85.女王とアリスゲーム
約束通り缶蹴りをすることになった。あたしが創造魔法で缶を創りだしてると、陽とお兄ちゃん、その取り巻きの女子数人が近づいてきた。あ、お兄ちゃんに腕を絡ませてるの今日の魔法実技の時に手伝ってもらった人だ。
「奈央、お兄ちゃん達も参加していいかな?」
「いいよ。陽もおいで、むしろ陽だけおいで!」
「聞いたのお兄ちゃんだよ!?」
「冗談冗談。皆で缶蹴りしよう」
あたしが不機嫌そうにこっちを見てる魔法実技の時の人達も誘うと、後ろから「ナオさん、それは……」って聞こえてきた。スピカちゃん、それに皆も、その空気読もうよみたいな顔は何!? レイス君までそんな顔してるのがイラつく!
そうこうしてるうちに取り巻きの人達は足を鳴らしながら学園の方に帰っていった。残念。
あたしが手に持ってた缶を置くと、早速鬼を決めて始めた。
珍しくあたしが鬼にならずに逃げ回っていると、お兄ちゃんのいるとこに来た。押しのけるように隣に座って隠れると、お兄ちゃんは嫌そうな顔をしながら横によけてくれる。ふと思い出したように言った。
「奈央、本は読んでくれた?」
「えっ、あーえっと……今、他の人に貸してるんだ」
だから読んでないんじゃなくて、読めないんだよと言おうとして、ギョッとしたお兄ちゃんに先を越された。
「他の人!? 何時から貸したの!?」
「え、なんでそんなに驚いてるの。一週間くらいだけど」
「それは、……奈央に最初に読んで欲しかったからだよ」
「奈央以外の人に読まれてお兄ちゃんショック」と項垂れるお兄ちゃんを疑いの目で見る。……なんか嘘くさい。最近嘘かどうかが分かるようになった気がするけど、どこがと言われると答えられないんだよね。……そういえばなんでお兄ちゃんはあたしに読ませようとするんだろう。忘れてたけどこっちに来るときにお兄ちゃんと陽、二人して頷きあってたなあ。
「……お兄ちゃんはただ単に奈央に読んで欲しかっただけだよ」
あたしの視線に気が付いたお兄ちゃんが困った顔をして言う。かなり長い間待っていてくれたんだよね……何か申し訳なくなってきたな。
「返ってきたら読むよ」
「見ー付けた」
お兄ちゃんにそう約束すると同時に、後ろからガサッと木を掻き分ける音と声が聞こえた。今回の鬼はライだから見つかったらもう逃げられないなあ。
「ひとりでぶつぶつ言ってどうしたの」
ライのその言葉にあたしは横を見る。そこにはお兄ちゃんの姿はなかった。よく逃げれたなあ。しかもライに気が付かれずに。
あたしは缶のある所に戻ると、ライが皆を捕まえてくるのを待った。
***
それから何日か経った。最近では遊ぶ約束してないけど自然と空き地に足が向かう。そして主サマ達やクラスの人達も参加して、かなり賑やかになった。これまでにはあたしが提案した氷おにやけいどろ、影踏み、他の人が提案した飛空リレー、リアルカードゲームとかをした。
今日は、トランプを使ってババ抜きとか七並べをした後、なぜか女王とアリスっていう、けいどろの不思議の国のアリスバージョンをした。……男子にもアリスの服着せるのは止めよう?
あたしが女王の出したトランプ兵に追いかけられてゲームフィールドの中を逃げ回ってると、チェシャ猫役になったスピカちゃんや帽子屋役になったクラスメートの一人に応援された。くっそ、役スキルに転移と交渉上手持ちは楽そうでいいなあ。あたしは白ウサギになったけど良いとこが走るの速いくらいで、転移とか出来ないし、腰に着けてる懐中時計はいっつもチクタクチクタク鳴ってるからすぐ見つかって結局走って逃げるしかないし。
トランプ兵が撒けたから近くの茂みの中に隠れながら休憩してると、いつの間にか雪様と陽が近くに居た。二人とも芋虫の恰好をしててかなり鳥肌が立つ。特にお腹がプクっと太ってて芋虫っていうかツチノコを丸くしたみたい。
しばらく三人で会話してた。……トランプ兵が来ないから落ち着く。出身が同じだからか思ったよりも会話が盛り上がる。三人して笑ってると、陽がふっとこちらをうかがうような顔をして言った。
「お……おれのこと嫌い? おれは大嫌いだけどな!」
「あたしは大好きだよー! 陽がついにデレた!」
あたしが万歳しながら大喜びしてると、陽はあたしの手、指輪をじっと見てることに気付いた。
「陽、落ちてるものはむやみに拾っちゃ駄目だよ?」
「それで呪われるなんて馬鹿、いや阿呆だろ……」
そう言いながら悲しそうな顔して、本当は心配してくれてるくせに。心の中でほっこりしてると、ザッザッと規則正しい、軍隊を思わせる足音が聞こえてきた。トランプ兵だ逃げろ!
……やっぱり白ウサギってハズレキャラだと思う。囲まれたら絶体絶命だもん。
読んでくださりありがとうございます。
高校生くらいになっても遊ぶのは皆異世界の遊びに興味があるのでしょうか。
飛空リレーはリレーの空を飛ぶバージョン、リアルカードゲームはデュ○マみたいなのを想像してください。




