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再会

――これは俺への罰なのか。


「彼女、どんな子だったの」

「別にフツー」

「"フツー"ならあんたみたいなチャランポラン相手してくんないわよ!」

「そうだぞ! 父ちゃんらはその子に頭下げて謝りたいくらいだ!」


車の中でも両親の説教は続く。

言っていることは尤もなので、反論の余地はない。


「もう会ってくれないだろ、俺には」

「そりゃそうだろうね。ほんとに、いるうちに連れてきてくれたらいいものを」


俺はサオリを、一度も実家に招いたことはなかった。

まだ大学生だし、そういうのは重いと思っていたから。

結婚するってなってから連れてけばいいと思っていた。

――まぁ、もう一生ないかもしれないけど。


車は住宅街を抜けて大通りに出た。

サオリと行ったスーパー、嘘ついてこっそり来ていたパチンコ屋、二人で大盛をたいらげた定食屋、喧嘩した公園……。

目に飛び込むものすべてに、サオリとの思い出があった。

少し前までは何とも思わなかったのに。


「そういや昨日、ここで事故があったんだってねぇ」

「へえ」

「結構大きな事故だったみたいよ」


十字路に差し掛かった時に、母親がそんな話をしていた。

確かに、警察車両が止まっている。

現場検証だろうか。

何の気なしにそちらを見ていると、俺は一つの影を見つけた。


「ちょ、親父! 車止めて!」

「は?」

「早く!!」


急いで車を止めてもらい、俺は外に出た。

事故現場近くの信号を渡り、先ほど見た影を探す。

間違いなければ――。


黒髪のポニーテール、白のティーシャツとデニムのジーンズ。

そして、長年履き続けたせいでボロボロのスニーカー。


「サオリっ――!!」


その声に、みんなが振り向く。

そして、ポニーテールを揺らして彼女も振り向いた。

少し日に焼けた肌、大きな瞳、ぽってりとした唇。

間違いなく、サオリだ。


「サオリ……! サオリ……!!」


俺はまた走って行く。

出て行って一か月も経っていないのに、もう何年も会ってないような感覚だった。

早く謝らないと、早く――。


「久しぶりだねっ! 元気だった?」


謝るより先に、彼女が笑顔でそう言ってくれた。

パッと向日葵が咲くような明るい笑顔。

サオリのこの笑顔が大好きだったのに、俺はその笑顔を消してしまった。

出ていくまでの数週間、サオリはずっと悲しそうな表情ばかりしていた。

こうして今更になって思い出す自分を殴ってやりたい衝動に駆られる。


「ごめん! ほんとに俺が悪かった! 殴ってくれて構わない! だから……」


精一杯頭を下げて謝った。大きな声で謝った。

そして顔をあげてサオリの顔を見ようとしたとき、あることに気付いてしまった。

どうしてみんな、俺のことを怪訝な顔をして見ているんだ?

そしてどうしてみんな――


サオリの体をすり抜けていくんだ?


「ヒロト、あのね」


優しい口調。優しい雰囲気。

サオリは間違いなく俺の目の前にいる。目の前にいるのにどうして遠く感じるんだ?


「ごめん。私、死んじゃったんだよねー」


無理して明るくふるまう時、サオリはいつも語尾を伸ばす。

そんなクセも、俺はちゃんと知っていた。


「うそだ……」

「……」


さっきの笑顔が消えていく。

どうして、どうして。


「うそ……だよな?」

「……」


サオリは何も答えてくれなかった。

警察は相変わらず淡々と仕事を続けている。

ああ、神様どうして。


――どうして、サオリだったんですか

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