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このアイテムは呪われています!  作者: マリー?
7章.学園編
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82.パーティ

 あたしが急いでパーティ会場である会議室に行くと、もうパーティは始まってた。けど、今が開始予定時刻だから遅れてはいないはず。

 すでにパーティに参加してたみたいにする為に壁際を移動して中心付近に行こうとすると、見事にバレた。

「あら、ナオ。やっと見つけましたわ」

「お、ナオか。早く着替えてこいよ」

「ナオさん。面倒なことになる前に隣の部屋へ行って着替えてください」

「シェラ、このワイン美味しいよ」

 りんご姫を除く鈴鐘戦チームの皆に。っていうか皆フリッフリのドレスとか斬新なデザインのタキシードとかを着てた。……なぜかりんご姫は王子様みたいな恰好してるけど。

「面倒な事?」

 あたしがシェラちゃんの言葉に首を傾げていると、がしっと肩を掴まれた。掴むっていうよりも握り潰すみたいな感じ痛たたたたた。

「あんら~。ドレスを着ていない淑女(レディ)がひ・と・り居るわねん♡」

 シェラちゃんとスピカちゃんの「やっちゃった」みたいな視線と、なぜか恐怖を全身で表現してるりんご姫の「気の毒に」みたいな視線を受けて後ろを振り返ると。

「あ、お着替え♡係のヒルターよん。ヒーちゃんって呼んでね♡」

 化け物が居ました。

 ……じゃない、ヒーちゃんっていうボディービルダーが居た。ドピンクの髪をカールさせ毒々しい色使いの化粧をし、ピンクの際どいデザインのサイズが合ってないドレスを着て、胸板や太ももの筋肉を惜しげもなく――あ、これ以上は駄目だ。上から徐々に下ろしていた視線が腹筋の見事な割れ目を通り過ぎたあたりで、あたしは無意識のうちに顔を背けてた。これ以上見たら死ぬかも知れないという妙な脅迫概念まである。

「さ、行きましょ」

「え、待っ……力強っ!?」

 そしてあたしの肩を抱き寄せるとそのまま引っ張るようにしてどっかの部屋に連れて行かれた。


 その部屋に入った途端、あたしの目には色とりどりのドレスとコスプレかと疑いたくなるような衣装、隅にちょこんとタキシードが並べられてた。

 あたしに似合いそうなドレスを選びに行ったヒーちゃんと離れ、コスプレ衣装がある方に進む。……魔女、制服、セーラー、ナース、ふな○しーなどなど……最後の何!?

 物色というか見物しながら奥に進んでいると、見知った顔を見つけた。少し癖のある、女性にしては短めの亜麻色の髪に同色の瞳、そして切れ長の目の持ち主は主サマのダンジョンで会ったロイさんだ。ロイさんは学園では主サマの授業のサポートをするらしく、いつもは防具や短剣とかは外してる。……なんか王女様とかが着そうな豪華なドレスを手に持って悲しそうな、懐かしむような目をしてるけどどうしたんだろ。……着たいのかな?

「ロイさんロイさん」

「……っ、ナオ。どうかしましたか?」

「ロイさんはこっちの方が似合うと思うよ……絶対似合うって」

 あたしが近くにあったネイビーのドレスを見せると、ロイさんは驚いたように固まる。あれ、背高くて細いロイさんに似合いそうだと思ったんだけどな。あたしが残念そうにしてると奥から主サマがやってきた。

「ロイ、また妹の事を思い出して……あ? ……ナオはまだ気付いてないのかよ、くくっ」

 珍しく短めの黒髪をパーティ用に整え、いつもの強面&不機嫌そうな顔を悪巧みするような表情にし笑いを堪えながら変なことを言う。気付いてないって何に? いやそれより主サマは笑いを我慢してるんだろうけど、あたしから見たらただ怖いだけなんだけど! その顔やめて!

 あたしが諦めてドレスを戻そうとすると、ロイさんがそのドレスを手に持った。

「………………まあ、ナオがそう言うのなら着ましょうか」

「本当!? やった!」

「おい! 正気か!?」

 主サマあたしのセンス信用してないな。あたしも信用してないけど。

「……前にレンという者から言われたでしょう。『ナオに最後に思い出を作ってやれ』と」

「それはナオの思い出っつーよりもお前の思い出になるぞ。黒歴史という名の」

「話によるともうすぐ全て終わるらしいですし、何も作れないよりはいいかと」

「……お前がいいならそれでいいが」

「レンが何? 思い出って何の話?」

「「何でもない(です)」」

 えー……なんか誤魔化されたんだけど。思い出、ってことはお別れかなんかかな? レンが『あたしと最後に思い出を作ってやれ』って言ったんだよね? ……もしかしてあの“会議”関係かな? ……あーまあいいや今は何も気にしないし思い出さない! 現実逃避をしようって決めたしパーティを楽しもう!

 そうしてるとヒーちゃんが戻ってきた。手にはレモンイエローの無駄にひらひらした歩きにくそうなドレスがあった。くねくねと歩いてたけどロイさんを見るとドレスをあたしに押し付けてきた。おわっ。

「あら~あらあら~ん、それを着るのね。お着替えはま・か・せ・て♡」

 そのままの勢いでロイさんのドレスをふんだくると腕を絡ませどこかに連れてく。……主サマ、珍しく面白がってないけどどうしたの?


 あの後別の人に手伝ってもらって着替えた。歩きにくい、重い、歩きにくい。とにかく歩きにくいけど、動くたびに裾がふわっと広がるのは楽しい。そうこうしてるうちにロイさんも着替え終わったらしい。なんで遅かったんだろ。

 主サマはロイさんを見て笑うと、ロイさんに隠すように顔を背け部屋から出る。なんで笑ったんだろ。女のあたしでも見とれるくらい綺麗なのに。細くてしなやかな身体をドレスがセクシーに演出してるし!

 近くに来たロイさんはあたしと目が合うと苦笑いっぽい微笑みを浮かべた。

 それを近くで見たらしいノリのよさそうな男子生徒はいいアイデアを思いついたような顔をすると、とこかへ消えてった。なぜかドレスを持って。

 !?マークを浮かべてると、ロイさんはあたしの手を取ると言った。

「踊っていただけますか?」

「ダンス……は出来ないからくるくる回ろ!」

 あたしはロイさんのもう一つの手を握ると円を描くように回りだす。ロイさんは戸惑っていたものの、あたしに合わせて一緒にくるくると回ってくれた。

「ナオ! こんなところで一体何を……ホントに何してるの」

「あ、ライ!」

 そうして回ってると、いつの間にかライが近くに居た。回るのを止めるとライはロイさんの方を見てからあたしの手を持って引っ張る。

「踊るんならもっと広いとこで一緒に踊ろう」

「……なら、三人で回ろ! あたしダンスとか出来ないし」

「は?」

 唖然とするライの手を握り返すとなぜか諦めた風のロイさんと手を繋ぎ、また回りだす。ってライ! そんなに引っ張らないで速い速いこけそう!

 その途端、あたしは見事に裾を踏んでしまった。やっぱりドレス動きにくい!

 そして気が付いた時にはライの上に乗っかってた。……ライ、ごめん。

 あたしがどけようとするとライはあたしを何か言いたそうに見つめ、苦しそうにあたしの掌に口を付けた。……キス!? いやなんで掌!

 そのまま手首に口づけをしてくる。あたしは我に戻ると急いで立ち上がり逃げた。熱を持った頬を隠すためと、ライの懇願するような、縋るような視線から逃れるために。


 ***

 あの後あたしは皆のいる会議室に行くと、この学園の男女比六:四なのに、半分ちょっとの人がドレスを着てて驚いた。なんで男子までドレス着てるの? べつにいいんだけど……。

 そして、鈴鐘戦の事で他のチームの人達と話したり、女子に囲まれたお兄ちゃんから逃げたり、主サマと会話したり、陽に話しかけて玉砕したりしてるうちにかなり時間が経ってた。

 あたしが外の空気を吸いに夕日に照らされた庭園らしきとこに出ると、どうやら先客が居るみたいだった。

「ナオ、早くこっちに来てくださいまし」

 そこには鈴鐘戦で一緒に戦った仲間達が居た。あたしはスピカちゃんおススメの景色の『夕焼けに染まった学園』をみて感嘆のため息を洩らす。

「それでは皆様、なにかで遊びませんこと」

「お前、それだけのことでここに呼んだのか」

「あら、それ“だけ”とは?」

「イー、いいじゃないですか。遊びましょう?」

「……シェラが、そう言うなら」

 りんご姫が不服そうに言うと、スピカちゃんがあたしの耳に口を寄せると小さく囁いた。

「何か悩み事がある時は言ってくださいまし。……今日のナオは嫌な現実から目を背けようと躍起になっているようでしてよ?」

 あたしは朝にあったことを思い出すとスピカちゃんに苦笑いを返す。……言えることじゃ、ないんだよね。言っても信じてもらえなさそうだし。

 スピカちゃんはそんなあたしを見ると悲しそうな表情を浮かべ、次いで元気な声で言った。

「それでは、皆様なにかしたい遊びはありませんこと?」

「思い切り楽しめるような」と続いた言葉にあたしは手を挙げて言った。

「鬼ごっこはどう! 鬼ごっこ! ……あ、でもドレスじゃ走れないか」

「それなら、明日の放課後に鬼ごっこというものをしてみましょう。イーも参加ですよ」

 りんご姫は嫌そうな顔をするけど、シェラちゃんには甘いから来そうだね。

「なら“しりとり”とかいう遊びはどうだ。ニッポンとかいうところから来た勇者が広めたらしい遊びだぜ」

「それやろう!」

「……ナオさんも賛成ですか。それならしりとりをしましょう。いいですねイー?」

 被せ気味に言うとシェラちゃんが取り仕切ってくれた。そして五人で遊び、途中から主サマ達やライたちも参加して一緒に遊んだ。結局鬼ごっこもしたんだけどね。……あたしを積極的に狙うのは止めて欲しい。ドレスは動きにくいのに。

 勇気を出してライに朝にあったキスについて聞いたら無かったことにされてた。逆にしてほしいのって冗談っぽく言ってきたし。……無かったことにしてもいいのかな? 何か重要なことだった気が……まあ、今日は考えなくていいか。全部明日に回そう! 今日は楽しかったしね!

読んでくださりありがとうございます。

主人公はロイが男だということに気が付いていません。ロイが持っていたドレスはロイの妹が着ていたものと似た設定。主人公に勘違いさせたまま一回やってみたかったのがロイの女装。入れたおかげで文字が多くなりましたが無事出来たので達成感。

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