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このアイテムは呪われています!  作者: マリー?
4章.仲間との出会い~魔王編~
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42.買い物をしていたら凄いことになった

読んでくださりありがとうございます。

 


 お腹の上にかかる微かな重みで目を覚ましたあたしは、とりあえず重みの主をまでくりまわしてから気持ちよく目覚めた。伸びをすると、タイラントは迷惑そうにレンの使ってるベッドのほうに行く。結局また寝るんだ……。

 あたしのベッドの対極にあるそれとは木目の綺麗な机と椅子、そしてやわらかな光を招き入れる窓を挟んで置かれてる。ガラス代わりの木の板が下に置いてあるのは、多分レンが開けたからなんだろうね。石の壁って思ったより重厚感っていうか冷たさがあるんだよね。なんか精神的にも物理的にも。だからか余計机とかを暖かく感じるんだろうね……はっ。何言ってんだ、あたし。あたしはこんなロマンチストだったっけ?


「おはよう、よく眠れたかい」

「おはようレン。ぐっすりだよ」

 あの後、一日に二度も魔力を使い果たしたあたしはベッドにダイブしたらしい。それでもご飯食べたりしたんだとか……なんか帰ってからの記憶が無いんだけど。人間って無意識でなんでも出来るんだろうね、きっと。

 さて、朝ごはんを食べて聞き込みと買い物に行こうか。


 ***


 いつもとおんなじものを食べてる気がしなくも無いけど、味付けが毎日変わるから飽きないね。凄いこだわり。一回会ってみたいね。


「最初に服屋だね」

 肩に乗ったタイラントが言う。滅多に人に懐かないエセウサギに似てる所為でタイラントが注目を浴びてるけど、気にせずに話しかけてくる。あれ、気がついてないのかな?

「うん。……どうやって話してるの?」

 気になるよね、人みたいに色々な声が出ないのに声が聞こえるんだから。タイラントのほうを向くと、頬がふかっとした感触に囚われる。もふもふー。

 タイラントは身を捩りながらも得意げに説明する。

「空間掌握って魔法の応用なんだ。空間掌握っていうのは魔力を薄く広げることなんだ。それで、把握する魔法なんだ。ポイントは、体内を流れる魔力と同じ状態にすることだよ」

 それで、まだ身体の一部にあたるから、手足がすごく伸びてる状態なんだ。と前足をぐっと伸ばしながら付け加える。(可愛い!)

 手足が伸びる、で麦わら帽子をかぶった海賊を思い出したのはあたしだけかな? だけだね。異世界まで知ってたらすごいよ。


「それでその応用だけど、普通ならそのまま魔力は消えていくんだけど、僕はその魔力を使って空気を支配下において振動させてるんだ。魔法科学の分野だけどね」

 ま、まほ……でも科学だから詳しいんだ。地球とおんなじだよね、基本的なことは、多分。


「それなら、他の人の声とかも真似できるの?」

「うーん、よく聞く声ならね」

 その、よく聞く声が聞こえてきて頬ずりをやめてタイラントのほうを見る。びっくりしたよ、いきなり聞こえて。

 それって、

「レン?」

「そうさ、ボクはレンだよ。キミの名前はなんだい?」

「ナオだよ、よろしくレン。あはは、すごいねタイラント」

 あたしが笑いながらそう言うと、タイラントがぴたっと止まる。あ、あれ? あ、タイラントって呼んだからか。

 そして、タイラントは嫌そうに言う――あたしの声で。

「うるさい、僕は魔王だ」

「あれ、なんか変わってないですか魔王様。貴方はそんな性格でしたっけ?」

 ウサギなのに逆らえない怒気と剣幕に思わず敬語になるあたし。

 って、それよりも!

()るさいって何!? 外国人の慣れない日本語みたいだよ!? うる()い、だよ?」

「仕方ないよ、慣れない人だとぼんやりとしか思い浮かばないんだから……」

 あ、イメージ? 確かに、ぼんやりだと魔法って発動しづらいもんね、知らんけど。

「他にも、振動させるところを制限すれば、聞こえる対象を絞れるんだ」

「へー、そうなんだ……なんで笑ってるの?」

 なんか、よく分からないけど笑ってるような気がする。そういえば、こんな風に考え出した魔法を言っていいのかな? 結構貴重だと思うけど。魔法という名の知的財産。この会話って周りに……。


 あたしは、周りの視線がこっちを向いてるきがして、足早にレンに教えてもらった服屋に向かった。


 金髪のツインテールが、鳶色や白っぽい色の髪の中に見えた気がしたのは気のせいかな?



 ***


 そそくさと昨日稼いだお金で何着か普段着を買ったあたしは、服を入れるために追加でリュックサックを買って(近くに売ってあった。荷物はまとめて中に入れたからちょっと重い……)潜入用の仮面とマントを買いに来た。普段着とかで六割くらい使ったけど、思ったより報酬が良かったからか、まだ沢山残ってる。忙殺されかけたけど。


あたしは魔王おすすめのお店に来た。潜入用のものを売ってるとは思えないくらいお洒落なお店だね。いや、まあ普通に戦いに使うようなマントとか武器もあるけど。

薄い紫を基調にされた店内は、日本のお店でも通用しそうだった。商品はあれだけどね。


 さっきは色々驚いた。お金の単位がおんなじで会計の時に矢鱈と発音のいい『yen』だったのには吹きそうだったけど。でも、お金の価値も似たようなもんだった。銅貨一枚が百円、金貨一枚が千円(銀のほうが価値が上だった。魔を祓う効果がどうのこうのだとか)銀貨一枚で一万円。例えば銅貨十枚で金貨一枚だった。さらにその下に鉄貨があって、一枚一円だった。十円は!?

 それに極めつけは服が畳まれて置かれた木箱に書いてあった『二割引ですよ!』という漢字仮名交じり文――まさかの日本語だった。前の勇者達、伝えすぎだと思うよ? 日本文化を。これまでの勇者が日本から来たかは知らんけど。


 思い出し苦笑いをしながら壁に掛けられたマントを物色してると、魔王の姿に戻った(タイラントが嫌だったの?)タイラントが白い、目を覆うような仮面を渡してきた。よく見ると、右目の周りには黒い蔦みたいな模様が描かれてる仮面だった。

 ……。

「こんな派手な仮面を着けろと言いたいの?」

「さっき黒い潜入服を買ってたよね、だから」

 え、それは身軽そうだったから。っていうか、七分丈の服とズボンで行けと? 確かに柄とか無い、強いていうなら袖が肩の近くで隙間を空けて大雑把に縫われてるくらいだよ?


「はい、これ。それとー……これも」

 そんなのお構い無しと次々と渡してくる魔王。最初に渡された仮面の次は黒地に、銀糸っぽいもので下に少し蝶とかなんかの蔦みたいなのが刺繍された膝下くらいまでのローブ。最後に太目の白と黒の線がくの字に交互に描かれたヘリンボーン・ストライプ模様のマフラーらしきものが渡される。


 ローブを見ながら魔王が言う。

「どれも量産されてるものだし、このローブは魔力を流すと姿が見えなくなるっていう優れものだよ」

 ……い、色々考えてるんだね、魔王。確かに、特徴的な服だったら分かるもんね。姿をかくせるのか。擬態もあるけど、成功率が心配だもんね。さすが魔王。なんで色々知ってるのとか聞いちゃ駄目だよね。


 あたしは全てをもう一回みて思う。

 あ た し を 中 二 病 に 仕 立 て 上 げ た い の !?

 そ し て な ん か 合 っ て る の が 癪 な ん だ け ど !


 はあ、もうすぐお昼だし、情報収集しないと。もうこれでいいかな。値段も値札らしきものを見る限り大丈夫そうだし(決してかっこいいとか思ってないから!)。



 静かに会計に向かうあたしを魔王は嬉しそうに見送った。



 ***

 それからなんか食べるのと情報収集のために屋台の集まるとこに来た。

 おいしそうな匂いに食欲が刺激されてとりあえずなんか食べてから聞き込もう、と思って買った串焼きを食べようとした矢先に、声が耳になだれ込んできた。

「勇者様あの時は助けていただきありがとうございました!」

「今日は息子の怪我を治してくださいませんか!」

「おい、抜け駆けすんじゃねぇぞ!」

「大丈夫ですわ。今日は皆様の怪我を治して差し上げますから」

「「「おおおおおお!!!!」」」

「さすが勇者だ」

 喧騒に交じって聞こえてきた声に魔王とあたしは、何千人も集まったかのような大きな集団の方に向かった。

「雪様!? え、……っ!」

「師匠!」

 そこには見慣れた少女がいた。ツインテールの髪を解き、綿のようにふわふわさせ、碧の目を細め慈愛に満ちた笑顔を振りまく。昨日とは違う白いレースが重ねられたドレスに身を包んだ聖女ともいえそうな姿の雪様だ。


 あたしは、その周りを見て戸惑う。そこには、優しそうな笑顔を貼り付けて相槌を打ちながら怪我を治してるけど、その目は虚ろで、かと思えば狂気を宿し、身を僅かに震わせる勇者が居た。治されてる人はそんな勇者の様子には気づかずに、勇者との会話という滅多にない機会に興奮してる。やがて、興奮が集団を包む。

 周りは、近づいて自分もご利益に(あずか)ろうとするものや気味悪がって逃げるもので、ほとんど空いてしまう。屋台で売ってた人まで勇者に近づく始末だ。


 あたしは、こんな時に見つかったら殺されると直感で悟り、雪様の方に行こうとする魔王の手首を引っ張って、見つからないように路地裏に逃げ込む。



 そこには、

「おぃ、やめろよ! はなせっ! このっ!」

 いつぞやの自称ライオンの猫耳少年が居た。

「早く詰めて人が来る前に運ぶぞ」

「はいっ」

 そして、猫耳少年があたしを見て固まってる隙に、二人のごつい大男と弱気そうなもやしみたいな男が麻袋みたいなのに猫耳少年を入れ、担ぎ上げる。(ほとんど大男が担いでる)

 そして、逃げようとしてあたしと目が合った。次に魔王に逸らされる。

 皆して時が止まったように固まる。


 ……ぐうぅ。

 そんな気まずい沈黙を破ったのは、袋の中から聞こえた食事を促す可愛い音だった。

「……や、やんのかコラ。み、見られたからにはやるしかないがな」

「そ、そうだぁ……」

「そ、そうだね。その、その子は知り合いだから、か、返せー……」

「……」

 ……なんで無言なの。魔王も会ったよね。ダンジョンマスターだよ?

 ここは、返してもらう場面じゃないの?


 と、とりあえず、武器、武器……。手に持ってた串焼きを魔王に持ってもらってリュックサックを下ろす。

 そしてあたしはリュックサックを振り回す。

「え、えいぃ!」


 ゴンッ。

 そんな音を立てながら大男の頭に当たる。あ、日記(お兄ちゃん特製の本)入れてたの忘れてた。

 痛そう……。弱気そうなのは腰を抜かしてるし。大男が落とした袋から呻き声が聞こえた気がしたのは、とりあえず気のせいで。


 リュックを軽くぱっぱと払ってから背負う。うん、重い。


 人攫いの二人がよろめきながらも逃げたのを確認すると、袋の近くに行って紐を解いて猫耳少年を助ける。


「お、おねーちゃんありがとー……」

 さっきの落ちた衝撃で潤んだ瞳を、上目遣いにしながらこっちを見る。

 か、かわいいー!

 魔王から串焼きを受け取って、猫耳少年に渡す。

 尻尾と耳をもふりながら優しい声音で聞く。

「なんてお名前?」

「はぅ、やめふぇえ……。ら、ライアンって、んぐ。おなみゃえ……でふぅ」

 可愛い!

 食べながらとくすぐりで呂律が上手く回ってない。そして、くすぐりに弱いのか、ライアンは。強気なのもいいけど、こっちも……!


 無言でライアンを見る魔王を気にせずにもふり続けてると、声が聞こえた。

「それで、魔物災害支援金のほうはどうだ」

「はい。ちゃんと国から私のところへ入ってきました」


 それを聞いてあたしの周りの空気が張りつめる。あたしはライアンを見て、笑いかけながら言う。

「気をつけて帰ってね、ライアン」

「う、うん」

 空気を読んだライアンはコソっと忍び足であたし達が来たとこから出てく。



 出ていったのを確認してから、魔王と頷き合い、近くに忍び足で寄っていく。ここで役に立ったね、盗賊のスキル。

 どうやら、この家の角を曲がった先にいるようで、声がしっかりと聞こえる。……こんな大きな声で言ってもいいのかな?

 十分聞こえるけど耳をそばだてて聞く。


 低い声でくつくつ笑うと、高い猫なで声が聞こえた。

「今は勇者が居るから、こっちまでは来ねぇわな」

「勇者様様ですねぇ」

 低い声の男の方が立場は上っぽいけど、話を聞く限り、敬語の人が領主か……。

「で、書類は有るのか」

「はい、執務室の机に」

「見つかるなよ。それで……」

 うーん、録音できたらなぁ。そんな物持ってないし、今居るのは魔王とあたしだけだし、魔王が出来たらな。あたしは普通に無理だけどね。

「魔王って録音みたいなやつ出来る?」

 あたしが耳の近くでゴニョゴニョ言うと、魔王はちょっと赤くなりながら首を振る。なんで首を振るだけ? さっきの空間掌握ってやつを使ったら良いのに。


 ……あ、録音出来るかも!


 音声は空気の振動。ってことは空気を遡ればいけるかも。……でも、それは空気を移動させないといけない、よね……。うわあ。


 うーん。記憶に焼き付けるとか? 魔王が言ってた空間掌握で振動を記憶に焼き付けて、時間魔法で再生するとか……。


 うん、魔法はイメージ。あたしはバレないように隠蔽を使いながら魔力を広げる。なにもなく、ただ、漂うように。次に周りのものを手探りする。なんか、くらいとこを手探りで歩いてるみたい……歩けてるかは謎だけど。

 壁意外と冷たい。びくっとなったあたしに魔王もびくっとなって驚いてたけど、やってることが分かったらしく嬉しそうに微笑む。……先生なのか!? 教え子が出来るようになったとでもいいたいの? 先生あたしのはずなのに……。でも、まあ二人に気づかれなかったようで良かった。

 そんな色々な情報が入ってくると同時に、視界がどんどん明るく、クリアになっていく。わぁ……!


 すると、ボヤッとしか聞き取れなかった声が、はっきりと頭に響く。大きな音で音楽を聴いてるみたいだね。

 おっと、録音録音。


 空間掌握で得た情報をデータみたいに事細かく感じ取り、時間魔法で時間を止めて固定してく……あれ? これあたしの脳みそ大丈夫かな?


 あたしの不安を他所に会話は進む。

 声の低い男は、ロングコートのポケットに手を突っ込み壁に凭れ掛かってる。猫なで声の方は、手を揉み合わせ、前屈みになってる。人相とかは感じ取れなかったけど、ここまで出来たらよしとしとこう。

「俺の言ったとおりだっただろう?」

「はい、午後三時に勇者が破壊しに来る、とは。いやはや、まさにその通りで」

「魔物はサービスだ。それがねぇと金は入らんからな」

「まさしくその通りで。ありがとうございます。お金のほうはいつも通り六割、反神仏教団の方に“寄付”させていただきます」

 そして下卑た笑いを浮かべる領主を最後に、録音を終わった。



 ***

「おかえり。こんな時間まで何をしていたんだい?」

「あ……ただいま、レン。えっと、……街で領主の密会に居合わせて、話を聞いてたら魔王が『反神仏教団』って言葉に驚いてて、その理由を聞いてたら……」

「反神仏教団!?」

『神をも超える力を手に入れる』を掲げてる教団。魔王に聞いた話だと、非人道的なこともやってる、という消滅対象の教団。


「その会話、覚えているかい?」

 魔法のことを話すと、魔結晶をもらって、それにコピーすることになった。思ったよりも魔力を使って、最後は気力で乗り切った。無事出来てよかった。


 終わった後睡魔に襲われて、限界に近いこともあり、あっという間に深い眠りに落ちた。



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