こんにちは異世界
表現力が低すぎて泣きそうです
緑生い茂るどこまでも続くような壮大な大地、目印が無ければ出ることが出来ないような深い森、その中にある透き通るような美しい湖、表層が切り立った見た目の山々、遠くには重々しい雰囲気の城壁、見渡す限りどこまでも続く青い空、すべて幻想的でとても現実の物と思えない、まさにファンタジーの世界。
神代 灰音は異世界を救うといった目的で、世界の狭間からこの異世界へと渡った。
この素晴らしい光景に目を奪われて感動を覚えるーー
はずだったが、現在、生と死の狭間に置かれている。
「おいおい!マジでシャレになってねぇ!」
無事に異世界にたどり着いたが、上空から真っ逆さまに落ちているのである。
ワームホールから飛び出た時、大地は遥か彼方の雲の上だったのだ。
頬を切る強風、衣類がバタバタと音を立てながら大地に向かって急降下しているのである。
「この……スピード、落ちたら……死ぬ」
顔に叩きつけられる風によって言葉が上手く続かない、
体の向きを変えて全身で風を受けることによって少し速度が落ちる。
速度が落ちたといっても落下の衝撃を和らげる程ではない、何か対応をしなければならないのだが、
「あっ鳥さんだ、うふふ気持ち良さそうに空を飛んでるな」
などと、ほのぼのと現実逃避を行っているのだ、時間が経つにつれてどんどん地面に近付いて行く。
「やっぱりあれだよな。翼、翼……」
目を瞑って、先程飛んでいた鳥の翼をイメージする。すると背中に大きな翼が広がった、現れた翼を動かし近くに見える森の中の湖に向かう。
「すげぇ!飛んでる、飛んでるよ!」
「落ちてるだけだカッコつけてな」
玩具の宇宙飛行士の真似をしながら飛ぶ、というより翼を使って滑空しながらスピードを落としている。
「あれ?これ駄目じゃね?」
思っていたより勢いが付いていたようで、このまま落ちると怪我では済まないスピードだった。
「くっそぉぉ、間に合ってくれぇぇー!」
急いで両手を湖に向けて魔力を込める、魔法を使って正面から突風を発生させることでブレーキを掛けるが……「ぴゃっ?」と謎の声を漏らす。
「うっそだろぉぉ!これでも駄目なのかよぉぉぉ!?」
大きな音を立てて湖から巨大な水柱が上がる、弾けた水が湖に打ち付けられる中で翼を失った土左衛門が浮かんだ。
大小様々な木々が立ち並ぶ森の中、そこに集落のような開けた場所がある。その内の一つの小屋の中、ベッドで眠っているハイネの姿があるーー
「大丈夫なのか、こんな髪の色をした人族は見たことないぞ、余計な争い事は避けたいのだが」
「かといって放っておくにもいかないでしょう」
「二人とも怪我人が寝ているのだから、もう少し静かにしてもらえないかしら」
誰かの話し声がして目覚める。ベッドの中で意識を取り戻したハイネは自分が置かれた状況を考えた。
湖に着水した衝撃で意識を失って、近くに居合わせた人に引き上げてもらい、このベッドまで運ばれ、そのまま介抱して貰ったのだろう。
「あっ、気が付いたみたい。一応治癒魔法は使いはしたけど痛むところがある?」
心地のよい柔らかな声が聴こえ、そちらに向かって視線を移すハイネ、そこにいたのはエメラルドグリーンの綺麗なロングヘアーをポニーテールにして、輝くような金色の瞳、そして長く尖った形をした耳の女性が柔らかな微笑みを浮かべてハイネを見ていた。
アニメやゲームで見たことがあるような姿の女性。目覚めたばかりで意識がハッキリとしていないハイネが自分の頬をつねる。
「痛ってぇ……」
夢ではない事を確認して、目をパチクリさせながら女性の顔を見て声を出す。
「え……エルフ?」
「そうよ、大丈夫?打ち所が悪かったのかしら?」
エルフの女性が頬に手をあてながら首を傾げる。
アルミアから聞いていたが実際に目の当たりにすると、驚いてしまったのだ。だが、助けてもらったのは間違いないようなのでお礼をする。
「助けて頂いたみたいでありがとうございます。まだ頭がぼんやりしてますが痛むとこはないです」
「なら良かった、意識がはっきりしないのは恐らく魔力切れの症状だと思うわ」
世界の狭間で火の魔法、落下していた時に翼の具現化、風の魔法と立て続けに魔法を使った事によって魔力切れを起こしたのだ、湖に落ちた時に打撲などの怪我を負っていたが、治癒魔法によってそちらは回復していた。
「とりあえずこれを飲んで、楽になると思うから」
エルフの女性に、ミルクのような色をした甘い香りのする飲み物が入った木造りのコップを渡される、喉が渇いていたのでそれを飲み干すハイネ。
「ん、美味い!」
ミックスジュースのような飲み物で果実の味が口の中一杯に拡がる。不思議と身体にあった気だるさがなくなっていく、そういえばアルミアが魔力を補充出来る食べ物がある、と言っていたがそういった類いの物から作られているのかなとハイネが考えていると
「さて、自己紹介させてもらうね。私は精霊族のシェルティミィ、ギルドに所属してる狩人よ」
「僕は魔族のムルトリス、ギルドの部隊長をさせて貰ってる。君をここまで連れて来させて頂いた」
ハイネが目覚めたときに話し声がしていたがその内の一人がこのムルトリスという男性だったのだ。見た目は人とあまり変わらないが肌が白く、瞳の色が真っ黒で白目がない、おでこに尖った二つの角のような物が出ている。意識がハッキリしてきたこともあり今度は躊躇うことはなかった。
「ありがとうございました。僕は神代 灰音、えぇっと、人間です」
「ニンゲンとは、人族のことかのう?」
もう一人の話し声の主、白く長い髭に白髪の老人でシェルティミィと同じく耳が長い。
「唐突にすまない、儂はここの里の長老と呼ばれておる。それで、お主が何者か把握しておかねばならんでな」
「いえ、大丈夫です。ただ、何から言えばいいか判らないんですが、この世界と
は別の世界から来たんです……」
助けた相手に突然異世界からやって来ましたと言われて、思わず苦笑いをしながらハイネの顔を見つめる三人
「ま……まだ起きたばかりで意識がハッキリしてないからね。長老も話を聞くのはもう少ししてからの方が……」
「そ、そうじゃのう、起き抜けに突然話を聞くのは不粋じゃった」
「あの、意識はもうハッキリしているので、説明させて頂きたいのですが、その前に、な……何か食べるものを頂けないでしょうか」
頬を掻きながら申し訳なさそうにお願いするハイネ、説明するにも時間が掛かるのもあるが、家に帰ってご飯を食べる予定だったのに昼から何も食べてなく空腹の限界だった。
「あ、ああ、ではお昼を頂きながら話を聞かせてもらいましょうか、先程狩ったボアの肉が捌き終ってる筈ですし」
「うむ、儂は先に帰って食事の用意をさせるので後で来てくれないか。大丈夫だと思うが、シエルしっかりとな」
「僕は一度ギルドに寄ってからになりますので」
シェルティミィがこくりと頷いて返事をすると、長老とムルトリスは小屋から出ていった。
武器も持ってなく敵意はないと感じとったが得体の知れない相手と言うことで監視と案内を兼ねてシェルティミィが残った、長老は自宅で食事の準備をさせるため、ムルトリスはハイネが目覚めた事と食事をする報告に行った。
ハイネ自身は空腹の為、あまり頭が回っておらず、呑気にご飯のことを考えていた。その時、自分の服が着替えさせられてる事に気が付いた。
「あれ、この服って」
「着ていた服は濡れていたから着替えさせて、乾かしておいたから、先に着替えたらどうかな」
「そうですね、服まで着替えさせてもらって申し訳ありませんでした」
「着替えもムルトリスがしてくれたのよ、流石に私がするわけにはいかないでしょ?」
クスリと笑うシェルティミィが持ってきた制服は折り畳まれていてしっかり乾いていた。
着替えが終わったら出てきてとシェルティミィが外に出ていったのですぐに着替えをすませ扉に向かう。
「着替え終わりました」
「そのまま出てきて、この里の案内をするから」
小屋から出ると思わず息を呑むハイネ、そよそよと心地好い風が吹き抜け聴こえてくる木々の音、その隙間から日の光が差し込みキラキラと反射して光輝く小川、辺りには木で出来た柵が周りを囲んでいる。柵の内側は切り開かれておりハイネが眠っていたような木造の家が建てられていて、畑や水路などがある。
里の中にはエルフが多いが他の種族の姿もみられる、人のような姿に犬のような耳や尻尾がついている者や、子供のような見た目に背中に羽が生えて空中を飛んでいる者、一つ目で体が三メートルを越える者もいる。
「うおっ……うおぉぉぉぉ!すっげぇぇぇぇ!」
今更ながら異世界にやって来たことに実感を覚えたハイネは、目をキラキラと輝かせながらテンションを上げている。その姿を見てシェルティミィは微笑みを浮かべながらハイネに話しかける。
「ここが私達の生活してるエルフの里と呼ばれる場所よ。色々な種族の人達と一緒に暮らしているの」
「すごくいいところですね!空気が澄んでいて、きれいな場所ですし、それにみんな楽しそうですね」
「ありがとう、他の場所と比べて住みやすい環境ということもあるけれど、みんな心優しい人ばかりだから争いもなく、とても平和な場所なのよ」
と、シェルティミィも嬉しそうに説明している。
「さて、それじゃあ里の中の案内をしながら長老の家に向かいましょうか」
「よろしくお願いします!」
そう言うと歩きだして建物の前まで連れていき、武器屋、雑貨屋の場所や宿屋等の案内をしながら里の中を移動する。途中で二人に気付いて声を掛けてくる住人がいるが、ハイネに対しても同じように笑顔で挨拶してくれる。
里の中でも一際大きな建物の前で立ち止まりシェルティミィが寄っていこうと中に案内する。
建物の中は酒場のような造りで、幾つかの円形の机に椅子が用意されて、机では何人かが酒を飲んでいる姿もみられる。シェルティミィはその人達に挨拶を交わし、奥のカウンターにハイネを連れていく。
「報告だけだからすぐ終わるわ、ムルトリスもここに居るはずだけど、そういえばハイネ君はギルドに登録してる?」
「ギルドってなんですか?」
「えぇっ!?ギルドも知らないの!?そんな事って……いえ、食事の時に一緒に聞かせてもらうわ」
ギルドの事を知らないハイネに驚いて、片手を口元に当てるシェルティミィだったが、後で聞く事にしてカウンターの精霊族の女性に報告を済ませる。
その際にシェルティミィがカードを取り出してカウンターの女性に渡すと、奥にある赤い結晶にそのカードを翳してシェルティミィに返していた。
「何をしてたんですか?」
「依頼の達成報告よ。このカードがギルドメンバーの証明になって、さっきの結晶で報酬の受け取りを行えるの」
そう言ってハイネにカードを見せてくれる、全体は透明感のある緑色で、片方の面に白い文字が記載されていて、名前と性別、種族に得意武器、ランクと書かれた欄が存在している。
「これ、裏の面に文字が透けたりしないんですね」
「カードは魔法で出来てるから反対からは見えないの、色は持ち主の得意な属性魔法の色よ」
カードは魔法で作られているので紛失の心配もない身分証になるのだ。
「ランクがAと書かれてますがこれは?」
「依頼を達成するとそのランクが上がっていくの、下のランクから、E~Aまで順番に上がって、更にその上にAA、S、SSが存在するの。依頼の難易度によって、AA以上に上がることができるけれど、まあ、選ばれた者の領域ね」
「そうなるとシェルティミィさんはかなりランクが高いってことですね」
「そうね」
嬉しそうに返事をしてカードを受け取った所で奥の扉からムルトリスが姿を現す。
「おや、もしかして迎えに来てくれたのですか?」
「残念ながら違うわよ、ハイネ君に里の案内をしながらついでに私の報告に来たのよ」
「あはは、そうですか。所でハイネ君はギルドへ登録は……」
と、話の途中でギルドの入口の扉が勢いよく開かれる。入ってきたのは精霊族の男性で、ムルトリスとシェルティミィに気付くと走って近付いてくる。
「ムルトリスさん、シエル、大変だ!湖近くにリビングアーマーの群れとブラッドアーマーが現れた、すぐに向かって欲しい」
「ちょっと待って、ブラッドアーマーってAランクの魔物よ?それにどっちもこの辺りには生息してないはず」
「そうだけど、実際に俺も目にしてるから間違いない、今はウルモス達が応戦してるが分が悪い」
「ひとまず現場に向かってみましょう、応戦中のウルモス達のことも気になります。貴方は他にもいないか確認するために人員を集めてください、私達は今から向かいます」
エルフの男性はわかりました、と返事をしてギルドの中で飲んでいた人達を連れてすぐに外に走り出していった。
そのまま出て行こうとする二人だったが、振り返りハイネにムルトリスが声を掛ける。
「ハイネ君、申し訳ないがここで待っていてくれないか」
「いや、俺も行きます。戦力にはならないかも知れませんが、人を運ぶくらいなら出来ますから」
「だが、リビングアーマーでもランクCの魔物だ、それに装備も揃ってないでしょう」
「自分の身を守るくらいは出来ますよ、それに得体の知れない俺を残すより目の届く範囲に連れてた方が良いと思います」
「そんなことは……いや、わかりました。では手伝っていただけますか?それと、危なくなったらシエルと一緒に逃げてもらいますよ?」
ムルトリスは眉をしかめていたが、諦めたように首を横に降る。確かにハイネを誰かに監視をして貰わないといけないが、そんな時間もなく人手が欲しい事もある。腰に差していた二つの剣の片方をハイネに渡す。
「使えますか?身を守るくらいにはなると思いますが」
「多分大丈夫です」
「では行きましょう。シエル宜しくお願いします」
「わかってるわよ、湖まではそんなに掛からないからしっかりついてきてねハイネ君」
黙ってやりとりを見ていたシェルティミィだっだがハイネがついてくることに反対はしなかった、身を守ることが出来るくらいの力は持っているだろうと感じていたのと、いざとなれば自分が助ければいいと思っていたからである。
ハイネは受け取った剣を腰に差して、大丈夫ですと返事をする。
「それでは、行きますよ」
そう言ってギルドを出た後に、ムルトリスとシェルティミィの足元に白いマジックサークルが現れていたのたがハイネは気付いてなかった。
里の中は慌ただしく人が動いていたが、それを横目に三人は里の外の森に飛び出していった。