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当面の方針

 異世界の住人であることを説明した段階で全員の顔が固まっている。

 順を追って説明したほうが良いと思ったハイネは元の世界の話をしたのだが、想像した通りというか、やっぱりというか、皆が唖然としていた。


「なので、この世界で言う人族ヒュマリスにはならないと思うんですが、どうでしょう?」


 辺りを見回すが誰が口を開けばいいのかわからない様子だった。

 そこでようやく長老が口を開いた。


「仮にその魔力マナが無い世界があったとしても、儂らと話せるのは何故じゃ?」


「この後説明しますが、ある人に教わりました。アルフィミリアで使える文字と魔法もその人から教えられました」


 長老はそれを聞いてふむと頷く。今度はムルトリスが質問する。


「ならハイネ君はそのニンゲンであって、僕達とはそもそも違う人になるということですか」


「そうなります。生活面や環境、常識なんかも全然違います」


「もしそうなら今までのハイネ君の反応に納得がいくわ、見慣れないその服に、ギルドの事を知らなかったり、成人年齢の事もそうね」


 シエルが手を顎に当てて頷いている。


「それで、なんで俺がアルフィミリアにやって来たかと言うことなんですが」


 皆が頷いて耳を傾ける。


「この世界の創造神である、アルフィミリアに呼び出されました」


「「はあ!?」」


 全員が叫ぶ、突然神様の名前が飛び出たのだ。


「さっき言った帰り道に光に包まれた後、世界の狭間で神様のアルフィミリア、本人はアルミアでいいと言ってましたが、そのアルミアが呼び出したらしく、この世界を救ってくれとお願いされました」


「ちょ……ちょっと待ってくれ。本当にその神は自分の名前をアルフィミリアと名乗ったのか?」


「ええ、間違いないです。アルミアは少女の姿をしていましたが、頭の中に直接話しかけたり、魔法の使い方や言語もその時に自分の中に渡されました」


「太古の文献にアルフィミリアとは世界を創生した神の名前を使用したと残っていたが本当だったのか」


 長老は思い当たる内容があるらしく、記憶を遡っていた。


「話を続けます。アルミアにお願いされた内容ですが……」


 アルミアから聞かされた黒魔力リマナの存在、それを使って神を創造しようとしている連中がいて、そいつらを止めるようにお願いされた。


 この世界には神が直接関与出来ない事、もしもその神が産まれた場合にどうなるか解らない事、種族間で争いが行われている事も把握しているなども言っておいた。


 それを了承して、アルフィミリアにやって来たが、遥か空の上に飛び出てきて、魔法で落下の衝撃を緩和させたものの、その際に気を失ったことを説明した。


「と、こんな感じですね。この周辺は危険な人達はいないと聞いてましたが……改めて、助けていただいて有り難うございました」


 と、頭を下げるハイネの姿を見て、各々が唖然としていた表情を元に戻す。

 里まで運んでくれたムルトリスが首を降りながら応える。


「いいえ、気にしないで下さい。それに現状といくつか違う点もあります」


「と、言うと?」


「確かに種族間での争いはありますが、限られた国の話です。この地域は比較的に穏やかな国で、戦争などは長いこと行われていません」


「なるほど、それならアルミアが言っていたようにここに送られた理由もわかります」


 アルミアが穏やかな地域と言っていたが戦争が行われていない場所だった。

 そこで、いつの間にか復活していたラッセルが納得がいかないと声を上げる。


「ちょっと待てよ!異世界からやって来たとか、神様にお願いされたとか、お前らそんな話を信じられるのか!?」


「まあ、そうだよな」


「はぁ?てめえが言うか?」


 確かにラッセルの言う通りであった、異世界からやって来たと言っても証拠がない。

 ハイネ自身疑われるのは当然だと思っていた。まあ他のメンバーは割と真面目に聞いてくれているが。


 そこで長老が口を挟む。


「いや、異世界人は過去にも存在したことがあると、たしか文献に残っておる」


「はあ?」「なんですとぉ!?」


 ラッセルが一言、ハイネは聞いてないよと驚く、そんなことアルミア(バカ神様)は一言も言ってなかったと、ハイネはあんぐりと口を開いている。


「内容としては世界中で戦争があった頃、戦争に終止符を打つために人族ヒュマリスが異世界から勇者を呼び出した。結果、異世界の勇者は各国を回り、当時の魔王や獣王、精霊王に妖精王などと会談を行い平和協定が結ばれた。その際には天人ルピアの姿もあったと書かれておる」


天人ルピアもですか!?」


 今度はムルトリスが驚いている。


「そんな……天人ルピアが地上に降りて来た事があるなんて……」


「さらにその勇者は今の魔法の元を創ったと言われておる。異世界からやって来た勇者は魔法が使えず、何とかして使用しようとして、マジックサークルを創造したとされておる。儂らは体内の魔力マナを使用しておるが、勇者は大気中の魔力マナを使用して色々な魔法を使っておったらしい」


 その影響で現在はマジックサークルを使用することが主流になっている。

 だが、ハイネが気になったのはそこでは無かった。


「その勇者はどうなったんですか?」


「文献には平和が訪れてからは、色々な国を回っておったそうじゃが、最後に天界に旅立ってから姿を現さなくなったそうじゃ」


「そうですか、その文献は何処にありますか?」


「儂らの祖国にあるが、ここからはかなり遠い場所になる」


 異世界の勇者が元の世界へ帰ったのかこの世界で死んでしまったのかはわからないが、もし自分の世界と同じ人なら、何かこの世界で役立つ情報などが残っているかも知れないとハイネは考えていたが、すぐにどうこうなりそうには無かった。


「でも長老、こいつがそうなのかは、わかんないだろ」


 ラッセルの言うようにハイネが異世界人かは解らない。

 ここでウルモスが口を開く。


「それならステータスカードを使えば解るだろう」


「そうか!おい、ハイネ、すぐひらけ!」


「いや、わかんねぇし」


 シェルティミィとのやり取りでギルドカードは知っているがステータスカードなど聞いたことがない。

 ハイネはシエルに視線を移すと、わかっているとばかりに手のひらを上に向けて。


『ステータス』


 シエルの手からギルドカードが出てくる。


「これはギルドカードだから少し違うけど、誰でも自分のカードは持ってるの。自分の情報などが載っていて、恐らくハイネ君の情報を見れば何かわかるはず」


「なるほど、カードをイメージして……『ステータス』」


 ハイネの手から無色透明のカードが出てくる。カードには



 名前 ハイネ=カミシロ

 性別 男

 種族 ニンゲン

 年齢 17

 リア 0



 と、記載されている。

 シエルは自分のカードを握りしめ消してしまう。


「その状態だと情報が限られていて、他の人には解らないから、オープンと唱えてみて」


 言われるがままにハイネが唱える。


『オープン』


 するとカードからウィンドウが表れて広がり、他の情報が表示される。



 名前 ハイネ=カミシロ

 性別 男

 種族 ニンゲン

 年齢 17

 リア 0

 潜在魔力 火、水、風、土、雷、闇、光、無、認識不能

 スキル 無詠唱、創造魔法、遠隔魔法、複数魔法


 異世界人、神に選ばれし者、超人、天才、強運、落ちる人、生還者



 自分のステータスを見て目を丸くするハイネ。


「はぁ?何だよこの落ちる人って……」


「「そこじゃないだろ!」」


 全員からツッコミが入る。


「なんだよこの能力、潜在魔力が全種類だぁ?それに認識不能ってなんだよ」


「ハイネ君、無詠唱魔法が使えるの?いえ、何このスキル欄?」


「すごい、ほんとに異世界人だ」


「ニンゲンというのも初めて見たな」


「これは参りました。全部本当だったみたいですね……」


「驚きよりも感動の方が大きいのぅ……神はやはりおったのか」


 各自がハイネのステータスをみて驚き、感動している者までいる。


「カードはどうやって消すんですか?」


 とりあえずウィンドウを閉じたいハイネ、皆がハッと我に帰り、シエルが説明する。


「あっ、そのままカードを握りこんでみて」


「うぉっ!なくなった」


 手の中に吸い込まれるようにして消えていった、開いていたウィンドウも一緒に消えていた。

 一応自分が何者なのかは紹介出来たが、この空気はどうしたものかと頭を悩ませる。


「ひとまず、これでわかって貰えたかと思いますが……どうしましょう」


 現状は今後の動きをどうするか全く決まっていない。


 ムルトリス達【平和の探求者】が顔を見合わせて頷き、それぞれが口を開く。


「そうですね、ハイネ君はまだこの世界に馴れていませんので、この世界での生活する方法など、我々が協力させて貰うのはどうでしょう?」


「私もそれが良いと思うわ。今は里の依頼が終わってないから、それまでならこの世界での生活方法や、生きていく上で必要な技術なんかも教えられるから」


「その神を創造しようとしている者達は、クランマスターに相談します。恐らくですがギルド全体の取り組みになるはずですので」


 ムルトリスとシエルが提案してくれる。さらにウルモスも乗り気で、


「それなら戦いの方法も必要になるだろう。そっちは俺が教えよう」


「本当ですか、ありがとうございます。さっきの戦闘も思うように動けなくて、危ない場面もあったので心強いです」


 笑顔で手を出して感謝するハイネ、少し気まずそうに、まかせろと一言いって手を握るウルモス。

 それを見たジーナが拳をドンと胸に押し当てて、


「私がハイネのめんどうを見る、まかせて」


 と、得意気に言っている。

 それに対してハイネが微笑み、ジーナの頭を撫でながら、返事をする。


「頼りにしてるぞ、ジーナ、よろしくな」


 ジーナが嬉しそうにこくりと頷く。

 そうなると黙ってられないラッセルがハイネの腕を掴んで引っ張る。


「てめえはジーナに触れるんじゃねぇ!いいか、よく聞け異世界人!ジーナに触れていいのは俺だけだ!もし万が一にも変な気を起こしたら俺がてめえをぶっころ……すばんちゅ!」


 ジーナの拳が見事にみぞおちにクリーンヒットする。

 膝から落ちるラッセルにジーナが怒る。


「ハイネに謝って、兄さん」


 みぞおち辺りを押さえながらラッセルが立ち上がり、ハイネを睨み付けながら声を出す。


「疑って悪かった。他のメンバーも言ってるようにそれなりには協力してやる……ただし、ジーナの事は別だ!てめえがジーナに気に入られようが俺は認めた訳じゃ……」


「その、よくわからんがよろしく頼む」


 長くなりそうだったので、途中で話を遮り握手を求める。

 それを見たラッセルは、ぐっと唇を噛んで何か言いかけるが黙って握手をした。

 会話が一段落ついた所で、寝泊まりをどうするかという問題があった。


「方針は決まりましたが、泊まる場所をどうするか、宿を借りようにもどうすればいいかわからないし、野宿するにも準備もないので……」


 お金の概念があるかは知らないが、シエルが報酬を受け取っていたことを考えるとそういった物はあるはずだが、当然何も持っていない。

 野宿するための道具もないので一番の問題だった。

 そこで、ムルトリスが何かを思い出して自分のギルドカードを出す。

 背面が真っ黒のカードだった、潜在魔力が闇なのだろう。


「忘れていました。ハイネ君ステータスカードを開いて貰ってもいいですか?」


「あ、はい。『ステータス』」


 言われるままに再度カードを出すハイネに、ムルトリスが近付いて自分のカードで何かしている。それをハイネのカードに合わせてムルトリスが自分のカードを消してしまう。


「リビングアーマーの討伐報酬とその売却したリアを送りました。暫くはそれで足りると思います」


「リアとはなんですか?」


「そこも説明しないといけませんね。リアとは物品を購入したり、食事や宿で寝泊まりする際に使用するものですね」


「なるほど、お金ですね」


 アルフィミリアで使うお金の単位がリアなのだ、現金と違いカードで管理されるので盗まれることはないのだ。

 ハイネが自分のカードを見るとリアの欄が10000と表示されていた。多いのか少ないのか物価がわからないので何とも言えないが、とりあえずお礼をしておく。


「ありがとうございます。これなら宿に泊まれますね」


「いや、シエルを助けて貰った事もあるし、ハイネ君が良ければここに寝泊まりして貰おうと思うがどうかの?」


 と、長老が提案してくれる、非常にありがたい話だった。

 当然断る理由もないので、お願いすることにする。


「すごく助かります。よろしくお願いします」


「うむ、わからないことは気軽に聞いてくれ」


 これで暫くの動きは決まった。

 後は、装備品などを揃え、経験を積んで、黒魔力リマナが溜まりやすい場所を探す必要がある。


 ギルドに聞けば魔物が活発な場所がわかるはずなので、登録しておくのも良いかもしれないなと、考えていると


「ふわぁ~……」


 説明が終わり少し気が抜けてしまい、欠伸を出してしまった。窓から外を見るといつの間にか夜になっていた。

 欠伸をしたハイネをみて長老が皆に声を掛ける。


「今日はもう休んだほうがええじゃろ。皆も解散して明日からという事でどうじゃろうか?」


「そうしましょう、僕達も動き回って疲れましたし」


「ではシエル、すまんがハイネ君を部屋まで案内してくれんか」


 シエルが頷いて場所の確認をする。


「部屋って二階の奥で良いかしら?」


「お前さんが使ってた部屋でもええぞ?」


 長老がニヤリと笑ってそんな事を言う。

 それを見てシエルが溜め息を吐きながらハイネに質問する。


「部屋は片付けて出たから私は問題ないけど、ハイネ君はどうがいい?」


「うぇっ?あの……それは、ちょっと……何と言うか、落ち着かないです……」


「と言うことらしいので、奥の部屋で良いわね?」


 ギロリと長老を睨み付けて、ハイネと一緒に部屋を出ていく。ウルモス達も一緒に部屋を出ていった。


 部屋にはムルトリスと長老が残っている。

 皆が出ていったのを確認して二人が口を開く。


「神は彼なら止められると思っておるのかのぅ?」


「恐らくは……彼の潜在能力は普通では無いですが……現状では難しいかと思いますので、しっかりとサポートしてあげる必要があるでしょう」


「そうじゃな、よろしく頼む。儂も出来る限りの協力はさせてもらうのでな」


 突然落ちてきた異世界人に非常に協力的な二人であった。





 部屋から出たハイネ達は二階に上がっていた、ウルモス達も一緒に付いてきている。

 シエルが一番奥の部屋の前で立ち止まり扉を開ける。

 部屋の中は八畳ほどの造りで丸テーブルと棚、それとベッドが置いてあるだけと、かなり殺風景な部屋だ。

 部屋に入った所でシエルが口を開く。


「ごめんねハイネ君、何もおいてないから、必要な物があれば用意するけど」


「大丈夫です。休むことが出来れば充分ですから」


「そっか、何か聞いておきたいことはある?」


「御手洗いは階段の下の扉でしたよね、お風呂とかはあるんですか?」


「水浴びが出来る場所はあるけど……里の中だと月に一度、大浴場でお湯を溜めて入れるくらいね」


 一応この世界にも風呂は存在してはいるらしい、出来れば風呂に入りたいと思っていたハイネだったが、すぐには入れないようで諦めるしか無かった。


「さて、私達はこれで失礼させてもらうわ」


「あした迎えに来る。装備品も揃えよう」


「今日は休んでおくといい、明日から教えることも沢山あるからな」


「殺す気でビシバシしごいてやるから覚悟しておけ」


 そう言って皆が部屋から出ていった。


 明日から大変だなと考えながら、制服を脱いでしまおうと棚を開くと、大きめなゆったりとした服が掛けられていた。

 折角用意されているので、その服に着替えを済ませてベッドに入る。


 一人になって家族が心配しているだろうとか、帰るのはいつ頃になるか等を考えていたが疲れていたため、いつの間にか眠りについていた。

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