5話 竜雲海沖海戦 3
此処に全ての役者は出揃った。
帝国海軍とコヨミ水軍と海上自衛隊との間で、激しい戦闘が始まろうとして居た。
竜史は海自の護衛艦隊からの汽笛の音を聞き付けると、ある有名なアニメ作品の名台詞を思い出して居た
「越えられない嵐はないか・・・・・・・」
10数年も前にシリーズ化された第二次世界大戦時に活躍した戦艦と美少女を組み合わせたアニメの主人公の名台詞で、激しい砲火の中で「越えられない嵐は無いんだよっ!」と仲間に激励して居た事を思い出していた。
「もう少しだ、みんなあぁぁーーーっ!!!自衛隊が来たっ!!!」
「海自が海戦に入れば逃げられるぞっ!!!それまで何としてでもっ!!この場を持たせるぞおおぉぉぉーーーーっ!!!」
「「「「「おおおおおぉぉぉぉーーーーーーっ!!」」」」」
あさくら号に乗って居る全乗員達らは、救援に来た海自護衛艦隊の出現のお陰で、下がり掛けていた士気が上がり、何が何でも生き延びてやろうと意気込んで行くのであった。
アースティア暦 1000年・西暦2030年・4月3日・午後1時00分頃・日本国・東京都にて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
お昼のニュースが終わり、午後のバライティーや情報番組がスタートし始めた丁度その頃であった。
番組のオープニングの曲と映像が流れ終わる瞬間である。
それも司会者にカメラが向けられ、番組の始まりの挨拶をしようとした瞬間である。
突然、番組の画面が、お昼のニュース番組のレギュラー担当をしているアナウンサーに変わる。
どのテレビ局も仕事を終えた筈のキャスターばかりだった。
恐らく仕事が終わって、一息付こうとした所を急遽、呼び止められたのだろう。
それよりも、もっと可哀想なのは、昼過ぎの生放送を担当して居るアナウンサーや芸能人の面々だろう。
司会やコメンテーターに呼ばれた人達は、その日の仕事を無理やりに取られた形と成ってしまったので、可哀そうな目に遭ったと言える。
番組のタイトル表示は「緊急特別報道!、東シナ海沖にて行方不明のあさくら号、武装船団に襲われるっ!!自衛隊による決死の救出作戦っ!!!」と書かれて居るが、テレビ局によってタイトルが様々なネーミングだったが、どれも似たり寄ったりの名前をして居た。
「番組が始まったばかりですが、急遽緊急ニュースをお届け致します。」
「なお、今日放送予定の番組は、一部を除いて中止とさせて頂きます。」
「番組の途中ですがは」良く聞く事が多いが、最初から・・・しかも番組の始まる直前での中止の成る事は、余り無いタイミングだろう。
「東シナ海沖に転移してしまった民間フェリー会社の船舶であるあさくら号は、今日の朝11時15頃から、謎の武装船団からの大砲による砲撃を受けて居るとの緊急救難通信が入りました。」
「この情報は、防衛省と海上保安庁の両方から政府へと上げられた緊急情報との事です。」
「既に防衛省は、現場が外洋である事から、万が一の場合に備えて、呉・舞鶴・佐世保に所属する護衛艦をそれぞれ派遣して居り、今現在は、現場海域に到着しつつあるとの事です。」
「あさくら号は先月末に、敦賀港から上越港へと向かう途上の日本近海上での時空震の第一波に巻き込まれたらしく。」
「これと同じ現象に巻き込まれた航空機船舶は、相当数在るとの政府発表が有りました。」
「また、日本政府が時空転移に付いての公式見解発表が行われ、学会を含めた政府機関や民間研究所での議論は、まだ正確な結論に至って居ないとの事です。」
「また、日本国内及び日本と同じく転移して来て居る国々や地方地域の中では、様々な話題と混乱を呼んで居ます。」
「今現在、現地周辺は大変危険で、報道ヘリが飛ばせない為、政府が首相官邸に用意した報道陣向けのモニタールームに報道関係者が集まって来ており、我が社の林原芽衣アナウンサーが待機して居ます。」
「中継現場の林原さんっ!!林原さーーんっ!!」
番組の画面が首相官邸のモニタールーム変わる。
イヤホンを右耳に付けてスタジオからの声を聞き取ろうとする20代の女性アナウンサーが、同じく現場に来て居るアシスタントの補助を受けながら準備中の姿が映って居た。
「ええっ!?もうカメラ回してるの?」
そんな間抜けな姿を晒した所で、テレビ中継を始めた。
「林原さん?」
「はい、失礼しました。準備と音声が繋がって居ませんでしたので。」
「そうでしか。それでは今の状況に付いてお聞きしたいのですが、日本政府は、自衛隊の出動に関して何か発表は在りませんか?」
「はい。まだ有りません。現場海域からの生中継が、間も無く始まるらしいとの事です。」
どうやら日本政府は国民に対して、異世界での危機感を伝える為に敢えて、護衛艦に備え付けられて居たカメラと現場海域へと飛ばしたドローンカメラに由る生中継を実行する積り居るらしい。
此処で自衛隊が救出に失敗すれば、内閣の支持率どころか与党の支持率まで急降下は必須だろう。
そうなれば、政府の取れる手だけは特殊作戦群や水陸旅団に所属するレンジャー部隊を使うしかなくなる。
まぁ、そんな事態に為る事は先ずは有り得ないのだが・・・・・・・・
「あっ!どうやら中継が始まる様です。」
「それでは画面を切り替えます。暫くの間、中継映像をご覧ください。」
テレビ画面は中継映像に切り替わり、右端に防衛省・海上自衛隊・航空自衛隊・提供映像中継と書かれていた。
「どうやら武装勢力と思わしき船団は、あさくら号への砲撃を仕掛けて居る模様です。」
「物凄い砲撃の嵐です。あさくら号の乗客や乗組員の方々は大丈夫なのでしょうか?」
「ですが、海自の護衛艦隊が、間も無く戦闘態勢に移行し様として居ます。」
「たった今、海自側から警告が行われました。武装船団は砲撃を止め様とはしない模様です。」
「たった今、政府から発表が有りました。日本国政府と防衛省は救出出動から防衛出動へと切り替える総理大臣命令と閣議決定を決めたとの事です。」
「繰り返します。日本国政府と防衛省は救出出動から防衛出動へと切り替える総理大臣命令と閣議決定を決めたとの事です。」
「これは我が国が第二次世界大戦後、初めてと成る防衛出動と成ります。」
「実に85年振りの外国との武力衝突と成りましたっ!!」
この日の報道で各報道局の視聴率は鰻上りだった。
各地の都心市街では、号外が飛ぶように配られた。
ネット上では『異世界開戦キタァァァーーーーーーーーッッッ!!!」とか書かれて炎上し捲って居た。
この海戦映像は、その後も無料動画サイトで何度も何度も何度も繰り返し再生される物へと成って行くのである。
アースティア暦 1000年・西暦2030年・4月3日・午後13時00分頃・海上自衛隊・あさくら号救出作戦・護衛艦隊旗艦・いせ艦橋にて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「鈴置一佐っ!!武装勢力艦隊は、発砲を止めない積もりの様ですっ!!」
其処へ総理官邸と防衛省から緊急連絡が入った。
「鈴置一佐っ!!安元総理と小西防衛大臣からですっ!!」
「再度警告しても退かない場合は已む終えない。」
「国民と領海を守る為に、救出出動から防衛出動に切り替える。」
「此方で責任は取ってやるから、後顧の憂い無く存分にやれとの事です。」
これで自衛隊の法律上の最後の枷は外された。
これまではやり過ぎない様にと、細心の注意と国籍不明の武装船団に対する外交的な配慮。
それに伴う威嚇と最小限での撃沈での撃退と言う回りくどいやり方で、排除すると言う事はしなくても良くなった。
戒めの鎖が無くなった鈴置一佐が率いる艦隊は、一気に攻勢に出る。
「日本の全国民と転移して居る国々の人達が、我々の行動を見て居る。」
「各艦各隊員は奮励奮闘努力せよっ!!」
「古谷二佐、武装勢力艦隊に再度警告しつつ、先ずは威嚇射撃っ!!各艦っ!!撃ちーかーたよーいっ!!」
常日頃から日陰者と揶揄されてきた自衛隊。
此処で少しは日の目を浴びたいと思うのも無理も無い。
隊員たちの奮起し、士気はうなぎ登りに上がって、生き生きとした表情を浮かべつつ、やる気に満ちていた。
「了解っ!各艦に伝達っ!武装勢力艦隊に警告と威嚇射撃っ!!各武装の安全装置解除っ!!」
「・・・・・・撃ちーかーたよーいっ!!」
全ての護衛艦の砲塔がウイィィィンと言う駆動音を立てて、帝国艦隊に砲身を向けた。
「魔導戦艦でも無いのに、大砲を撃つ為の人が一人も居ない?何故だ?」
「魔導戦艦でも砲台を動かすのに、多少なりとも人は多いし、人が動き回る姿が見られる筈だっ!!」
「彼の戦艦らに、それが見られないのは何故だ?」
アディーレは、その動きを望遠鏡で眺めながら、ニホン戦艦の甲板上での人の動きが全く見られない。
彼女は日本艦隊の艦艇上での奇妙とも取れる無機質な動きに注視していた。
この世界には、魔導船と言う魔力で動く船舶が存在しており、陸海空と三種類が在るのだ。
そして、その何れの種類にも木造船と鋼鉄船の二種が存在して居る。
アディーレは見た事も無い日本軍艦である護衛艦の見た目から、どの様な性能を有して居るのかを推し量ろうと考えを巡らす。
だが、戦場は目まぐるしく、そして、慌ただしく動いて行く。
護衛艦の牙は、彼女に考える暇を与えてはくれなかった。
砲撃態勢が整うと、護衛艦各艦の主砲が第一の砲撃を開始する。
「むっ?!来るぞっ!!総員衝撃に備えろっ!!!」
帝国艦隊は転移の影響で、環境の一部が日本の有った世界の寄りの自然環境に成って居る海上の上で、荒れて激しく揺れて居る波の中で砲撃を続けて居る。
そして、日本艦隊の砲撃が始まろうとして居るのを見越して、対ショック体制を取るように帝国艦隊の各戦艦の艦長は、手旗信号等で命じていた。
「全ての最終の安全装置解除の確認をしました。射撃準備よしっ!!」
「鈴置一佐、準備が整いました。」
鈴置一佐は、再度マイクを手に取り帝国艦隊に警告を発した。
「繰り返す・・・・・直ちに撤退か停戦せよっ!繰り返すっ!直ちに撤退か停戦せよっ!直ちに撤退か停戦せよっ!」
アディーレは何を馬鹿な事を言って居るのかと思った。
彼らの常識からすれば、この海戦で劣勢なのは、日本側の方なのだ。
だが、現実の中の真実は違って居る。
これから起こる悪夢から逃げられる選択肢を帝国軍は拒否ではなく、無視を決め込み、見逃してしまって居た。
「武装勢力艦隊、警告を無視して居る様です。」
「ならば致し方無い。」
「攻撃指定っ!先陣のしらね、まつゆき、あさぎり、いなづま等は、二列目の艦隊に砲撃っ!!」
「残りは手前の艦隊を狙えっ!!各艦っ!撃ちーかーた始めっ!!」
「了解っ!!目標指定っ!!先陣のしらね、まつゆき、あさぎり、いなづま等は、二列目の艦隊砲撃っ!!残りは手前の艦隊を狙い撃てっ!!」
「攻撃開始っ!!撃ちーかーた始めっ!!!」
「撃てえええええぇぇぇぇぇーーーーーーーーーっ!!!」
各護衛艦の艦長の砲撃命令の号令が下され、続けて艦内の砲雷長が撃てと命じる。
護衛艦の主砲がドンドンドンドンと2発づつ発砲した。
両者共に砲弾の落下速度に合わせるかの様に言う。
「「だんちゃーく・・・・・今っ!!!」」
ズドーンと言う音が鳴り響き水柱が立ち上がると、一瞬だけ波しぶきも大きく立った。
「威勢が良い割には当たらない?錬度が低いのか、それとも波のせいなのか?」
「これが最後通牒である。退かなければ、今度こそ中てる。」
威嚇射撃を行なってまで、撤退か停戦を求める日本軍は、再度、最後通牒を突き付けれた帝国海軍は、自衛隊の回りくどい警告に舐められて居るのかと苛立ちを覚えていた。
アディーレは、日本軍の行動の意図が全く分からず戸惑っていた。
「舐めて居るにしては変だ。」
「砲塔も翌々見てみると、かなり大きい様に見える。」
「何処にそんな自信があるのだっ!?何故だっ?何故なんだっ?」
味方の砲撃は続いている。
戦艦の数は自軍の方が圧倒的に有利である。
それで居てもニホン艦隊側が不利なのは明確なのに、コヨミ皇国の様に帝国に立ち向って来る軍勢。
馬鹿とは決して言えない何かを持っている様に感じたアディーレ。
彼女は自問自答を繰り返しながら、このまま戦えば、危険では無いかと言う脳内の警告を無視して、これまで培って来た経験と定石に従って戦闘継続して行く事にする。
例えそれが取り返しの付かない事で有ったとしても、今の彼女には、それ以外の判断を下せる材料が無いのだから・・・・・・・・・
彼女はそれでも、このまま海戦へと突き進んで行くしか無いのだろう。
一方のベンジョンは、指揮下に有った7隻の竜空母艦と戦艦に搭載されて居る飛竜を発艦準備に入らせる。
木造帆船式の帝国戦艦の後部甲板からは二匹の飛竜が竜騎士と共に発艦体制を取って居た。
「風速、風向きよーしっ!発艦準備よしっ!」
「竜騎士航空戦隊っ!何時でも出られますっ!。」
「ヨシっ!全竜騎士航空戦隊っ!発艦始めええぇぇぇーーーーーっ!!」
7隻の竜空母艦からは、羽を勢い良く羽ばたかせて海風に乗りながら飛び立っていく飛竜の姿は、現代の空母から発艦する戦闘機の姿と然程変わらない。
出せるスピードの差を除けば、間違いなく、この世界の軍隊の主力兵器の一つであろう。
30隻の戦列艦と7隻の竜空母艦から、一斉に帝国が誇る竜騎士航空戦隊が一斉に飛び発った。
この瞬間、アディーレを始めとする帝国軍将校等は、勝ち戦を確信しただろう。
当然だ、この世界でも常時、竜騎士航空戦隊を海上で運用できる国は限られて居る。
一番お金の掛かる兵科の一つにして、特殊な兵科部隊だからである。
数を揃えるのに難儀をして居る国々が多いからだ。
更に航空戦力を撃ち落す能力を持った兵士や兵器は殆んど無く。
一度、その攻勢を許せば、最早、太刀打ち等が出きずに、全てが終わるからだ。
「鈴置一佐。武装勢力艦隊は、航空戦力を有する様です。」
「空母らしき艦影からは、続々と空飛ぶ生き物を発艦させて居るのを確認して居ます。」
「ドローンカメラ映像からも、同様の映像からの確認が取れて居ます。」
「敵機の数は?」
「こんごう、ちょうかいからの報告では200機以上は居るとの事です。」
「200機以上?曖昧な数だな。2艦ものイージスシステムが在るのに、正確な数字が出ないのか?」
「分かりません。システムエラーでは無く。恐らく認識された事が無い生き物である為では無いかと思われるとの事です。」
「それはシステム上の今後の課題だな。」
「上空で警戒中の哨戒機P-3Cから入電です。」
「敵航空機は竜です。しかも騎士甲冑姿の人間を乗せて居るらしいとの事です。」
ドローンでも近付きすぎると敵の方が監視されて居るのに気付かれる恐れが在るので、遠巻きに偵察監視を続けていた。
そして、ハッキリとした機影が判明するの事に時間が掛かって居た事も付け加えて置く。
「何だって?」
「流石にそんな生物のデータは無いな。だからレーダーに認識がされ辛かったのか?」
優秀なイージス艦でも竜のデータは持ち合わせていない。
レーダーで捉えられ、コンピューターで確認がされるだけでもマシな方のだ。
自衛隊はこの戦闘での戦訓で、新たにイージスシステム用のシステムソフトに対ドラゴン戦のデータ取得とバージョンアップが為されて行く事に成るであった。
帝国軍の竜騎士航空戦隊の発艦して居る最中で、自衛隊の側にも待望の知らせが届く。
「航空自衛隊那覇基地より入電です。」
「空自が来たか?」
「はい。間も無く現着との事です。」
空自の第9航空団那覇基地所属の101小隊、202小隊、303小隊のF‐15J戦闘機の15機の編隊は、防衛省・統合幕僚監部の命令で海自の航空支援の為、救援要請海域から15キロ地点で別名が有るまで旋回待機をして居た。