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ある共産主義国家の記録  作者: HTTK
ワーストコンタクト
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接触

 地球世界とこの世界の差異は思ったほど存在しない。

(無論考え方による。地球世界には魔法も亜人も存在しない事の差異は、一般的な意味合いでは大きなものだろう。)

人形の生命体(理由は不明だが意志疎通すら可能‼)に、地球と同程度の環境の惑星、更には同じ物理法則が存在する。

幸いにも、北日本の各専門機関が懸念していたような新型ウィルスも細菌も確認されず、北日本にとって致命的で、どうにもならないものは取り敢えず存在しなかった。


 --共産主義国家の軍人である私が言うのは難だが、神に感謝した--

とある軍高官もそう発言するほど、北日本にとって運が良かった。

かろうじてであるが、北日本は生存に成功したのだ。

そして、北日本が異界に召喚され2週間ほど立ったある日、遂に異界の側から転移直後と異なる接触がなされた。その接触は、北日本の運命を大きく変えるものとなる。


1月12日 ボヘミア王国 王都ベーメン

王都の一角に位置する連合王国の大使館では、王国からの命令で敵との接触を図るよう言われた人員が最終確認を行っていた。

随伴人員は最小限に留められ、敵の捕虜を尋問して得られた情報から、白旗を掲げ敵の方へ歩いて行く事になっていた。

「尊師、本当に行かれるのですか?」そう心配して尋ねる大使に、尊師と呼ばれた男は微笑を口元に浮かべつつ応える。

「もちろんです大使、弟子の不手際は師が正さねばなりません。」

それに、と尊師と呼ばれた男は続ける。

「もしも、召喚したのが歴史通りの悪魔の国であるなら、そうでなくとも、洗脳魔術を回避できる程の国家ならば、それ相応の礼儀を示さねばなりません。」


そう言って尊師は手元の「親書」に目をやる。

ーーそうは言っても、この親書の内容では相手は納得しないだろうなーー

彼はそういう思いを押し殺し、人員と共に外へと向かう。

彼が渡された親書は、ロマリア王国国王の自署と封書がなされたものである。

領土差や影響力の差を考えた場合、最上級の外交儀礼と言えるだろう。

しかし、事前に言われていたことだが「対等な」講和自体は可能だとしても、列強が中小国を相手にするような条項※1のままでいいのかは尊師には疑問だった。

しかし、彼には国王から交渉の全権を与えられていた。

故に、これは交渉の叩き台だと考えれば気が楽になった。

捕虜からの情報や、推定した領土から導かれる人口は凡そ100万人〜1000万人程度。

確かに我が国の人口と国力を考えたなら正当な交渉かもしれない。


 兎に角、唯一の情報源と言っても過言でない捕虜が言うような「人口4000万人、強大な軍備に40万人を超える軍」は法螺も大概にしておけというレベルの話だとしても相手の情報が兎に角不足しているのだ。

気を引き締めてかからねばなるまい。

 それに、彼らは、我らが連合王国の誇る魔法技術が作り上げた洗脳魔法を無効化し、王国の矛たる連合王国軍とその連合軍を文字通り消滅させるという実績を上げているのだ。


 連合王国の国王直属部隊、諸侯の私軍と、属国軍で混成された30万の陸上部隊と同時に海上から進攻した400隻の軍艦と5万人の揚陸部隊は、召喚から2日でその総兵力の8割を失いボヘミア王国へ退却してきたのだから。

 王都でその報告がなされた時の貴族共の感情と理性の間の表情は私には忘れられそうになかった。

彼らは自分の親族が死亡しているにも関わらず、表情を歪ませながらも即座の講和を国王に奏上したのだから。

無論、彼ら自身の面子や復讐心はかの国に対する「報復」を訴えたいだろうし、国家の面子だけで考えれば間違いなく復讐すべきだった。

しかし、先ほどの理由と、もうひとつの理由から復讐をしたくてもできないのだ。

もうひとつの理由。


 それは、この国はおろかこの大陸東部全体で信仰されている宗教の聖地がかの国の召喚とほぼ同時に、キノコ雲と共に消え去ってしまったことだ。

それだけならまだしも、かの日はその宗教で最も偉大な祝日である大地開闢の日、蛮族達を教化して新しい文明の光を届けよ、という教義の示す一番重要な日だった事が被害を大きくしてしまった。

教皇も、大勢の信徒も、戦勝祈願の為に訪れていた各国の指導者も全員が謎の疫病と荒れ地を残して消え去ってしまったのだ。

現在、我が国はおろかこの大陸東部全体が大きな混乱の中にあるのだ。

おいそれと、かの国と戦端を開くわけには行かなかった。


1月14日 戦闘地域 前線

ーー白旗を掲げた敵が接近!ーー

その報告に、俺達戦車兵は準備を整える。

あたりで陣地を作っていた機械化歩兵小隊のBTR82と、その随伴歩兵も戦車を盾にしつつ敵を警戒する。

そうして、敵の距離がこちらから300メートルほどになったとき向こうが大声で叫び始めた。

「ロマリア連合王国及びその同盟国の使者として参った!貴国の代表者と話をさせて貰いたい!」

それを受け、俺達は連隊本部へと連絡を取り敵を使者として扱うかどうか、どういう対応をすればいいのか指示を願った。

……連隊本部の指示は、相手を3時間程待たせろというものだった。

「対応が決まってないのか?」そう声に出しつつ、拡声器で相手側にその旨を伝える。

……よりによってなぜこの隊に「敵」が近づいてきたのか,彼にとってはそれが不満だった。


 護衛の騎士共々、敵の至近距離まで近づくと、その兵装の異様さが目についた。

汚れたようなまだら模様の服の上に、同じ模様の所々膨れ上がっている上着※2を着込み、質素な鉄兜を被り、鉄の棒をこちらに向け警戒している。

 その兵士たちの中から、一人の男が私たちの目の前に出てきて発言する。

「司令部から、あなた方を3時間ほど歓待しろと言われました。宜しくお願いします。」

慇懃無礼という言葉がこれほど似合うということはない態度で発言する。

……その態度に護衛の騎士が屈辱に声を震わせながら相手の指揮官らしき男に尋ねる。

「貴殿の貴国における階級をお尋ねしたい。ここにおわすお方に、その様な無礼な態度。場合によっては、ただでは済まさぬぞ。」

騎士の殺気を伴ったその言葉に、相手の男は踵を揃えて手を曲げて頭の付近に近づけ、発言する。

「失礼しました。小官は第四狙撃兵師団、戦車中隊を預かる黒田少佐と申します。」

--相手の情報も寄越さないとは、司令部は何をしていやがる‼--

黒田少佐は心の中で毒づきながら司令部の続報を待つ。


 その報告が来たのは、統合参謀本部で今月五回目の作戦会議を行っている時だった。

海軍と国防軍、内務委員会海上航路保安局による航路安全確認と海図の作成についての打ち合わせ、全軍の軍需生産品の在庫の確認、新しい生産計画の策定に現状の改善と多種多様な検討をしている最中に投げられたのだ。

 そして、転移後に早急に策定された規定にしたがって統合参謀本部兵站局と技術局、そして作戦局から選抜された軍人たちが、それまでの仕事を中断して会談予定場所である国会議事堂へと向かい始めた。

この時割り振られた参謀達は各局の最俊英であり、彼らは交渉の実務に当たる外務委員会の面々を専門家として支援する為に派遣されていた。


 現時点で形式上北日本は戦時体制(西側流に言えばデフコン1)にあることから統合参謀本部長は国内に待機する戦略爆撃機部隊と弾道弾部隊、帰投途上にある戦略原子力潜水艦部隊に再び攻撃準備を下命。

また、それ以外の通常部隊に対しても臨戦態勢を取らせた。

交渉決裂時には、完全機械化がなされた5個師団と1個空挺師団が、空海からの支援を受けつつボヘミア王国の王都ベーメンに雪崩込むつもり予定だった。


※1この世界の慣習的外交儀礼として、列強とその他の国々の外交関係では、原則列強に有利な不平等条約になる。具体的な例としては、使用する貨幣の制限(列強との貿易に用いられるのは、金貨か銀貨のみ。ーー列強間では銅貨も使用できるーー)、領事裁判権の保有、租界の設置。と列強にかなりの特権が存在する。これは国家間の取り決めであり、建前上は民間の組織である各種ギルドや商会間の貿易にも、不公平な取り決めや関税が設定されている。


※2防弾チョッキのこと。

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