58.出鼻を挫かれた
「とは言ったものの、どこか心当たりない? 昔行ったことある施設とか」
「うーん、百年くらい前の話だからねー……う~ん」
そうかー……って、百!? 十ではなく?
……腕組みして難しそうな顔してるけど、どこからどう見ても十七、八くらいにしか見えない……。
「人の顔じろじろ見てどうしたの?」
「いや、ちょっとね……ぶっちゃけ、今何歳?」
「え、百三十七歳」
「た、タイラントお」
「タイラントでもお爺ちゃんでもない!」
ぐえっ。
あ、痛くない……そっか、腕力が、もう……。
「でも、最後まで言わないうちにタイラ――ごふごふ、ライが言ったから、自覚してるんじゃ……?」
「 ・ ・ ・ 」
ゴメンナサイゴメンナサイ。
なんか、ライの後ろに般若っぽいものが……疲れてるのかな?
……よし、ライに年齢ネタはふっちゃ駄目だね。覚えとこ。
「それで、心当たりは?」
「強引に話を変えたね」
それはもういいから、早く!
「うーん、……あ。フェスタ近くの森のなかにある孤児院に行ったことがある気がする」
「よし行こう!」
「あ、前見て」
人とぶつかるから引くのは良いけどね、急にそんなに勢いよく腕を引かれるとこけるんですが……いや、今はライに抱きしめられる形になってるからこけてないんだけどね? 恥ずかしいんだよ。……それよりいつまで抱きついてるの? 動けないんだけど。
「お前を逮捕する!」
いきなり何!? 死神コスの集団が現れたんだけど、……っていうか、怖い。
「って、え!? 逮捕? なんかやった、あたし?」
「メタ発言をしたことだ! 56話での『物語の主人公になれてるか分かんないけど』だ」
「ああ、それ? でもメタ発言って、もっと作品とかの根幹に関わるような……もっと現実寄りの話じゃない?」
「メタ発言の現行犯で逮捕する!」
「「「逮捕する!!」」」
「えっ? ちょっ……ちょっと待って! 鎌振り回さないでっ……ぎゃあああああああ!!!!」
そこで意識がブラックアウトした。
***
「ん? ここは?」
真っ白な天井と、興味深々と輝く目でこっちを見る保育園、幼稚園くらいの子供達。あれ? あたしさっきまで街中にいなかったっけ?
「あ、おきた!」
「おきたね。だれかアイ先生呼びに行ってよ」
「ボク行く~」
遠くからアイせんせーって声が聞こえる……って、アイ君!?
「あ、起きましたか」
そう言って、正面の入り口から入ってきたのはエプロンを身にまとったアイ君。
あっれー? 見た目は確かにアイ君なんだけど、なんか、さっきみたいな狂気じみた雰囲気は無いんだけど、ほんとにアイ君?
あたしが訝しげに見てると、太腿の上に女の子がダイブしてきた。
「あのねあのね、あたちが見つけたんだよ! それでね、先生に言ってはこんでもらったの!」
「そうなんだ、ありがとね」
頭をくしゃっと撫でると嬉しそうにはにかむ。うん、癒される。
……ちょっと落ち着こう。
まずここはライが言ってた孤児院か何かの施設。
この子供達は実験体かただの孤児、最悪実験体に使うための材料。
……ってことは、あたしは一人で敵陣の中に入ってしまったと。
もしかしてあの謎の集団もここの差し金!?
「あの、助けて頂きありがとうございます。……ここは『反――」
「ここでそういう話をするものじゃありませんよ」
ゾクリ……と寒気がし、背中を嫌な汗が伝う。
そんなライと対峙した時に見せた不気味な笑顔――は子供達の遊んでコールの前にすぐに消え、人当たりの良い笑顔が浮かんだ。
そして、「本当にこの家の前に倒れてただけですよ。この子達の言ってることは本当です」と言い残して部屋を出て行った。
話を聞く限り、この子達は関係ないってことなのかな?
でも、病院みたいな内装だし、何かの施設ではあるんだろうけど。それとも、たまたまそういう内装だったとか? ……まだ分かんないね。もっと詳しく調べないと。
「おねーちゃんもいっしょに遊ぼ!」
「う、うん」
そして、ダイブしたまま太腿に乗ってた女の子に手を引かれながら部屋を出た。
読んでくださりありがとうございます。
ライの年齢が……他にも居ますよ、もちろん。
弟君とライあわせて全員で8人ですね。学園編で出てくる予定。
…投稿予約出来るといいなぁ。
…死神コスの人達はただのメタ発言取締役です。こちらも何回か出てくる予定。




