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おまけストーリー~黙っていられない(椿サイド)

実家がある鎌倉駅を通り越して、横須賀駅で下車した。

ホームへ降りれば、潮の香り。

でも、なんとなく鎌倉のそれとはどこか違う。


前にこの街に来た時は、啓太さんの車で来たから、この駅に降り立つのは中学の頃以来だ。

この街の記念病院に入院した、前年度担任の先生のお見舞いにクラスの代表で来た事がある。

結局、帰り道が分からなくなって、通りかかったタクシーで帰ったっけ。

今日は大丈夫だろうか・・・駅裏の道って、凄くわかりにくかったような記憶がうっすらとあるのだけれど。


来週から、船津プロの出張という形でLAへ行くことになった。

そのまま2週間むこうに滞在させてもらえる。

啓太さんがLAへ行ってから2ヶ月が経って、私も仕事に慣れてきた。

社長の心遣いで行かせてもらえるのだ。


それで、半年もLAに滞在する啓太さんへ言伝はないかと、弟の秋さんに連絡をしたところ、多分洋食に飽きた頃だろうからと、秋さんお手製の佃煮と梅干を持って行ってほしいと言われたのだ。


秋さんは板前だ。

それで、今日は午前中で上がらせてもらって、秋さんのお店のある横須賀まで取りに来たのだった。


やっぱり・・・。

最初に駅で、きちんと道を聞いておくべきだった・・・。

もう30分近く歩いているのに、何故か『若山時計舗』という古い看板を3回見た。

と、いうことは・・・同じところをぐるぐるまわっているのだろうか・・・。

啓太さんは駅から5分くらいだと、言っていたのだけれど・・・。

これは、道を尋ねた方がいい。


そう思っていたら、前方から1人の男性がやってきた。

歌を歌いながら・・・。

それも、何となく聞いたことのあるような歌。

どこで、聞いたんだっけ・・・?


「天にまします、我らのかーみよ♪我らに知恵をあたえたもぉぉ♪いんいちがいーち♪あーめん・・・・・。」


何かの宗教かな・・・やっぱり、聞くのはよそう・・・。

そう思って、その男の人とすれ違った。


だけど、再び『若山時計舗』の看板と遭遇した・・・これで4回目・・・。

一体どうなっているのだろう・・・ここはミステリースポットだろうか・・・。

そんなバカなことを考えていたら、またあの歌が聞こえてきた。


「天にまします、我らのかーみよ♪我らに知恵をあたえたもぉぉ♪しーく、さんじゅうはーち♪あーめん・・・・・。」


えええ?これ、九々の歌なの!?

あっ、そうだ!マリー女学園付属小学校で、九九をお覚える時につかっていた曲だ。

私は、早くに覚えたから、この歌は歌わなかったけど・・・。

でも、どうしてこの人が歌っているんだろう・・・。

物凄く気になったけど、なんだか聞けない雰囲気で、またすれちがった。


そして、5回目の遭遇、『若山時計舗』・・・。

あ、貴金属全品40パーセントオフなんだ・・・。

あんまり、新しいデザインじゃないけど・・・。


そんな事を考えていたら、また歌が聞こえてきた。


「天にまします、我らのかーみよ♪我らに知恵をあたえたもぉぉ♪しちーは、ごじゅうはーちっ♪あーめん・・・・・。」


「・・・・。」


さっきから気になっていたけれど。


もう、ダメ。

うん。

今度は、黙っていられない。


私は、勇気をもって、すれ違う時に声をかけた。


「あのう・・・。」


すると、男の人がくるりと振り向いた。

満面の笑みで。


「はっ、はいっ!」


「え・・・と、さしでがましいようですが・・・4×9=36で、7×8=56・・・だと思うんですけど?」


そう言うと、男の人は笑顔のまま、ありがとうございますっ!と、お礼を言った。

いや、大したことではないのに。

だけど、男の人は、とても嬉しそうに。


「ま、間違いを教えてくれたお礼にっ、お、俺もっ何かっ、お、しえますっ・・・み、道とかっ。」


「・・・・・。」


もしかして、この人。

私が、道に迷ったのを知っていたのだろうか・・・。

それで、わざと九々を間違えたの?

それで、ぐるぐる道をまわっていたの?


とても不思議で、優しい人だと思ったのだけれど。

まさか、その人が、啓太さんと秋さんの幼馴染だったなんて・・・。


それは、また別のお話で――





(おわり)




ここまで読んでいただきまして、ありがとうございました。これにて、『スカイブルー』完結です。が・・・実は、椿サイドで『スカイブルー2』に続きます。このおまけストーリーの後日椿がLAへ行った時から始まるお話です。そして、このシリーズは『ブルーシリーズ』として、丈治・綾乃をとりまく人のお話が続きます。続きも読んでいただけたら嬉しいです。この次は、『スカイブルー2』ですが、その前にひとつピュアな『ブルーシリーズ』を投稿したいと思っています。よろしくお願いいたします。

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