18話 ゼロから始める異世界の外交政策 3
アースティア暦 1000年・西暦2030年・4月18日・午前9時15分頃・ユーラシナ大陸・ユーラシナ大陸東側地方・コヨミ半島・コヨミ皇国・万代藩・万代港にて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
この日、コヨミ皇国への使節団の現地入りの準備と現地の港や街道の改装と建物等の改築作業の進捗状況の視察も兼ねて、日本国の各省庁の職員達は、外務省職員達を筆頭とする先遣視察団を現地入りさせて居た。
外務官僚である藤原敬二を始め、外務省から5人。
防衛省を除く各省庁から1人づつ派遣されていた。
現地に到着した一行は、作業現場を監督する経産省から派遣された常駐している官僚と職員らは、日本からやって来た視察団一行を出迎えていた。
「見る限り、聞く限りでは、万代港の増改築作業は順調ようだな。」
「はい。万代市の東地区に5キロしかなかった貿易港と漁港の港を一気に近代化改装する為に、コヨミ皇国の力仁国皇陛下と藩主の愛海さんには、かなりの便宜を図って貰って居ます。」
「この万代市再開発計画の為に、元々在った地元の照会の貿易船と漁民達の漁船等の船は、万代市から北へ30キロ離れた所に、仮設の事務所と倉庫に港を用意して、其処へ移って貰って居ます。」
「そうでもしないと、日本のコンテナ船や護衛艦、客船なんかは万代港には入れないからなぁ・・・・・・」
「ああ、そう言えば陸運でも揉めて居ると聞くが・・・・・・・・・」
「はい。陸運輸送には、トラックでの輸送か馬車での輸送するかで地元の運送商会とで最初こそは縄張り争いの様な形で揉めて居ましたが、双方が協議を重ねた結果。」
「大きな貨物はトラックで、中軽量の貨物は重量と移動距離に応じて馬車かトラックを選べる様に成って居ります。」
現在の万代港再開発改築に伴う、国内・海外交易を生業としている商会等の経済活動に支障を来す事に関して、日本政府は色々と手を打って居る様である。
その為に商会・漁業協同組合・漁業作業小屋・船舶・水産加工所・倉庫街等の港関連の施設の全てを北へと引っ越しをさせている。
これは一時的な処置の積りだったが、移動させられた商会や漁業組合の者達から、いっその事自分達が指定された地区へと引っ越し、空き地と成る場所を公共の共用港にしたいと言って来ていた。
当初は商人も漁師も巨大な鉄の船で乗り込んできた見知らぬ国家に立ち退きを言われ、港を増改築に改装工事をすると言われると。
プライドの高い者達を中心に「勝手な事をするなっ!」怒鳴って万大港再開発説明会の会場は紛糾してしまう。
特に港の一番良い立地たる土地を持って居る大商人達らは、物凄い剣幕で猛抗議をして来て居た。
そんな中で、日本の説明会が開かれたが、「そんな事は知るか」と叫んで聞く耳すら持ってくれない。
其処で国皇たる力仁と藩主の愛海の勅命状が見せられると、水戸の御老公の印籠の如く、日本の外務省官僚と経産省官僚達等に平伏したのである。
特に勅命状を持って居た経産省の官僚の一人は「何か水戸黄門の印籠を見せつける様で気分が良いなぁ。」と言っていた。
そして、落ち着いた所でパソコンをプロジェクターに繋ぎ、スクリーンに映し出されて再開発の大まかな説明を開始した。
日本の技術と工事後の経済効果をが分かると、商人と言う人種は現金なモノで、その態度が180度ガラリと態度が転換した。
商人達は個人で所有し、使っていた港の船着場を無償提供して来たり、寄付金や所有している鉱山や木材を売り込んでくる始末。
挙句の果ては、食料品の売り込みは勿論、労働者の口利きまでして来たのであった。
「漁民に対しても、日本式の漁港施設を仮設ですが建てて居ります。」
「設備としては屋根付きの市場と関連する倉庫に加えて、水槽と冷蔵庫を完備させており、これらは我が国や前世界に置いても大変に好評を頂いて居ります途上国支援プロジェクトを基にしたマニュアルを使った支援策で整えました。」
「また、電力の供給には太陽光パネルを用いた太陽光発電を設営して居ます。」
「それと海風の強い地域ですので、大型と小型の風力発電の風車を持ち込んで建設を進めて居ます。」
「足りない分は火力形式の発電機を持ち込んで電気の供給を予定しており、その燃料はアセアン地域とロシアのサハリン州(樺太)からのガスと油田を供給させる事で、コヨミ皇国の万代港と加古島港近辺だけなら再開発と日常生活に必要な電力が賄う事が可能だと試算が出て居ます。」
「それが今現在のわが国の限界か・・・・本当なら加古島港と同時にすべきなんだが、我が国の平和使節団がコヨミ皇国を訪れる為の再開発だからな。」
「早期に国交開設を進める為、首都との往来性を高める利便性を早期に確立する事を考えたのならば、首都に近い万代港を優先するしかない。」
「それに万代市の今後は、北方の国々との貿易港としての役目を担う要所に成り得るハブ港だ。」
「この町に繋がる街道を日本式の道路にすれば、その流通網は、このアースティア世界の国々に取っては、革新的な革命の時代を迎えるだろう。」
経産省の案内係を務めて居る官僚の説明が概ね終わると、藤原は今後の事を呟いた。
嶋津家が治める南西国藩の主要港である加古島港の開発は、九州の企業を中心に行う第二次計画となっていた。
加古島から沿岸沿いに日本式の道路を作り、日本からの物資を滞りなく流通させるのが狙いである。
万代市だけだと、貯蔵する倉庫の満杯に成った時に困るからだ。
運送に関しては万代市の周辺で、80キロまで運送可能な地域までを日本のトラック運送業者が試験的な形で輸送業務が出きる様に成る予定。
伊達愛海は、日々の港の様変わり様を見て例の「ぼろ儲け」の扇を片手に仰いでいる姿は目に浮ぶ様である。
汚水処理とゴミの処理は、現地で処理出きる物は仮設の建物を建てた上で、専門の業者が来て運営をして居るし、如何しても処理出来ない廃棄物は、日本との往来で来ている貨物船で対応して居る。
飲料水を使う為の浄水設備は、仮設設備での対応で何とかして居るが、本格的な下水処理やゴミの焼却場などの建設をし終えてから、稼動させる事と成るのは、今しばらくの時間が必要であった。
日本政府は、万代市の沿岸部の周囲30キロを巨大な港へと変貌させる積りである。
概ねの準備が整えば、自衛隊と使節団の本隊がやって来て、コヨミ皇国の皇都へと向う予定に成って居た。
港での視察を終えると、藤原達一行は、今度は万代青葉山城に向うのだった。
この城の主にして、万代国藩主たる伊達愛海との会談の為にである。
登城すると案内の者が、愛海の住まう城の北側に位置し、遠くには北風川の流れる風景が見える奥の殿へと案内された。
そして、奥の殿へと案内された一行は、とある一室に通される。
藤原達は、部屋を見渡していた。
「見事な彫刻だな。」
「はい。我が国でも、一流の彫り師でもない限りは、こんな立派な物は出きませんね。」
彫刻の色使いも、これまた彩り彫りの鳥や竜の木彫りは、日本の蛇みたいな中国風の竜でなく、ファンタジー風の不死鳥や竜が彫られていた。
「こんな所が異世界だな。」
「ええ、我が国だったら何かの冗談か、職人が遊びで作ったか、オタクに頼まれて特注で作らされたと言われるかも知れませんね。」
部屋には畳みが張られており、中央には木彫りの彫刻が施されているテーブルと椅子が置かれていた。
伊達愛海、彼女はこの地方の藩主にして、コヨミ皇国の海外貿易の実に3・4割の売り上げを牛耳って居ると言われていた。
伊達家だけの資産もかなりの物であり、北から南の交易拠点の中間地点でもある万代市の土地をフル活用している女傑でもある。
なので、この部屋の金の掛かり様は、伊達家の実情を知って居れば、納得の行くものであった。
他の調度品も高そうな物ばかりと見回して居ると反対の襖が開いた。
其処には、この国の武士や支配階級層の女性の間では一般的な格好であり、その服は日本で言う所の時代劇で男装している女性と言った感じの格好していた。
もう少し分かり易く言えば、大正時代や明治時代あたりの若い女性の衣装に近いのである。
小刀を腰に提げ、藍色上着に黒の袴姿の愛海が部屋に入る。
一歩後ろには、ポニーテールの髪を結った、二十代半ばと思われる女性が一緒に入って来た。
「よこうこそコヨミ皇国へ。そして、我が万代藩へ。私が万代藩を治める伊達家当主の伊達愛海よ。さぁ、皆さん、どうぞ席にお座りくださいな。」
愛美は、一瞬ニヤリと笑った。
「ありがとうございます。視察団の代表で藤原敬二と言います。」
藤原は落ち着いて居たが、内心は不意を突かれていた。
そして、官僚らは慌てて座るのであった。
愛海の部屋の調度品や彫刻などに見入って居た所を不意を付かれた感じでの彼女の登場。
それに慌てしまうの事を予め計算して居るかのような振る舞いでもある。
ぶっちゃけて言えば、愛海は油断を突くかのようにして、狙って入って来たのである。
愛海の悪癖で、客や知人をからかうのが趣味であった。
そして、外交でも同じく。
でもこれは彼女に取っては計算の内であり、相手のペースを乱れさせて自分のペースに持ち込んだり、堅くて息苦しい雰囲気をふち壊す為のパフォーマンスでもあった。
でなければ、藩主と商人の二足の草鞋は務まらないと、普段から豪語して居るのが伊達愛美と言う女藩主なのであった。
流石は一代で巨万の富を得て居ると言う、彼女の処世術でも有るらしい。
「今日は万代港の工事の視察と聞いて居るわ。」
「はい。見聞きした限りでは、順調に工事が進んで居るので安心しました。」
「ええ、此方の方もお陰さまで、私の懐も藩財政も笑いが止まらないわ。」
日本の官僚達らは、愛海の濃いキャラに呆気にとられ、汗が何故か噴出していて、こう思った。(この人、絶対に何かがヤバイ)とね。
特に藤原に同行している外務官僚らは、自身の外交官としての経験で得た感が危険を訴えていた。
藤原は、この手の化物染みた人物の相手にするのを慣れて居るのか、落ち着いて話していた。
「お若いのに、中々のご手腕と聞いて居ます。」
「ニホンの会社とか言う商会組織には負けるわよ。是非とも、その経営方針やその手腕を習いたいわね。」
「国交が正式に成りましたら留学でも為さいますか?」
「それも面白そうね。」
この二人の会話が何故か怖く感じる日本の官僚達。
その場での彼らの心の内では「ばっ、化物が二人も居るうううぅぅぅぅーーーーーーっ!?」と心の中で思っていた。
「さて、今日は貴方達との挨拶と打ち合わせね。と言ってもニホン使節団のコヨミ皇国入りは、何時頃の予定かしら?」
「来月には自衛隊機地の主要な施設と港の中心地での改修と改築が終わりますので、5月の上旬には可能かと考えて居ます。」
「完全な形での最終的な工期の完了予定は、7月を予定しております。」
「じゃ、その方向で話を進めて良いわね。5月位までには、此方のゴタゴタも形が付くと思うわ。」
「噂に聞く例の御前会議ですか?」
その時、藤原の細目の眼光が見開いた。
「ええ、コヨミ皇国内の情勢は複雑なの。南と東の諸侯は纏まって居るのよ。」
「でもね・・・北西は反対派。北側と西側は中立か日和見が主なのよ。」
「ホンと困った物だわ・・・・・・」
コヨミ皇国の北西に領地を持ち、数多くの要塞と城塞都市を抱え、帝国やドラグナー皇国を通じて南方と西方貿易を藩政の税収入の基盤とし、貿易その物を藩の生業として奨励している領主達。
その者達は、帝国の国力と軍事力に圧倒されて、半ば降伏に近い形での講和をしようとして居た。
巷の噂では、既に懐柔されているとの噂が絶えない。
北西地方の領主達は、自尊心と自立心が強く。
中央からの離れている事も有ってか、皇国の国政に関心が無く、自分達の土地を守る事だけに執着して居た。
西方はどっち付かずで、戦には巻き込まれたくないとの考えが有るので、中立派閥が多く占めていた。
勢力図の主な人物は以下の通りである。
北条正成・相州国藩主。講和派筆頭で、帝国とは皇国の皇女を嫁に差し出して独立を保つべきだと言って居る。
コヨミ半島の境に相州城と言う総構え形式の要塞を持って居り、西北貿易の利権で西側領主派閥勢力の中でも、かなり財力を持っている。
永尾憲重・北越国藩主。講和派で、皇国西側の大陸内部に広大な領地を持つ隣国の相州国との関係から講和を訴えて居るらしい。
金・銀・銅・鉄の鉱山と豊かな水源に恵まれて米所として知られ、精強な兵力が2万人を有している。
龍泉寺貴信・皇国の北に位置し、大陸側領地を持つ飛膳国藩主。
帝国と内通し、講和を探っている和平派の一人で、飛膳五虎将と呼ばれる一騎当千の武将が使えて居るらしい。
以前は四天王とか言ってたが・・・・何故、5人なのと様々な所から突っ込みめいた事を言われて、その名を改めたらしい。
鍋島直美・飛膳国藩の東側に位置する比護国藩主で、コヨミ皇国内に措いて、大名家当主を務める女当主の一人。
龍泉寺とは古い親戚関係である為、和平を主張して居るが、本音は中立を採りたいと考えて居る。
だがしかし、自分の周囲の藩の回りが、講和派が多い事も有ってか、何も言えずに居るらしい。
立花夜千代・矢那川国藩主。
コヨミ皇国本土コヨミ半島西側在る萩野国藩の北側の小国藩である矢那川国藩主で、中立派の一人。
雷斬丸とか言う雷属性の剣を揮い、敵を蹴散らす女当主として知られ、所属派閥は先に述べた通りの中立派である。
高橋重宗・岩谷国藩主。
萩野国藩の北の側に位置する小国の一つで、立花夜千代とは親同士が決めた婚約者である。
対帝国での立場は、中立と成って居る
網里輝美・コヨミ皇国本土のコヨミ半島南西側を治める萩野国藩主で、中立派筆頭である。
強力な水軍艦隊と大砲を約500門を保有して居るらしく、南方との交易が盛んな豊かで利便性に良い地域を領有して居る大名家。
嶋津義隆・コヨミ皇国南部に在る南西国藩主。
その性格は豪快な性格のおっさんで、鬼と呼ばれる豪勇で主戦派。
少数精鋭の藩軍で帝国軍の一隊を打ち破った経歴の持ち主。
足柄一葉・コヨミ皇国北側に有る土地である芦名国藩主。
剣の達人らしく、巷では剣聖将軍と呼ばれ尊敬を受けて居り、コヨミ皇国の大将軍にして主戦派の筆頭格。
四条由美・宰相・主戦派派閥に属して居る一人で、冷戦沈着で眼鏡を掛けた知的でクールなお姉さん。
その御歳は27歳。年齢ネタ禁止。その仕事熱心な性格が災いして婚期を逃しつつあるとの専らの評判。
領土は持って居ないが、18歳から中央の官僚として勤務していた。
中央が余りにも年寄りが多いと力仁国皇は思い、政府機関の世代交代実施した際に、その真面目な仕事ぶりと賄賂を受け取らない誠実さを買われて宰相に抜擢された。
伊達愛海・万代国藩主。
東側最大の領地を持って居る大藩を治める伊達家当主で、天才にして変わり者、ボッタクリ大好きの商売大好きの変人。
主戦派であり、座右の名は私の人生はボロ儲けと言って居り、そんでもって転んでも、タダでは起きない守銭奴で、現実主義者でも有る人物。
「主戦派である義隆殿は、貴国に接触どころか、入国して貴国の国内情勢と事情を分かって居る。」
「私も親友の紅葉から手紙でのやり取りと、こうして実際に目の当たりにして居るからには、問題なくニホンとの国交は大歓迎なのよ。」
「問題なのは・・・・・・・」
「そう、日本と言う国の事情を知らない奴らの事よ。」
「もう、こんなに良い投資話は滅多に無い所か、詐欺と言われても可笑しくない内容よ。」
「でも詐欺じゃ無いから安心しても良いと言うのも言い過ぎる位だわ。しかも格安で色々とやって貰える。私じゃ、一生掛かっても無理よ。」
「それはそれは、お褒めの言葉と受け取らせて貰います。」
「あっ、そうそう。言い忘れる所だったわ。」
愛海は、何かを思い出したかの様に言う。
「何か?」
藤原は何か他に有ったのかと思った。
「貴国の使節団が来たら、主要な者達は、城へ来て暫くは泊まって貰うわね。」
「それは如何してなのでしょうか?」
「歓待の意味も込めて使者が最初に通る藩国は、お持て成しをするのが我が国の慣習なのよ。」
「少しでも貴方達の風当たりを良くしたいのなら、快く歓待を受けて置くべきね。」
「そう言う事でしたら、喜んで歓待をお受けさせて頂きます。」
「それと城の橋も直して貰い得ないかしら?あなた達の自動車とか言う乗り物の重量が心配なのよ。」
「ああ、確かに・・・・・護衛は自衛隊ですからね。」
「兵器に類する物を港や基地以外の場所で野ざらしさらても、危険の可能性が有るからとの風聞もチラホラと聞こえて来るのよね。」
「我が城内での保管と管理を無理やりに断るとなると、日本の立場的に良くないと思うのよ。」
「そう言う事でしたら、後で本省と政府に問い合わせて見ましょう。」
「お願いね。」
藤原と伊達愛海との会談は終わった。
そして、夜には愛海と喜多が万代市の南地区の外れを訪れていた。
視察と慰労を兼ねての現場の訪問を終えた後の夕食会では、日本料理が出されている。
南地区には日本の飲食関係の会社が、工事業者と其処で働く労働者の為に5店舗ほど飲食店の出張店舗を出店していた。
その一画には、大手の居酒屋チェーン店が入って居る。
其処では、多くの日本の工事業者と万代市民の労働者と一緒に成って、二人は食事を共にしたのである。
工事の成果を愛海は労う意味も込めての訪問であり、その日の飲食代は愛海持ちと成り、宴は大いに盛り上がったと後世の歴史書には記録されて居る。




