外伝9話 過去の遺産 前編
アースティア暦1000年・5月12日・午後12時30分頃・アースティア世界・ユーラシナ大陸・ユーラシナ大陸中央部地方・シベリナ中央地方・ダバード・ロード王国・アルインランド州 州都・ベルクラネル市郊外・アイリッシュ湖・ガイダル諸島・ガイダル本島・旧ロード・コスモ資本連合国ガイダル諸島空港遺跡にて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
あれから10日かけてアイリッシュ湖畔ガイダル諸島調査団は、シェスカーナ・フローレイティア率いるフローレイティア輸送商船商会の私設商船艦隊で、ダバード・ロード王国のアイリッシュ湖の中央に位置するガイダル諸島に在る旧ロード・コスモ資本連合国ガイダル諸島空港遺跡へと到着して居た。
船はガイダル諸島の中心の島であるガイダル島の北側の岸辺に輸送艦を着水して、今は荷卸しの真っ最中であった。
「しっかし、見事に廃墟と雑草に雑木林だけだな。」
調査団の警備隊長として派遣された陸自の佐々木正也一等陸尉は、見渡す限りの廃墟と無人島の風景を見た感想だった。
調査団が降り立ったガイダル島は、大阪湾の海上に作られた関西国際空港が二つ分くらいの広さが在った。
陸地から17キロ離れた所にあり、誰も住んでいないらしい。他にも似た様な島々が点在して居るが、アイリッシュ湖は横に長い広さの湖で、地球世界で言えば、カスピ海と似たような広さだった。
ガイダル諸島調査団と改修工事を請け負う日本建築企業会社の連合団体は、先ずはガイダル島の調査と開拓をし、然る後に飛行場を整備する計画をしていた。
「佐々木一尉、先ずは我々自衛隊が、周囲の様子を見て回りましょう。」
「そうだな。幾らここが王国領内で安全だと言われても、無断で住み着いている奴が居るかも知れないしな。」
佐々木一尉は、副隊長として派遣されて居る前田一尉の意見を聞き入れた。
それに盗賊の類が住み着いてたら大変だからである。
それに改築工事の為に派遣されている民間人も居るのだから、安全を確保するのは、護衛として派遣された自衛隊の務めなのだ。
ちなみに政府の職員を始め、異世界の外地に出向く、又はその逆も然りなのだが、臨時立法が制定されていた。
新世界出入国防疫管理特別法と題して、国会で4月中に可決された法律が在った。
約1年の間、日本から出入国をする官民と海外からの来客とその他の我が国を来訪する人間は、全てに措いて例外なく、防疫検査と予防接種が義務付けられて居る。
新世界での病原菌への耐性が地球と同じレベルであると証明されるまでの間、この処置が取れる事とが決まって居る。
転移した年の4月を起点として、毎年4月に更新され、数年を掛けて調査される予定だ。
この事に関連する事と、治安の問題から地球系国家の新世界の大陸への渡航制限が日本の主導で各国へと呼び掛けられて居る。
今の所、各国の反発は無く。日本政府の許可と要請された人物のみが、仕事の為に大陸へ渡航している。
官僚も自衛官も学者も船乗りも建築業者も関係無く、この処置が取られて、誓約書にサインと専用の生命保険を掛けられた上で、コヨミ皇国等に派遣されて来て居るのだった。
その参考事例として、2020代初頭のコロナ対策を参考にして居た。
法律違反をすれば、強制送還され、隔離処置と裁判をした上で、懲役刑が科せられる事に成って居た。
「それなら私達も付き合う。」とシェスカも島内偵察活動に名乗りを上げた。
「シェスカさん。」
「出立まで数日も有るしな。今の時期は動植物に危険な類は居ないが、貴方達には知らぬ土地だ。客に怪我をさせたと有ったら家の信用にも関わるしな。」
「有難う御座います。」
シェスカも剣や弓などで武装した30名の商会社員として勤めている陸戦隊員を率いて島を見回る事にした。
佐々木一尉は、施設科の隊員に上陸地点付近の草刈を命じて、ガイダル島を30名の隊員と一緒に一周する事に成った。
陸自隊員達が草刈り機や鎌で、雑草を刈り取りながら進みつつ、シェスカ達フローレイティア輸送商船商会の面々は、貸し出された斧や鎌で、草や木を切り倒しながら島の中央へと進んで行く。
「切り倒した要らない木は、此方で木材として売り出して処分して置こうか?」
「はい、それは助かります。お願いします。」
「雑草は乾燥をさせてから焼いてしまえば楽だろう。」
「しかし、空から見た限りでは、飛行場の施設以外は木々に覆われて居ますね。」
「資料で見たのだが・・・・何せ、最低でも400年間は、放って置かれて居た所だ。」
「全く手入れはされて居ない。施設は錬金魔法の固定化と言う魔法で、劣化だけは辛うじて防がれて居る様に見受けられる様だな。」
「固定化魔法ですか?便利なものですね。」
「そうでも無いぞ。魔力の燃費や使用制約に問題が多い。」
「連続しての使用にも弱いからな。」
「その点、科学を使用した機械式の物の方が効率が良い。」
佐々木一尉とシェスカは歩きながら、魔法の便利さと不便さ付いて話し始めた。
「でも驚きですね。此処に来るまで間、船の中でお聞きした昔の話の中に、まさか科学超大国が、かつてこの地に転移して来て居たとは・・・・・・」
「それも3度の大戦で国力と技術力を磨り減らし居てな。今じゃ劣化品と消耗した生き残りの骨董品が生き残って居るだけだ。」
「しかし、シェスカさんの乗っている船の艦名が確か・・・・ベィビィ・ウルフですか?茶目っ気のある名前ですね。」
「なんでも初代の当主をしていた人物は、艦長もやって居てな。しかも女性だったらしい。」
「だから船のエンブレムが子供の狼なんですか。」
「可愛い物が趣味だったとも聞いて居るな。」
(昔の機械文明だったと言う国家の文化的な事柄は、我々と近いかも知れない。)
「おっと、どうやら目当ての場所に着いたらしい。」
「その様ですね。よしっ!!もう少し道を広げよう、自動車が2台分通れるくらいは欲しい。」
「野郎どもっ!!お前達は、その辺の木と切り株の排除とテント設営だっ!」
「「「「「おおうっ!!」」」」」
フローレイティア輸送商船商会の面々は、シェスカの命令を何故か喜び勇んで粛々と遂行して行った。
人力で広げられた所に、連絡を受けた施設科隊員と民間の作業員が機材を移動させて来ていた。
中型ドーザ、資材運搬車、道路障害作業車、32.2tトラック(作業車付)、特大ダンプ トラック・クレーンなど、それほど多くは持ち込んで居ないものの、作業効率を上げるのに、これ程の強力な味方は居ないだろう。
作業は順調に進んで行き、夕刻までに車両が通れる様に成った。その日の作業は取り合えず、夕方で終わる事と成った。
夕方、施設科と需品科が中心と成って設営したテントや屋外に仮設自由宅、仮設指揮所に、仮設保養施設が建てられて居た。
更に次の便で設備や資材に必要な物を送ってくれるとの連絡を受けていた。
食料は生鮮品は現地で、調味料やその他に足りない物は日本が、契約提携した輸送商会を通じて送る予定でいるとの事だった。
シェスカはベースキャンプの施設の充実ぶりに舌を巻いていた。
「これは凄いな。」
「ささっ、シェスカさん、食事まで時間が有りますから、お風呂でもどうですか?女性専用ですから安心してください。」
「あちらには洗濯機も用意して居ます。勿論、家の女性隊員が選択を引き受けますので大丈夫です。」
シェスカは佐々木の説明を受けて、用意された機材に目をやった。
「有り難い。食事だけでなく、洗濯や風呂の用意まで有るとは、思っても居なかった。」
普段の彼女達は、船旅の最中は寄港地でも、水浴びが当たり前だった。飲み水が貴重だからである。
「でも良いのか?水は貴重な筈だろう?」
「ああ、それですか?あれをご覧ください。」
「これは?」
「浄水セットです。これで湖の水を濾過して使います。」
「でも此処の湖の水って結構綺麗なんですね?水質の透明度が我が国と段違いです。」
「念の為に濾過はして居ますが・・・・・・・・」
佐々木一尉は、浄水の担当していた隊員から水が汚染されて居ないとの聞いて驚きの声を上げたと言う。
シェスカが良く見ると、自衛隊はトイレだけではなく、下水処理装置まで持って来て居たらしい事に感心する。
最初はやたらと重い荷物ばかりを載せるなぁ~と思って居たが、此処まで作業機器や生活に必需機器を持って旅に出る輩は、この世界でも余り居ないだろうと感心して居たシェスカ。
「浄水装置だけでは無く、下水処理装置まで備えてあるのか?これらは幾らあれば買えるのだろうか?」
余りにも便利に器具を目の当たりにして、思わずそれらの機材が欲しくなったシェスカであった。
彼女は船団の女性団員共に、脱衣所で服を脱いで仮設浴場へと向う。
結構な広さで、体を洗ってから入る様にと女性自衛官から説明を受けていた。
国によって浴室の使い方が微妙に違う。
シェスカの国では入浴剤に石鹸の粉が入った物を風呂に入れた泡風呂が主流だった。
彼女は、此処で始めての日本式風呂を体験したのであった。レバーを回せば、お湯と水が出るシャワーと蛇口、近くには洗浄用のスポンジが置かれていた。
それにボディーソープと言う液体石鹸を付ける様にとの使用説明も有った。
自衛隊員等が、最初に暦文字(コヨミ皇国語と日本語の事)は読めるかと聞かれると、暦文字とユールッハ語(英語似た言語)の両方が読めると答えると、風呂場の道具の使い方を教えてくれたのである。
因みにユールッハ語とは、英語似た言語で、ユールッハ地方が発祥地。
世界の共通語としても使われて居る言語で、日本国を始めとする地球系転移地域では、翻訳が楽だと言って居た。
シェスカは日本人に抱いた印象は、とても真面目で気遣いのできる人達と感じて居た。
そして、彼らが使う物は、とても便利で使い易さを主軸に置いて居ると言う事を感じたのだった。
シェスカが体を洗い始めると、湯船の中でコソコソと覗き見つつ、ヒソヒソと話す女性団員達が居た。
彼女たちは、普段はフローレイティア輸送商船商会の従業員として働き、戦時には兵士としてシェスカ元で戦う者達である。
その子達が、シェスカを厚い視線を送りながら見ていた。何を隠そう、シェスカは困った事に男女共にモテる女性だった。
そう、此処に居る女性達は、百合的な目線で見て居るのであった。
「ああ、今日もシェスカさまは、お綺麗ね・・・・・・・・」
「はぁ、白いキメ細かいお肌がお美しい。」
「何時かあの方に抱かれたいですわ。」
終いには「きゃあぁーーーっ!!」と言う奇声を上げるお約束を言うのである。
それを遠巻きに聞いている本人は、周囲から自分がどう言う風に見られて居るのかを多少なりとも知って居た。
だが、自分の彼氏に成りたいなんて言う奇特な輩は居ないだろうと思っていた。
性格は兎も角、好かれる異性と同性が有る意味、変態な人達が多かった。ドSな雰囲気と性格のせいで、寄り付くの変わり者が多くて困って居るのだった。
「はぁ。」
スタイルと顔は悪くないのに、如何して彼氏が出来ないのだろうと目の前の鏡に映る自分を見て思った。
プルンと揺れる胸に引き締まったボディライン。クールで気の強いツリ目の整った顔立ちに美しい銀髪。
この何処に欠点が有るのだろうとシェスカは思った。
紅葉の友人達は、何れも美人揃いだが、彼女達には男友達が居ない。略せば「はがない」何て冗談めいた言葉にも成るだろう。
それくらい男っ気が無かった。
それに彼女達は、全員が見合いだけは、絶対に嫌だと言う始末だから、何れも自立して働きながら生きている道を選んで居た。
「ふぅーっ・・・・・・」
やがて全ての事を終えて湯船に使った彼女は、それまでの悩みを吹き飛ばす物だった。
此処まで贅沢に、文字通りに湯水の如く使う言葉がピッタリな風呂に、暫し身を委ねるのである。
風呂から上がると、食事が要されていた。
指揮官である佐々木が、仕事に差し支えある者以外は、飲酒の許可が言い渡された。
その言葉に全員が喜び、楽しい夕食と成った。
シェスカも日本酒や神獣の絵が入っている麒麟・ラガービール社製のビールを飲み干していた。結構、飲み易いとも述べている。
出された食事も大満足であったと言う。シェスカ達は4日間滞在した後に母国へと帰国の途に着いたのであった。