57.兄弟喧嘩
「そ~して、……は両……を殺…、ぼ~く……てた」
ん!? 殺? 今殺って聞こえた? っていうか幽霊!?
耳を澄ますと声の主が近づいてきてることが分かった。
「そ~して、ライは両~親を…し、ぼ~くを捨……」
ライって……タイラントのことか!
「タイラントじゃ……て、アイ?」
アイって、この声の人で、魔王の弟君かな?
「そ~して、ライは両~親を殺しぼ~くを捨てた! …………ない。…さない」
シンと静まり返った中、アイと呼ばれた声の主はヒステリックな声を上げた。
「許さない!」
そして浮かび上がるのは、不気味な姿の者……じゃ無くて、白い小さなウサギ。
・ ・ ・ え ?
あ、タイ――こほん、魔王がやってるみたいなことかな? タイr――魔王は黒いウサギだけど。
タイランt――魔王の弟だか
「もうライって呼んでよ!」
あ、タイラント間違えたライがお怒りのようです。ゴメン謝るからその握り拳仕舞って欲しいんだけどグエッ。
それよりライがデレた。鯛と鳥っていう名前にコンプレックスを持ってたライが、その名前で、しかもファーストネームで呼んでってデレああもう考えませんスミマセッ……ぎゃああああ。
「別にライって名前にコンプレックスを持ってたわけじゃなくて、ナオにはそう呼んで……」
「あ、またデレゴメンナサイゴメンナサイ」
「お兄様は僕のことはどうでもいいんだね!?」
ええええ!? 確かに空気になりかけてたアイ君の目から大粒の涙がポロポロと、どうしよう。……っていうか、人型……可愛い。
「アイ、泣かないで。アイは俺の大切な家族なんだ。だから……もう」
「嘘つき! それじゃあ何で“大切な家族”のお父様とお母様を殺したんだ!?」
「それは……そうするしか……」
「お兄様が消えてから、お兄様に捨てられてから寂しかった……! だから、僕に残された“大切な家族”の最後の希望を『反神』を造るんだ! どんなことをしても、必ず!」
「アイ! やめるんだ! また俺達みたいな失敗作をっ!」
「ぼくは失敗しない! ぼくは天才だから、お兄様やおねーちゃん達みたいなことにはしない!」
「お父さんやお母さんはそう言って失敗して、壊れ……」
「煩い! うるさいうるさいうるさいうるさいうるさい! 捨てたのならお兄様には関係ないんだ! 僕にもう、関わらないで!!」
そして、両手で耳を塞ぐアイ君の指がキラリと光った。
あ、アイ君の左手にあるあの指輪って、もしかして魔王の破片? 直感だから自信は無いけど、多分そうだ。
「待って!」
そう手を出すのと同時に、アイ君は光を残して消えた。
「……」
「……」
あたしは気まずい沈黙を破った。
「ねえ、さっきの両親を殺したって本当?」
すると、ライは最初みたいにビクッと震えた。けど、今度は向けられる視線に、焦りが入ってる。
ああ、きっと嫌われたくないんだ。あたしも嫌われるのは嫌だけど、ライはもっとその思いが強いんだ。――何故かそう思った。
「うん」
警戒の混じった声で答えるライ。
あたしは目をしっかり見て言う。
「親を殺すのはよくないよ。例え何があっても」
そう言うとライはガタガタと震えだした。
「でも、殺さずに何とかしろっていうのも詭弁なんだ。仕方ないって言ったらお終いだけど、必ず何かを殺してる。賛否両論あるんなら、せめて、自分のした事に自信を持ってよ」
「なにそれ……でも、そうだね。ありがとう」
そしてクシャッと泣き笑いをする。確かに、自分で言っててそう思う。
あたしも苦笑をした。
うん。
あたしはまだ涙の跡の残るライにニヤッと笑いかけ、言う。
「それじゃあ、ライ。行こうか」
「どこに?」
「アイ君のとこにだよ。仲直りは一秒でも早い方がいいじゃん」
「うん!」
「それじゃあ、行こうかタイラント」
あたしも、お兄ちゃんや陽と仲直りしないとね。
「……タイラントじゃないよ」
こそっと、静かに少年は微笑んだ。
珍しく予約出来ました。ワーイ。
大分デレてきたライ君。
主人公が変なこと言った……あまり思い浮かばなかったんです




