44.炎の愛って何!?
読んでくださりありがとうございます!
二個目ゲットですね。
「お買い物に行きましょう!」
目の前の少女――雪様がいかにもわくわくしてますって風に両手を胸の前で握って、満面の笑みで言う。え、買い物? それだけ?
誘ってるときなんかおかしかったから身構えたけど、今は特に違和感も無いし……ホントにそれだけなんだろうね。
「ええ。異世界のアクセサリーとか、着けてみたいと思いませんか」
「え、うん。そうだね?」
あたし達は貴重品とかが集まる左に続く通路を歩きながら話す。
今更だけどあの宿って建ってるとこすごいと思う。一番よく使われる出入り口の近くで、そこから右の街道を歩けば宿屋、左で商店やレストランみたいなとこ、真ん中は露店やギルドがある。ここから反対が住居らしい。ほんとなんで客少ないの。
「そうと決まれば行きましょう。……そういえば今日は居ないのですね、あの少年」
「え……」
「いつも物陰からこちらを伺ってた黒髪の少年のことですわ。シャイボーイというものなのですね」
「そ、そうだね」
いやいやいや! 違うよ、断じて違うって。あれはストーカーだよ! 雪様気付いて!
そして魔王、勇者にばれてるよ。隠れれてない!
勇者と魔王、こんなんでいいの!?
見るからに怪しい格好をしてストーカーしてた魔王を“シャイボーイ”っていって放置する勇者も勇者だけど、実力で魔王になったくせにストーカーしてばれてる魔王も魔王だよ……。こんな人ばっかりだったら世の中幸せだね!
……いや、ある意味阿鼻叫喚かな?
ちなみに魔王はウサギの姿のまま側近だという人達にもふられながら引き摺られていった。人手が足りないから手伝えと、仕事代わった分を働いて返せと……。魔王、それでいいの?
「あら、これとか可愛いですわよ。奈央さん着けてください」
いつの間にか着いてたらしく、そう言って雪様がトランプの模されたネックレスを見せてくる。確かに可愛いね。
あたしはネックレスを受け取って、雪様の首に掛ける。
「はい。やっぱり雪様が着けると更に可愛いね」
……ん? 今あたしなんて言った? なんか異世界来てからなんか変わった気がっていうか確信がするんだけど……。
あたしは、恥ずかしさを紛らわせるように言う。
「あ、あたしはこれをあげるから会計に行ってくる」
ネックレスをむんずと掴んでスタスタと歩く。
思ったよりも安かったね。今度は普通に発音が『エン』だったけど。また『yen』って聞かないかな? 探してみよ。
お店の出入り口付近には、いつの間に買ったのか、紙袋を持ってる雪様がニコニコしながら待ってた。
「ふふ……。そういえば、りんご姫って知ってるかしら?」
「知らないよ。……こっちって露店の方面だよね? 買い物は?」
また通路を歩きながら話すけど、まっすぐ伸びた、五人も横に並べないくらい狭い通路は、雪様たちが治癒したり話してたあの場所に繋がってる。
「そうですわ。……まだ奈央さんに買いたいものがあるのなら買い物を続けますけど……」
「いや、いいよ」
言外に買いたい物は無いよねって言われた気がする。
そして露店の並ぶとこに出ると、いつか見たような光景が広がってた。
「きゃああああ! 王子ー!」
「王子ー! 明日は姫なのかー?」
騒々しいとしか言えないよ。
あたしは雪様に周りの喧騒に負けないくらい大きな声で聞く。
「りんご姫ってー?」
その瞬間、皆がばっという効果音が付きそうな勢いで一斉に振り返った。うわ、怖っ。
あたしがぎょっとしてると、近くにいたおじいさんが叫ぶ。
「りんご姫は神が我等に与えたもうた希望への道標」
「この不浄の地を変え」
「悪しき世界をも変えて下さるお方だぞ」
「無礼者!」
それに、周りが息をつく暇もないほど続いて叫ぶ。
『無礼者』の合唱に逃げるように輪を外れた。
「では、これを使って下さいね」
「あ、ありがと。じゃあ、これ……っ!」
あたし達はさっきの通路まで戻ると、雪様が紙袋に入ってたネックレスを着けてきた。あたしが買った分を渡そうとすると、指輪を着けたときに聞いた機械的な声が流れ込んできた。
『このアイテムは呪われています。全てを集めれば外すことが出来ます。神の導きがあらんことを。このアイテムの呪いは、炎からの愛です。このアイテムは……』
「ふふ、ありがとうございます。ずっと使わせていただきますわ」
そして雪様は約束したときに見た笑顔を浮かべ、それではと言うと去っていった。
……とりあえず一つ言わせて欲しい。
炎の愛って何!?




