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近くの悪意

「よろしくおねがいしまーす!」

「些細な情報でも構いませーん!」


PCに保存しておいたビラのデータを呼び出して何枚も印刷した。

平日は会社で仕事をして、土日はこうして事故現場で情報提供を呼び求めた。


「……消えろって言っただろ」

「嫌です」

「まぁまぁ。ユウヤも高橋も落ち着け。なっ?」

「お前らはこのクズを応援するのかよ!?」

「そういうことじゃないでしょう。目的は同じなんだから協力しなさいよ」


案の定、ユウヤ先輩も情報提供を呼び求める運動をしていた。

俺は街頭での呼びかけとは別に、インターネットでも情報を募っている。

それでも、有力な情報は今日までない。

トラックを所有する会社にも連絡したが、あの事故をきっかけに夜逃げしたらしい。

それもあって会社社長は指名手配されている。


「今日も収穫なし、か」

「……」


各々の落胆の声が漏れる。

無言のままその日も解散となった。



「あー高橋くーん、電話ー」

「は、はい!」


会社では相変わらず電話応対に追われている。

笹山さんの教えもあって大分慣れてきた。

新規のお客さんからも質問にも答えられる。

とは言ってもまだ一人前ではないので訪問やらは笹山さんが行ってくれる。


「お疲れさーん」

「お疲れ様です!」


いつもと同じように笹山さんが退社した後。

残りの資料の片づけと商品の勉強をしていこうと座り直すと、一人の女性社員が近づいてきた。


「お疲れさま。いつも遅くまで頑張ってるね」

「あ、お疲れさま……です」


俺より五つは年上だと思われるその女性社員は、商品勉強をしているといつもお茶を汲んできてくれる。申し訳ないので一度は断ったのだけど、頑張っている新入り社員のためならこれくらい当然だと言ってくれた。

でも、未だに俺としたことが名前を覚えられずにいる。

先輩たちの言う通り、本当にサオリ以外の人の名前は覚えられない。


「どう? 慣れてきた?」

「まあぼちぼち、ですが」

「そっか。良かった」


置かれたお茶をぐいっと一気飲みし、また机に向かう。まだ働き始めて二か月だけど、覚えることが多く手書きの商品勉強ノートはすでに三冊目に到達していた。


「あんまり無理しないでね」

「ありがとうございます。でも、頑張るって決めたんです」

「え?」

「い、いや何でもないです」


危うくサオリについて話しそうになった。

きっと話しても問題はないのだろうけど、話し出すときっと泣いてしまう。

会社の人を困らせるわけにはいかない。


「ま、ほどほどにね」


そういうと女性社員が立ち上がり、ぐっと伸びをした。


「あ、そうそう一つアドバイス」

「なんでしょう?」


聞き返すと、女性社員はきょろきょろ辺りを見渡し、ドアの方を確認した。

どうやら本当にだれもいないことを確認したらしい。

無事を確認し終えると、小声でこう話してきた。



「笹山さんには気を付けて」

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