77.準備中
「くあ~……寝ちゃった」
あたしはまだぼーっとする頭を働かせ起き上がる。周りを見るとあたしが使ってる部屋だった。……あれ? どうやって自分のベッドに行ったんだっけ?
まあいいや。ライの雷が落ちる前に学校行く準備しよう。それにしても、時計がないとちょっと不便だね。……遅刻してないよね? ……急ごう。
あたしは急いでベッドから出ると鞄を置いてる机に向かう。するとそこには、昨日渡された校章を付けたロイさんお手製のショルダーバッグの上に、変な魔方陣の描かれたノートの切れ端があった。手に取ってよく見ると前に見た転移の魔方陣みたいなものが描かれてた。違うとこといえば雪の結晶が雫の形になってるとこ……。
じゃなくて、学校!
あたしはぱぱっと準備を済ませて制服を着ると、準備で使うらしいジャージを鞄に詰めて食堂に向かった。
「あ、ナオさんおはよー」
「サクさんおはようございます」
お祭りの時にお世話になったサクさんが向かいに座る。あ、ちょっと不幸オーラが薄くなってる。今日の朝ごはんの具沢山のサンドイッチをぱくついてると、サクさんが「そういえば……」と思い出したように言った。
「いつもこれくらいには起きていたライ君がね、珍しく寝坊しているみたいなんだよー」
「そうなんですか」
あれ、なんか嫌な予感……。
***
・・・。なんかライを起こすことになった。かなり前に鐘が鳴ったから起こせっていうのは分かる。でもね、別にあたしじゃなくていいよね? 侍女さんとか居るし。
そうこう考えてる間にライの部屋の前に着いた。そう言えばここに来るまでにすれ違った顔見知りの人達が「まだ学校行ってなかったのか」って何回か言ってたな。……あたしはドアを素早く二回ノックする。……反応なし。
「ライ、起きて――」
あたしはドアを押し開けて部屋の中に入ろうとする。そしてドアノブを持ったまま固まった。
そこには右手に持った歯ブラシで顔を擦り、パーカーを中途半端に着て、なぜかいつも着てる黒いワイシャツを肩に掛けたライが居た。いやそれより!
「半裸で準備しながら寝ない!」
急いでるからキャーとかいう反応は省略!
あたしはずかずかと部屋を進み、大声に反応すらしなかったライのワイシャツと歯ブラシを取り上げて、パーカーを掴む。そして一気に引いた。
「あ~れ~……じゃ、ない!」
「がっ。ごめんちょっと遊んだ。それより服着て、服! あと遅刻する!」
あたしは首根っこを近くの机に押しつけられた姿勢のままライにワイシャツを見せる。するとライは一瞬固まった後、あたしからワイシャツとパーカー、歯ブラシを引ったくってどっかの部屋に入る。
あたしが机に強打した顎をさすってると、あたしが顎をぶつけ、ライがいつも使ってる机の上にお兄ちゃんから渡された本があった。
その本を手に取ると、ちょうどきちんと服を着たライが戻ってきた。
「この本昨日持って帰り忘れたんだ」
「え……ああ、えっと……それ」
あたしはショルダーバッグにしまおうとしてる本を気まずそうに指さすライに、何かを察する。
「うん、痛いよねこの本」
「いや……まあ、学校行こうか」
あれ違うの?
***
「レイス君、資材泥棒そっち行った!」
「ナオ! 十三秒後に次来ますわ!」
「こっちかなり手一杯! シェラちゃん対応できない?」
「くっ……こちらもきついんです!」
「りんご――イクスタス君どこ行ったー!」
あの後学校に来てジャージに着替えて、今は鈴鐘戦の準備中。ちなみにシェラちゃんはりんご姫と一緒にいた女の子。ちらと見ると、五人くらいの他の鐘チームの人達を相手取ってた。よくやるなあ……。鐘チームっていうのは『ヘルベル学園』の生徒で作られたチームの事。じゃあなんで同じ学園のチームで戦ってるかと言うと、鈴鐘戦は死ななければ基本何でもアリだから、他のチームの完成した拠点を乗っ取っても、資材を奪ってもいいらしい。
そうこうしてるうちに、元から居た三人に新しく二人加わってしまった。あたしはシェラちゃんみたいに戦闘能力高くないから、さっそく押され始めた。
なんか使える魔法なんか使える魔法……そうだ『麻痺』!
「他のチームのみ、『麻痺』!」
すると、あたしの声の聞こえた他の鐘チームの人たちが一斉に動きを鈍くした。そしてその隙にシェラちゃんは他チームの人を次々と気絶させ、レイス君は気絶した人達をロープで縛りあげた。
「だれか釘取ってください」
「あ、シェラちゃん釘もう無いよ」
「じゃあ、ちょっと奪ってくるな!」
レイス君はそう言い手を挙げると瞬く間に釘をたくさん取ってきた……って後ろ後ろ! 他チームの人達引き連れてこないで! また防衛しなきゃ……。
あれ、りんご姫がまた消えた。探しに行かなきゃ。
そんな風に襲撃から拠点や資材を守ったり、拠点を作り上げていった。
読んでくださりありがとうございます。
次回いよいよ(?)開戦!




