63.祭り?
「仕事をしてくださいダーク様!!!!」
「人違いですごめんなさい」
否定しながらも、赤髪の厳しい女教師みたいな人に引きずられてくライ。
あ、仕事さぼったんだ、ライ。っていうか、ダークって名前名乗ってたんだ。
生温かい視線になってたあたしは、その女教師から発せられた言葉を聞いて、ライに詰め寄る。
「このままでは夏祭りが開催できなくなりますよ?」
「ほらダーク早く仕事して」
「ナオ怖い! 何で真顔なの!?」
夏祭り楽しみにしてたんだよ? ライが仕事してないせいで開催されなくなるとか絶交するよ?
「よし仕事するよ!」
変わり身早っ!? さっきまで嫌そうだったのにガッツポーズまでつけてる!?
「あ、ナオも手伝ってくれたら……もっと早く終るかも?」
……ライの上目づかいの破壊力半端ない。
か、可愛い……。
「勿論!」
気が付くと口が勝手に動いてた。
でも、可愛いは正義だから後悔は無いね。
***
「ねえ、なんでこんなに仕事が溜まってるの? ねえなんで?」
「……」
ライ―? とりあえずこっち見ようか? 目を泳がせてないで。
この大きい机の上にある書類の山は何? 二mぐらいあるけどあと十日で片付くの? ねえどうなの?
ライ―? どこ行くの? そっちは机じゃなくてドアだよ?
一 人 で 逃 げ る な 。
「く、首が絞ま……っ」
服の襟のとこって掴みやすいよね!
さあ、仕事するよ?
ソファに座らせてレンからもらった鎖をライと机に巻きつける。脱走防止だね。
ライの隣に座ると、さっき近くで仕事してた人から書類の束を渡される。あたしの仕事は金額などの計算と書類の不備のチェック、それからライの脱走阻止。
書類の一ページ目を見る。早速費用の計算だった。桁が、4、5、6……け、計算機はどこ? 計算機~出てこい~。
と考えてると、足元でガタっと鳴った。取り上げてみると計算機だ……って計算機!? 偶然すぎない? いや使うけど……。
そして部屋は静まり返り、ペンで書く時のカリカリという音と、あたしが叩く計算機のカタカタという音がやけに大きく響いていた。
***
あれから、軽く仮眠や食事は取るものの、それ以外はほぼずっと仕事をし続けた結果、何とか終わった。
前日の深夜……いや、もう当日かも。終わったのがそれ位遅い時間になったけど、何故か達成感がある。あ、もう下っ端人生確定かな?
何とかやり終えて、赤髪の女教師――執行担当の人に書類を渡した後は誰も動く気が起きず、しばらくボーっとしてた。
***
さあ、いよいよお祭り一日目! 楽しむぞ!
という訳にも行かず、あたしは当日の仕事――休憩スペースでのお茶配りとか、ショーをするためにお客さんを並べたり、出場する人を誘導したり、国が出してる屋台の売り子やら商品の補充やらをした。
……全然遊べてない。っていうかなんで当日までしなきゃいけないの!
あたしが心の中で地団駄を踏んでると、同じく貧乏くじを引いた役員の人が挨拶してきた。
「お疲れ様、ナオさん」
「あ、お疲れ様です」
「いやぁ、ほんと居てくれて助かったよー。あのままだと終るかわからなくてさー」
そしてあははー、と乾いた笑いとともに疲れた表情をする。まだ若いのに苦労人の雰囲気を漂わせてるって……いい彼女さん見つけてね……。切に願っとく。
「いやいいんですよ。こっちの作業があってこその祭りですし、売り子とか楽しかったですから」
これはホント。実際、射的屋とかは結構楽しかったし。
「そう言ってくれて助かるよー。それじゃあ後、頼んだよー」
「はい」
……自分でもチョロイと思ってるよ。でもね、あんな苦労人の不幸オーラ見て見ぬふりするって出来なかったんだよ!
はあ、残りの仕事も片付けよう。
読んでくださりありがとうございます。
主人公が…主人公が…段々社畜化してるような…




