メンフェス・オン・ファイア
メンフェスは燃えていた。
シャーリーは夕焼け小焼けの中を駆け回っているかのように、幼い相貌にとびきりの笑顔を浮かべている。
「ほらジョシュ見て! 夏のお日様がここまで下りてきたんだわ!」
シャーリーは弟のジョシュに話かけるが返事はない。ジョシュの身体は既にシャーリーが握り締めている右手を残して焼失してしまっているからだ。
「ふふふ。そうよねジョシュ。わたしもそう思うわ!」
しかしシャーリーの中ではジョシュはまだ生きていて、言葉も返してくれているようだった。おもちゃ箱のようにきらきらと輝いてみえる、シャーリーの頭の中ではまだ。
「行くわよジョシュ!」
シャーリーはジョシュの右手を振り回しながら、炎のカーテンの中へと消えた。炎の向こう側には、絵本でしか読んだことのない天国が待っていると信じていたからだ。
しかし、メンフェスは燃えていた。
完全に鎮火されたあとに現れたのは天国ではなく、黒焦げた町の骨組みと、逃げ遅れた人々の形を残した炭の塊だけだった。
その炭を暖炉にくべると、炎が踊り、幼い笑い声が聞こえてくる。そんな噂話が広まるのに時間はかからなかった。誰もが「嘘だ」と鼻で笑ったが、火のないところに煙は立たない。
くすぶる火種は今日もどこかの町を燃やすだろう。