62.勇者の皆は
って、流されてる場合じゃない! 却下って、却下って何!? あたしの拒否権はどこ? っていうか、プライバシーの権利もどこなの?
「順番飛ばしすぎなの分かってる?」
「順番?」
えっ、そこからなの!? 何のことやらって顔しない! キョトンとすんな!
「友達にいきなり『ずっと傍にいるよ』とか言われたらどうすんの」
「何こいつって思う」
「そう思うことをライがやったんだよ!? あたしはそう思ってるよ! っていうか、大体の人はそう思うからね?」
すると、ライはショックを受けたように泣き崩れる。効果音は『よよよ~』かな。ってそういう場合じゃなくて。
え、あたし言い過ぎた? そんなことないよね?
って震えてるし……え、ちょ……泣かないで……。
「ご、ごめん……ごめ――」
「……だったなんて」
「え?」
近くに行ってオロオロしてると、声が微かに聞こえた。声が小さすぎて聞こえなかったから、耳を寄せて聞き返すと、
「友達だったなんてショック!!!!」
「こっちの方が友達だとすら思われてなくてショックだよ!!??」
っていうか、叫ばないで五月蠅いから! 耳が、耳がぁ!
すると、三つあるベッドのうち、レンの寝てるベッドがモゾモゾと動いた。かと思うと地獄から呼ばれるような地を這う声が聞こえてきた。
「二 人 と も 煩 い 今 何 時 だ と 思 っ て い る ん だ い ?」
「「すいませんでした!!」」
ライとあたしはピッタリそろった土下座をしましたが何か? 額と言わず顎が床に付くくらい深くしてますが何か?
ああ、蘇る悪夢の時間――帰ってきたときの回想はいいか。ただ、般若と地獄の火を見たとだけ言っとこう。
……もう寝ようかな。
いつの間にかウサギ型になってたライを持ってベッドに入る。胸の上に下ろすと、ちょこちょこと移動する……ってそこは顔だから。まあ、もふもふしてて気持ちいいから別にいいけど。
そして夜が明けつつある中、眠りに就いた。
***
「ナオー、起きてー」
なんか柔らかいものに頬をてしてしされてる。ああ、気持ちいいな~。
「起ーきーてー」
今度はお腹の上でジャンプしてるのか重みが等間隔で加わる。なんだろう、このほっこりするような幸福感は。
「起きろっ!」
「何すんのこの野郎!」
あ、ライごめん。ついカウンターしちゃった。てへ☆ 別にイラッとしたからじゃないよ。
でも、いきなり殴り掛かってくるんだから、正当防衛だよね?
……あの、ライさん? お腹抱えて蹲ってるけど大丈夫? 治癒魔法要る?
「最近ナオが乱暴に……あ、ありがとう」
「そうかな? どういたしまして」
よほど痛かったのか、涙目になってる。治したからもう大丈夫だって。顔がきれいだとどんな表情もカッコいいなんて嫌な世の中。
それはいいとして、そんなに乱暴では――
・器用0でやりすぎて、相手に致死量のダメージを与える
40話 魔王との決闘 60話 睡眠魔法
・ただのドジ
54話 雷草
・意図してやった?
さっきのカウンター
ない、はず。……ないよね?
気まずそうにしてるとライが外に行く準備をする。あれ、何か用事あったの?
「仲直りしに行くんでしょ?」
ライが微笑しながら聞いてくる。
そうだね。後回しにするのはあたしの悪い癖だよね。
「うん!」
「どこに行けばいい?」
おー、転移魔法で送ってくれるの? えっと、真ん中の国……何て名前だっけ?
「ノルス王国だね。確か前に覚えてって言って地図を渡したよね?」
そういえばそんなことを言ってたような……でも最近忙しかったし……いえなんでもありません、なので地獄の門だけは開かないで!
「今は行かない方がいいよ」
「え、なんで?」
「ちょっと問題が起こっててごたごたしているのさ」
曰く、勇者に隷属の首輪を着けようとしたことが問題になっているらしい。「優しい勇者様に何て事を」と、国民や周辺の国から反感を買ったらしい。
あぁ、だから前に怪我を治すよ、みたいな活動をしてたのね、雪様。良い人アピールかな。
で、現在は他の国が後見になってたり、自由に冒険して活動してるらしい。つまり場所が分からないということだね。……せっかく決意したのに!
「え!? ナオって勇者だったの!?」
今更っ!?
「うん。一応」
え、そんなに驚くこと? ああ、魔王だからか。心配しなくても討伐とかしないし、そもそもできないもん。力量差があって。
そんな時、部屋のドアがノックされた。
読んでくださりありがとうございます。
なかなか仲直り出来ない主人公。いつにしようか




