56.独り
これはなんて書いてあるんだろ。しん、あい? を……?
「どうしたの?」
するとタイラントの声がした。慌てて本を後ろに隠すと訝しげな視線を送ってくる。
わー、なんか修羅場。
「なんでもないよ~。それよりタイラ――」
「じゃ無い」
「ぐぇ」
パタリ
あ、殴られた衝撃でファイルが落ちた。
タ――魔王それ拾ったら……!
「……見たの? どこまで?」
うわあ……これあれかな? 記憶諸共消すよ的な死亡フラグかな? なんか暗黒オーラが見えるんだけど。
と、とりあえず正直に話そう。まだ助かる望みはあるかもしれないし。
「タイトリーくん、メモみたいなのって、その……」
あたしがそう言うと、魔王はビクッと震え、怯えたようにこっちを見る。
あ……きっとこれまでも、こんなことがあったんだ……。
その反応はこう思うのに十分だった。
ここであたしが他の人みたいに奇妙なものを見る目、よく分からないものへの怯えた目をおくることは簡単だろうね。
あたしは会わなかったってことにして、誰に対してもどこか距離のある魔王は一人に戻るだけだから。
あたしも前は実害は無いものの、クラスで浮いてたし。
……でも、家に帰ったらお母さんが美味しい料理を作ってくれて、お兄ちゃんを殴って、陽と話して。
本当は一人じゃなかったんだね、あたし。
でも、魔王はあたしが想像付かないくらい寂しかったりしたんだろう……。
あたしはヒーローになんかなれないし、判断もきっぱりしないで周りに流されてここまで来たし、物語の主人公になれてるか分かんないけど……ここで突き放すのはよくないって思う。
だから……
「それよりタイラント、探し物は見つかった?」
受け流すことにした。
意識して明るくいうと、タイラントが石像になった。どうせなら自由の女神とか二宮金次郎のポーズをして欲しいんだけど。
「あれ? 否定しないって事はタイラントって名前を受け入れてくれたの? やった!」
「……俺が怖くないの?」
あれー? 一人称が俺になってるんだけど? それとシリアスに戻さないでよ。ガッツポーズしてるあたしがおかしい人じゃん。
「怖くないって言ったら嘘になるけど……あたしも今色々おかしなことになってるし、大丈夫じゃない?」
「そう……かな? ……そうだね」
……これ口調について聞いた方がいい? 一人称が俺に変わったのに、なんで口調が変わってないの? とか……別にいいか。
「でもなんで急に潜入を?」
「……ここに俺の弟がいるんだ。俺と同じ被験者で……反神仏教団の最高管理人をしている弟がね」
……え?
……え゛。
「それで、もう被験者を出させないようにって思って」
お~正義感の強いお兄さんだね。でも続けて言った「ダンジョンにいたライオンの獣人ネリーみたいな」っていうのが気になる。
「それで、神が一緒だったら何でも出来るかな? って思って……。他人行儀で悪……」
「え、神なら宿屋だよ?」
「え?」
「え?」
……一旦落ち着こう。
「レンから神の一人だって聞いたよ?」
「なんも聞いてないけど?」
「え?」
「え?」
……もう一度落ち着こう。
「つまり、あたしは神だと」
「そう聞いたよ」
……ヤバイ。このセリフだけ聞くとものすっごいバカっぽいんだけど。っていうか、治まりかけてた中二病が……治まれ、あたしの中の暗黒病ー……なんかもう駄目な気がする。
「……一般人だよ?」
「神とか魔王とかと知り合いの一般人がいるもんか」
そう言われると自信無くすんだけど……。
「でも、そんな感じはしないよ? どんな感じかも知らないけど」
そう言うとタイ――魔王は頭を抱えて悩みだした。……ねえ? 最初どれくらいあたしに任せる気だったの? 作戦をちょっと聞きたいんだけど?
ジトッとした視線をタイラン――魔王に向けていると、声が聞こえてきた。
読んでくださりありがとうございます!
また、微妙な終わりです。スッキリしませんね。
まさかの主人公神疑惑。
まだ当分、晴れません。
……設定では……ゴホゴホ。
次の次から二人が本格的に動きます。
では、水曜日の6時に。




