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二人の先輩

目が覚めるとそこには見慣れないブルーのカーテンが見えた。


「あ、目を覚ましたよ! レイ!」

「やーっと気付いたか。派手にやられてたからなあ」


殴られた頭を抑えながら起き上がると、見たことがある男女二人がいた。

ユウヤ先輩といた二人だ。顔は分かるけどやっぱり名前は分からない。

サークルで一緒だったことは確かなのに。


「えと……すいません名前……なんでしたっけ?」


随分と失礼なことを聞いたのに、二人は怒るどころか笑い出した。

男の人の方なんて相当面白かったのか腹を抱えている。


「やっぱ覚えてないよねえ」

「無理もないな、高橋はサオリしか見えてないから」


他人からそう言われると恥ずかしくなった。

でも、どうしてこの二人が俺を?


「もっと早く助けてあげればよかったね。ごめん」

「いえ、俺が悪いから……俺が……」


言葉に詰まると、女の先輩のほうがぐいっと俺の前に一枚の紙を突き出した。

ボロボロになってしまったビラだ。頑張って手で皺を伸ばした跡がある。


「それ、大事なんだろ?」

「……はい」

「次はとられないようにね」


そう言ってビラを俺に渡してくれた。

どうしてこの二人は俺に優しくしてくれるんだろう。

同期のサオリを傷つけた、クズな後輩なのに。


「しかしユウヤも滅茶苦茶だよな。怒るのは分かるけどさ」

「そうだよね。あ、私もサオリを傷つけたことは怒ってるからね?」

「は、はい」


やっぱり怒っている。当たり前だ。


「でも事故は高橋のせいじゃないだろ」


ふうっと長めのため息をつきながら男の先輩が言った。

ユウヤ先輩に頭を殴られてからの記憶がないけれど、どうやらこの二人が助けてくれたようだ。


「あ、あの」

「なあに?」

「ありがとうございます……」


俺が頭をさげると、二人はまた笑った。


「だって、ねえ?」

「サオリからずっと言われてたしなぁ」

「え?」

「ヒロトのこと、頼むって」


それは大学時代のことだそうだ。

俺もまだ大学に在籍していて、ユウヤ先輩に毎日何かしら言われた時。

何言われても平気な顔してたのが悪かったのか日に日にエスカレートしていた。

それでもまぁ、平気だった。

しかも陰で言われているから誰かに言ったところで生意気な後輩でしかない俺の話なんて誰も聞き入れてはくれないと思っていた。サオリにも、特に教えずにいた。


でも、サオリは知っていたのだ。

俺がユウヤ先輩に何かしら言われていたことも、それを誰にも言わずに隠そうとしていたことも。


「傷、大丈夫? 念のため病院行く?」

「ちょうど車もあるしな」


二人は、サオリから相談されていたという。

何かあったら助けてあげてほしいと。

そしてそれを、実行してくれたのだ。


「病院、行きます」

「はは、結構素直なんだな」

「こりゃサオリが可愛がるのも分かる気がするわ」


ゆっくり立ち上がり、外に出る。


「一つだけ、約束してくれ」

「? 何ですか?」

「……後追い自殺とかは考えないで」

「え?」

「サオリは高橋が死ぬなんて望んでないからな」

「ユウヤはああ言ってたけど、ついつい出ちゃった嘘だから」


良かった――サオリは、死んでほしいなんて思ってなかった。


「その代り、絶対毎日を一生懸命生きろよ」

「サオリをこれ以上悲しませないためにも」


男の先輩のその低い声は、

女の先輩のやわらかな声は、

じんわりと胸の中に広がっていく。



ねぇ、サオリ。

来週から仕事、始まるけど俺大丈夫かな。

ううん、何があっても投げ出さずにやりきってみせる。

もしかしたら愚痴を言うかもしれない。

泣き言を言うかもしれない。

交差点で、サオリに甘えるかもしれない。

それでも頑張るから。

現実から逃げてた分、人に遅れを取った分を取り戻すためにも。

――もう二度と、逃げないから。

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