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このアイテムは呪われています!  作者: マリー?
7章.学園編
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88.強大な兄弟

 

 図書館で呪いについて調べてから数日、あたしは呪いアイテムの解除を成功させる……なんてことはなく、放課後はだらだらと皆と遊んでた。だってレンが見つからないから。雪様も報告会みたいなときからずっと会ってないから魔王が誰の事か分からないし、本読んでて思い付いたことも相談出来てないから解除方法も謎のままだし。いや、解呪の魔法があるらしいけど使えそうな人とか知らないから無理。確かこの呪いアイテムって他の世界まで飛び散ってたって言ってたから、解呪するなら術者をどうこうするとかもっと大本から解決させるべきだよね。

 サボってる訳じゃないもん。これ以上進めようがないだけだもん。


「奈央、そろそろ本を返してくれない?」

 放課後に遊ぶようになった皆と遊び場へ行こうと図書館の前を通ったとこで、お兄ちゃんに声かけられた。最近お兄ちゃんと陽が別行動をし出して、今日みたいに取り巻き数人と一緒なとこをよく見るようになった。

 本なら昨日、ライから返してもらったばっかりだからちょうど鞄に入ってる。読もうと思って入れてたんだけど、結局ほとんど読まずに終わっちゃった。

 そんなことを思いながら教室に戻ることを伝えて、お兄ちゃんと取り巻きの人達と一緒にあたし達の教室へ向かう。歩きながらお兄ちゃんをチラリと見上げる。陽と仲良かったのに、なんで最近は一緒に居ないんだろ。……親離れならぬ陽離れ? もしそうだとしたらお兄ちゃんはよく頑張ったと思う。陽は存在が天使だから離れ難いもんね。そんな国宝級の貴重な癒しから自立したんだよね、お兄ちゃん。

 子供の成長を見守る親のような心情になっていると、取り巻きの一人であるウォーターボールの女の子に睨まれた。さっさと渡してどっか行ってもらおう。

 教室に着いて、自分の鞄の方に向かおうとするとずっと睨んでた女の子が催促してくる。ちゃんと返すよ煩いなあ。

 あたしが鞄を開けて本を取り出そうとすると、視界が青く染まる。次いで鼻や口に水が入ったような感覚がして鼻が痛くなる。いつぞやのウォーターボールを使われた感覚がした。そして、魔法実技の時とは比べ物にならないほど速く回転する。あー、洗濯機で洗濯されてるみたい。

 急いで結界を出すと前回のように空気で満たされる。

「げほっごほっごっほ! 痛い、鼻が痛っごほ!」

 あたしは魔法が解除されても咳き込んでた。お兄ちゃんは鞄を調べた後、ウォーターボールの女の子に向き直って話しかける。……だれもあたしの心配をしてくれない。

「これやったの、君だよね?」

「……は、い」

 お兄ちゃんが確信してる声で聞く。それに答える声は震え気味。もしかしてあたしが鞄に向かう時煩かったのはイタズラがお兄ちゃんにバレそうだったからとか?

 あたしは鼻のとこに治癒魔法を掛ける。……全然痛みが治らないんだけど。あたしは仕方なく授業で習った痛み止めの薬草と回復役とかに使う薬草を取り出して齧る。

 痛みが少し治まってきたから顔を上げて二人のやり取りを見る。

 お兄ちゃんは真剣な顔で女の子を見てて、その女の子は青白い顔で俯いてた。

「こういうことは、しちゃダメって分かるよね?」

「………」

 女の子が身を縮めるようにして頷く。それをみてお兄ちゃんは固い声を出しながら言う。

「じゃあ、奈央に言わないといけない事があるよね?」

 お兄ちゃんの言葉を受けて、女の子があたしの方を向く。遠くてよく分からないけど、声からすると身体も震えてるんだと思う。女の子はあたしに届くように震える声を精一杯大きくして言った。

「……ごめん、なさい」

「もうこんなことはしないでね」

 女の子が頷くとお兄ちゃんは張り詰めた雰囲気を緩め、柔らかい声で言う。

「正直に言ってくれてありがとう」

 女の子を慰めるように取り巻きの子たちも教室を出ていった。

 ……そう言えば、高校の時もお兄ちゃんがこうやって解決してくれたことがあったなあ。あたしは懐かしむように思い出そうとして止めた。だいたい内容は同じだったし、原因はいつもお兄ちゃんだから。

 そうしてるうちに校内放送が流れた。

『マスター一組ノガワユウト、ノガワヨウ、マスター四組ノガワナオ至急校長室に来てください。ノガワナオは鞄も持ってくること』

 二回繰り返すと放送が終わる。あたしはお兄ちゃんと顔を見合せながら急いで校長室に向かった。


 校長室にノックをして入ると、陽が先に来てて椅子に座ってた。ライはお兄ちゃんに陽の隣に、あたしにその向かいの席に座るように言った。ライはお兄ちゃんとあたしに挟まれるようなとこにある一人掛けの椅子に座ると、今回呼んだのが、あたしがお兄ちゃんから本を借りて、未だに返されてないと陽から相談を受けたからだと説明した。

 チラとお兄ちゃんの奥に座る陽に視線をずらすと、目が合った。陽は心配そうな、悲しそうな顔をしてから、ふいと視線を窓の向こう側に向けた。いつもと違う反応に首を傾げていると、ライが二人をぱっと見気が付かないくらいの鋭い視線を向けてる。みんなのいつもとの違いに一人?マークを躍らせてると、お兄ちゃんが、ああ、そうそう、と手をポンと打ってこっちを見た。

()が渡した本、読んでくれた?」

 あれ? お兄ちゃんはあたしの前で自分のことを「僕」なんて呼んだっけ?

「ごめん読もうと思ってたんだけど……」

 あたしは今日呼ばれた原因でもある本を返そうと鞄から取り出す。……ずっと持っててくれたのにホントにほとんど読まなかったな。読む機会が無かったんだけど。……嘘です読もうとしなかっただけです。

 本を受け取ろうと出したお兄ちゃんの手に置こうとすると、ライがさっと取り上げた。

 驚いてライの方を見ると、さっきの比じゃないくらいに鋭くなった視線を二人に向けていた。

 ライから突如発せられた膨大な量の殺気を感じて生唾を飲み込む。息苦しい。体が重い。少しも動いちゃ駄目だという気がしてくる。ライは竦み上がってるあたしにチラと視線を向けると、しまったというような顔をしてから苦笑して謝罪の言葉を口にする。すると殺気が消えたのかさっきまでの息苦しさが無くなった。途端、激しく咳き込みさっきまで呼吸をしてなかったんだと分かった。何なの今日は……さっきのウォーターボールといい今の殺気といい息出来なくなること多くない? 厄日?

 ライはもう一度ごめんと謝りあたしの背中をさすると、殺気に全く動じてなかった二人に向き直り今度は鋭い視線だけ向け、言う。

「この本には、今は使える人のいない昔使われていた呪術が掛かってる。……君たちは何者?」

「僕たちはただの日本人だよ」

 ライは男も魅了するような笑顔を浮かべ言うお兄ちゃんを睨みつけ、語気を荒くして問い詰める。

「これは約一億年前の魔人が使ってた、相手を呪い殺す為の呪術だ! これはこの本を最後まで読んだ奴を本の中に閉じ込め、死ぬまで魔力を吸い術者に送り続ける呪文だ!! なぜ、ナオがそれを持っている!? なぜ渡した!?」

 今まで見たこと無いくらいの怒りの形相のライの視線を受け止めたお兄ちゃんは、驚いたように目を丸くした後、ニタリと不気味に笑い静かに拍手をした。

「僕のオリジナルなのによく効果が分かったね。僕は君の方が何者なのか知りたくなったよ」

 くふっと不気味な顔に更に不気味な笑顔を浮かべ、腕を広げ大仰に言うと、でもと続ける。

「ちょっとハズレ。本の中に閉じ込めるんじゃなくて、本と一体化させるんだ。これで、本を燃やしても一体化した人は死ぬ……くふふ、ふは」

 お兄ちゃんは唖然としたあたしとライを置いて続きを語る。

「そ、れ、にぃ、本の中に閉じ込めた人、つまり奈央の魔法も使うことが出来るんだ! 杖とか指輪とかの媒体みたいなものだねえ。ああ、でも魔道書だと不便だから指輪にしようかぁ」

 そう言ってお兄ちゃんがあたしに向かって指輪を投げてくる。反射的に取ろうとすると、目の前から消えた。多分、手を振ったままのライの姿から、ライによって床に落とされたんだと思う。

 お兄ちゃんとライが睨みあう。

 見えない火花が散ってるのか、魔力や殺気がぶつかり合ってるのかびりびりとした感覚を肌で感じる。

 一触即発な雰囲気に息を呑んで成り行きを見ていると、陽が唐突に言った。

「もうやめよう」

 その短くもしっかりと意志の宿った声に、お兄ちゃんは悲しそうに微笑む陽を見てから悔しそうに下唇をかむと、あたしを見て、ライを見て、あさっての方向を見て、真上を見ると立ち上がって校長室から出ていく。

 陽は、あたしに向かって「また、明日の朝に会おう」というとお兄ちゃんを追いかけるように出ていく。

「……うん、またね」

 あたしが二人が出て言った扉に向かって挨拶を返すのと、扉が閉まるのが同時だった。

読んでくださりありがとうございます。

奈央に優斗との時間とオリジナルの魔法を取られ、ロイさんの授業での目立った行動にイラッとした女子生徒のお話と、奈央の兄弟についてのお話。

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