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2、交換条件

で―――


ドンくさい女、日向野椿と2人・・・放置された俺は、どうすればいいんだろうか。


洋風居酒屋で、1時間ほど飲食をして。

顎スーツプロデューサーと赤ら顔小太りディレクターは、園田カオリをつれて帰った。

まあ、お持ち帰りなんだろうな。


とりあえず、会計をして店外までは、5人で出た。

そして、やってきたタクシーに手を上げて停め、顎スーツ達に声をかけた。

当然、東洋テレビ局が扱っているタクシーチケットを使えるタクシーを選んだ。


悪いねぇ、という顎スーツに、とんでもないですおつかれ様でした明日はよろしくお願いしますと、声をかけた。

当然、日向野も一緒にタクシーに乗るかと思ったのだが。

そのタクシーに乗ったのは顎、赤ら顔、園田の3人で、 俺と日向野はその場に取り残された。




はあ・・・どうすんだ、これ。


「・・・最初から、ここまでの約束だったのです。私は。」


俺の心の中を見透かしたように、日向野がそう言った。

俺はタバコを咥えると、日向野に送ると告げた。

カフェ勤務とはいえ、東洋テレビの関係だし、まさか女性をこのまま放置するわけにもいかない。

既に、10時だ。

だけど。


「大丈夫です。」


日向野が遠慮をしているのか、はたまた警戒をしているのか。

首を横にふった。


「あー、送りオオカミにはならないから。」


説得力もない言葉と自分でも思うが、もう、今日はそんな気持ちも起きない。

だけどそう言うと、日向野がクスリと笑った。


「私の家、鎌倉なんです。」


「あー・・・。」


まだ、電車は動いているが、送ったら俺が帰ってこられない。

横須賀の実家に泊まるというのもありだが、明日のことを考えると無理だ。


どうするかな・・・。


と考え込んだら。


「じゃあ、木村さんの家に泊まります。」


「・・・・・・。」


衝撃的な日向野の提案に、俺の口から、ポロリとタバコが落ちた。


「・・・・・・。」


「えーと、大胆だね・・・。」


平静を装い、タバコを拾う。

いや、日向野はかなりドンくさくて、結構変っているけど・・・華奢で、可愛いタイプで。

服装はジーンズにチュニックというシンプルな感じだが・・・綺麗な色使いで、清楚さとどことなく品があって。

つまり、タイプなんだが。

・・・いや、カフェで見かけた時から、ちょっといいな、とは思っていたが。


「うわ。下心丸出しの顔!」


棒読みで、ズバリ言われた。

その言い方が、あまりにも間が良くて。

小気味よくて。


「プッ・・・ククッ・・・。」


笑ってしまった。

すると、日向野もクスリと笑い。

何となく、2人の間の妙な緊張感がほどけた。


そして俺は、もうタバコを吸いたくなくなっていた。



「じゃあ、うち泊まるか?下心に頑張って蓋をして重しをのせるから。」


本心で、そう言った。

だけど。


「ごめんなさいっ。実は・・・鎌倉は実家です。本当は、この近くに住んでいます。」


「え。」


「・・・あの・・・この業界の人、遊んでそうだから・・・家が遠いって言ったら、ホテルに誘いそうだと思って。そうしたら、逃げようと思って。だけど、下心なく送ってくれるつもりだってわかったから・・・試すようなこと言って、すみませんでした。」


そう言って、また日向野は体を∩の字にして謝ってきた。


まあ・・・何となく、日向野の言いたい事がわかった。

彼女なら、誘いの手も多いいだろう。

そう言えば、飲んでいた時より口数が多い。

もしかしたら、わざとぶっきらぼうにしていたのかもしれない。


俺は、首を横にふり、ほほ笑んだ。


「いや、いい。それくらい警戒していたほうが、良いと思うよ。」


「怒ってないですか?」


「ああ、全然。だけど、近くなら送る。送りオオカミにならないから。本当は明日、ドラマの企画打合せがなかったら、マジ鎌倉まで送ろうかって思ったし。」


「えっ?」


「俺の実家は横須賀なんだ。だからそっち泊まってもいいと思って。だけど、明日その企画打合せにうちの社長も出るっていうから、一度事務所へ寄らないといけないから、時間的に厳しくて・・・で、さっき迷ってた。」


日向野が俺の言葉に驚いたように、無言になった。


そして、俺自身も驚いていた。

いつもの俺なら・・・日向野の言葉通り、ホテルに誘っていたかもしれないし。

鎌倉へ帰るというのなら、電車に乗るところまで送ればいいだけだし。

鎌倉まで送ろうなんて、考えもしなかったに違いない。


・・・って、ことは。

俺は日向野のこと、結構気に入っているってことだよな。





本当に日向野の住まいは近くて、表参道駅から近い高級マンションだった。

新しい建物ではないが、バブルの頃のものだろうか。

豪華な造りで、少し驚いた。

こんな高級マンションに住んでいるのなら、どう考えても向いていないウエイトレスのバイトを、なんでやっているんだという疑問がわいた。


礼を言う日向野に。


「よかったら、アドレスと携番教えて。」


自然に口にしていた。

また会いたいという気持ちに、戸惑いながらも。


すると、日向野が少し考えるようなしぐさをした。

それから、交換条件を飲むなら教える、と言った。


「交換条件?」


「ええ、私の携帯に、さっきのLAの空、送ってもらえるなら。」


日向野の交換条件は、また俺の心を揺さぶった。


「何で・・・そんなに、アレにこだわる?」


「え?」


「理由が知りたい。」


俺が、そう尋ねると。

日向野は空を見上げた。


「・・・LAの空は、特別で。あの、『青』を初めて見た時、パワーがみなぎって、幸せな未来が見えたので・・・すっかり忘れていたのですが、さっき木村さんの待ち受けを見て、あの時の気持ちを思い出したので・・・今、丁度、パワー不足だし・・・。」


日向野の言葉はそのまま俺に返ってきた。


俺も・・・LAの空の『青』に向かっていた。

あの時、 確かに感じていた。

パワーと幸せな未来・・・。


俺は、日向野に向き直った。


「交換条件に、オプションを付けていいか?」


「え?」


「アドレス+携番+デート。」


そう言って、俺はスマホをポケットから取り出した。






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