であるから、それらが手に入って体制を立て直すまでは「名目上」ロマリアの同盟国か配下に入る事を甘んじるべきと述べた。


 結局、会議開始5分前にまとまった条件は以下の5つになる。

1 日本人民共和国とロマリア連合王国は条約締結後、戦争状態を終結する。

2 日本人民共和国は、ロマリア連合王国と対等な安全保障条約を結ぶ。

2−1ロマリア連合王国とその同盟国は我が国に如何なる理由があろうと駐屯しない。

3 ロマリア連合王国は、以後の安全の為にボヘミア王国を非武装中立にすることに同意する。

3−1この場合の非武装中立の意味は、魔導軍と航空兵力の保持の禁止を意味する。

4 ロマリア連合王国とその同盟国は、我が国と完全に対等な自由貿易条約を結ぶ。

5 この条約は締結時点で発効する。

細部に関しては交渉で決めるが、大枠の修正案がこれである。


その後の会議で明らかにされた向こうの講和条約案が以下の通り。

1 日本人民共和国とロマリア連合王国は条約締結後、戦争状態を終結する。

1−1戦争状態の終結の要件には、双方の捕虜の即時返還を付随させる。

2 日本人民共和国及びロマリア連合王国とその同盟国は相互に賠償、領土割譲要求を放棄する。

3 日本人民共和国は、地域の安定の為にロマリア連合王国と対等な相互安全保障条約を締結する。

3−1日本人民共和国が一定の軍事力の拠出を行う限り、ロマリア連合王国とその同盟国はその領土内部に侵入しない。

4 3、2が受け入れられる限り、ロマリア連合王国と日本人民共和国は自由貿易条約を結ぶ。

4−1 関税、法律その他事項については交渉によって個別具体的に決定する。

6 この条約は締結時点で発効する。


双方が文書を読み終わった時間を見計らい、二宮が交渉において先に相手の核心に切り込む。

「大使、交渉に入る前に聞きたいのですが。貴国が結んでいる安全保障条約では、宣戦布告なき場合はどういう対応になるのでしょうか?」

アレクサンドルは二宮の発言に答える。

「基本的に、宣戦布告なき戦闘の場合には安全保障条約は発動しません。……‼」

暗にボヘミア王国を切り捨てろというその発言の裏にある意味を読み取ったアレクサンドルは、念のために確認を取る。

「また、どちらかが宣戦布告を同意なく行った場合においても同盟国の参戦義務は生じないとしています。」

アレクサンドルの発言を消極的賛成と捉えた二宮は、口元に微笑を湛えながら発言する。

「ああそう言えば、我が国は未だ貴国を含めた国家に宣戦布告をされていませんでしたな。」

大使としてのアレクサンドルは、どのような属国であっても見捨てる訳にはいかなかった。

なにせ、同盟の盟主は配下を守ってこその盟主なのだ。

仮に配下を容易く見捨てる事をしたときはロマリア連合王国の崩壊が始まる時だとさえ考えていた。

しかし、北日本も自身の喉笛にナイフが刺さりかけているのを見過ごすわけにはいかない。

故に、彼は一定の妥協を図るつもりだった。

「我が国は、ボヘミア王国側の主権を尊重します。」

そういった後、「ただし、ボヘミア王国の体制を転換するなどの場合は、我が国は同盟国の滅亡を見捨てる訳にはいきません。」ボヘミア王国を滅亡させないなら、好きにやってよいと念を押す。

北日本と戦う余力もないし、強大な軍事国家相手に「今は」戦うつもりがなかった。

諸国を団結させる筈の権威の象徴である教皇も消え去ってしまった今となっては、そもそもの王権自体が揺らぎかねなかったし、諸侯や同盟各国も余力がないはずだった。

更に、各国とも北日本に宣戦布告をした国はいないのだ。

事実されていない以上、相互参戦条項は発動せず、またボヘミア王国そのものが残れば同盟存続は可能だろう。

ーー実態はどうあれーー

アレクサンドルはそう踏んでいた。

両国間で最も懸念される事項の合意、ボヘミア王国の非武装中立についてが解決したのちは順調に会談が続き、両国は以下の合意に達した。


1 日本人民共和国とロマリア連合王国は条約締結後、戦争状態を終結する。

1−1戦争状態の終結の要件には、双方の捕虜の即時返還を付随させる。

2 日本人民共和国及びロマリア連合王国とその同盟国は相互に賠償、領土割譲要求を放棄する。

3 日本人民共和国は、地域の安定の為にロマリア連合王国と完全に対等な相互安全保障条約を締結する。

3−1日本人民共和国政府の要請がないかぎり、ロマリア連合王国とその同盟国はその領土内部に侵入しない。

4 3、2が受け入れられる限り、ロマリア連合王国と日本人民共和国は自由貿易条約を結ぶ。

4−1 関税、法律その他事項については交渉によって個別具体的に決定する。

5 ロマリア連合王国はボヘミア王国の主権を尊重し、非武装中立を認める。

6 この条約は締結14日※2を経過した時点で発効する。

北日本とロマリア連合王国は一定の妥協をなした事を受け、共和国軍最高軍事会議はボヘミア王国への

「進駐」を決定。全軍に移動命令が発令された。


 交渉が一段落ついた今、アレクサンドルは部下の書記官に話をしていた。

「かの国がボヘミア王国への進駐をどのようにするかで、今後の彼らに対する戦略が決まります。」

そういって、続ける。

「私は、今まで魔道師として王国に奉職して来ました。そして、その時に伝承にもなにも載っていない未知の国家を見れたこと。魔導技術者としては興奮しました。願わくば彼らとの間に友好関係が築ければいいのですが。」

そういう尊師の目に憂いが宿っている事に書記官は気がついた。


※2 14日という猶予が与えられたのは、自由貿易その他の交渉期間が必要な事と、ロマリア王国軍とその同盟国の軍をボヘミア王国外へと退避する時間が必要なため。また、北日本軍においても兵站計画の策定や補給などの時間が必要な為でもあった。

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