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逃げない心

「どうしたのー? 元気ないんじゃねー?」

「いえ、大丈夫です」


あなたの言葉のせいだなんて、言えない。

昨日偶然見かけた先輩の言葉が頭に引っかかっている。

奴隷? 俺は今、先輩の奴隷として働いているのか?

考えれば考えるほど心にモヤモヤが広がる。


「あ、ほら電話だよー電話ー!」

「はい!」


何とかお客さんには悟られまいと、いつも以上に元気よく電話対応することを心がける。この電話対応も先輩からしたら奴隷にやらせてる雑用の一種なのだろうか。

――適切な研修だと、信じたい。


「んじゃ、お昼いってきまーす。あー、資料終わらせといてねー」

「は、はい!」


先輩が部屋を出ていくのを確認すると、思わず長いため息が漏れてしまった。


「ほら、言わんこっちゃない」

「あ……」


あわてて姿勢を直す。いつもお茶を汲んでくれる女性社員だ。

未だに名前は覚えていない。


「最近、あの人のせいでみんな一人前になる前に辞めちゃうのよね」

「え?」

「研修にかこつけて余計な仕事を押し付けて自分はいいとこだけ取っていく。それがあの人のやり方」


うんざりした顔で、女性社員がそう言った。


「君も、言いなりにばっかりなってちゃだめよ?」

「はぁ……」

「採用面接で言ってた言葉、信じてるから」


そう言って女性社員は向こうへ行ってしまった。

採用面接のとき、あの人はいただろうか。確かに女性が一人いた気はするけれど、それが今の女性社員だったのだろうか。


「俺、なんて言ったんだっけ……」


 当時はとりあえず就職しなきゃと思って、サオリに心配かけさせないためにも早くしなきゃと心配だった。だから、出まかせを言っていたのかもしれない。


「うーん」


 考えながら、俺は先輩に頼まれた資料作成に取り掛かる。

 今日も、お昼休みはゆっくり取れそうにないな。そう思ってがさごそとカバンを漁っておにぎりを取り出した。素早く包みを剥がして口に入れる。

 そう言えば、サオリはニートの俺のために昼ご飯を用意してから会社に行ってたっけ。今考えれば大変だっただろうに。


『たくさん食べな!』

『足りる?』


 大きなおにぎりと、ふわふわの卵焼きや唐揚げ、野菜炒め。自分の弁当の残りだけどと言っていたけど、それでも嬉しかったし、ありがたかった。

 俺には到底できない。だからこうしてコンビニのおにぎりで済ませてしまっている。


「さて、もういっちょ頑張るか!」


おにぎりを食べ終わり、包みをゴミ箱に捨てて再び机に向かう。

その時だった。


「はーマジ最悪なんですけどー!!」


お昼に出たはずの先輩が、不機嫌な顔をして戻ってきた。

目が合うと、途端に表情を変えて睨んできた。


「君のせいでお客さん怒っちゃったじゃん! 今から謝りに行って来てくんない?!」

「え……」

「早く! 駆け足! 俺のことは出すなよ? あくまで君のミスだから!」


そう言うや否や無理やり立たされ、カバンと地図を持たされてドアの方に追いやられた。

どういった理由で怒ったかも聞かされずに初めての顧客訪問となった。

情けないことに不安で足が震えている。


俺は、何のミスをしたのか。

やっぱり、俺は社会に向いていないのか。

例え自分の責任であっても、怒られるのは嫌だ。


「なんて、甘いよな……。しっかりしろ! 逃げるな!」


自分のメンタルの弱さと甘ったれた根性を吹き飛ばすように、両手で頬を叩く。


「やるしか、ないんだ」

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