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さよならアパート

「もうやってらんない! 出てく!」

「おうおう! 好きにしろやバーカ!」


財布と携帯だけを持って、あの日彼女はアパートから姿を消した。

今でも彼女の私物がここには溢れている。

大事にしていた服、お揃いの食器、お気に入りの本……。

すぐに処分してやろうと思ったのに、結局俺は躊躇ってしまった。

そして今日。彼女名義だったアパートを、俺はついに追い出されることになった。


「全く……人様に迷惑かけんじゃないよ、この馬鹿息子が!」

「いてーな! 殴ることないだろ!?」

「本当なら半殺しにしてやりてぇぐらいだ!」

「いたい! いたいって!」


両親に怒鳴られ、頭を叩かれながら荷物を運び出す。

彼女のものも、全部。


「お前みたいな馬鹿と結婚しないで彼女さんも正解だよ」

「うっせーなあ」

「口答えすんじゃねえ!」

「だから痛いって!」


何もかもを運び出し、広くなった部屋を眺める。

ワンルームの狭い部屋に、二人で住んでいたんだなと思うと同時に、彼女との思い出がするすると蘇る。


『親と喧嘩したんだって? うち泊まっていく?』


俺より二つ年上で、姉御肌でみんなに慕われてた彼女。

付き合うとか直接言ったことはなくて、気付けば居心地がいいからとことあるごとに彼女のアパートに遊びに行って、そこからはもう成り行きだった。周囲の友達も、しっかり者の彼女と頼りない俺である意味お似合いだとも言ってくれていた。


『学校辞めちゃったの? あたしが卒業するまではいてほしかったなー』


家にいたら勉強しろだの就職はどうするんだの言ってくる親がうざくて、二、三時間程度の滞在が半日に、半日が一日に、そして気付けばこのアパートに住み着いていた。

それでも温かく迎えてくれた。

帰れなんて一言も言われなかった。


『このゲーム面白いねぇ!』

『あはは! またパチンコ負けたの?』


バイトもせず、彼女のPCでゲームしてだらだら過ごしても、病院行きたいからって嘘ついて彼女に金を借りてギャンブルをしても怒らなかった。ここにあるゲームも、俺の私物もほとんどはもう就職して働き始めていた彼女のお金で買ったものだ。


完全に、俺は彼女に甘えきっていた。頼り切っていた。


『ごめん、今月ピンチだからお金、返してくれない?』

『え? あー、そのうちね』


そうやって誤魔化して。彼女を金づるにしている自分がいた。

彼女のことが好きなのは本当なのに、心のどこかで都合のいい女だと思っていた。

優しいから何をしても彼女が自分から離れていくことはないとタカを括っていた。

だからあの日、彼女が今までの思いを爆発させて出ていくと言った時も、俺は偉そうに……。


「準備はいいか?」

「……いいよ」

「じゃあ出発するぞ」


父親が運転する車はゆっくりとアパートを出発する。

出て行って以来、彼女とは連絡を取れていない。

何度か謝ろうとして電話をしたけれど着信拒否されていた。

メールもだめだった。大学を中退して彼女の家で過ごしていた俺は、完全に世間から取り残されていた。友人だって気付けば俺を見切って遠ざかって行っていた。



”彼女がいるから大丈夫”



なぁ、サオリ。

俺、ずっとサオリに依存して生きてたよ。

彼氏面して、ずっとひどいことしてきた。

彼氏じゃないよな。ヒモだ、ヒモ。

自分が情けないよ。こんなんなるまで気付けなかった。

本当はもっと、サオリのこと大事にするべきだった。

サオリが優しいからって、子どもみたいに甘えてサオリを傷つけた。

お金だって全部全部返すから。

今までのこと全部悪かったって謝るから。


だから――戻ってきて、サオリ。


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