41.ニューワールド?それは古いです
読んでくださりありがとうございます。
「ハローワ○クみたいなのってある?」
魔王が宿屋の正確な場所を知らないらしく転移が使えなかったから、決闘場所からクタクタへとへとになりながらも二時間くらいかけて歩いて帰ってきた。
お昼ごはんを食べた後、宿屋の部屋であたしが口にした言葉に、魔王がこっちを見て軽く首をかしげ、眉根を寄せる。
逆にレンは心を読んだようで、納得の表情をしてから、記憶を探るように思案顔になる。
説明不足だと思ったあたしは、それは、と続ける。
「潜入する用に顔を隠すものとかが欲しいんだ。それに、いつまでもこの服は衛生上良くないから、それも買うためのお金が欲しいんだよね」
なるほど、と納得する魔王にうんと頷くと、レンが唸るような悩むような声で言ってきた。
「うーん……、それなら……ニューワールドや……仕事旋回所……だ、ねぇ」
「えっと、いつの話をして……ニューワールドは今はギルドの傘下に入ってワークワールドになってるし、仕事旋回所は二十年前に潰れたはずだよ?」
魔王の気まずそうな声に一瞬、流行遅れ、時事問題って言葉が浮かんだけど、即座に打ち消す。ま、まあ神様って長い時間生きてるからね。そんな、二十年も百年も変わんないんだよね。ね? も、物知りだねレン。
魔王の言葉を最後に、部屋には居心地の悪い沈黙が下りる。
「……」
「……」
あたしは意識してものすっごく明るい声で言う。
「……そ、それじゃあ、その……ワークワールドってとこに行ってみるよ!」
「な、なら……僕が案内するね」
「あ、ありがと。えっと、行こう……か」
そして、あたしと魔王は部屋を逃げるように足早に出た。
***
「次はこっちお願ーい」
「はーい」
怪我をした人を治癒魔法で治しながら、大きすぎない声で返事をする。無事仕事が出来てるのはいいんだけど、人員が圧倒的に足りなくて、てんてこ舞いだ。
あたしは、あまりの人の多さにこれまでを振り返るという名の現実逃避をする。
魔王に案内されてギルドに到着したあたしは、身分証としても使われるギルドカードを登録して発行してもらってから、ワークワールドの受付なんかがある方に行く。
「ここから自分に合いそうな仕事を選んで、あっちの受付に言って受諾してもらってね」
黒板みたいなとこを指しながら魔王が言う。そこには、チョークらしきもので書かれたHELPの文字や、張り紙が沢山あった。だけど、その中のいくつかは赤い完了の判子が押されていて、依頼達成したものかなと自己完結する。
あたしは、魔王にレクチャーを受けながら、依頼を見て回る。
なんで魔王がこれに詳しいのかは、魔王になる前は依頼で生計を立ててたかららしい。……働いてたんだね、普通に。
近くの六歳くらいの少年が受付のほうに行くのを眺めながら、幅広い需要があるんだと考える。
少年が見てた張り紙をチラッと覗き込むと、手紙の配達と書いてあった。郵便局か!? ギルドって。
そして、回復魔法を使える人向けの依頼を見る。そこには、隣町の医療所の手伝いや病気の治療などの依頼があった。さすが、世界を超えて繋がるがモットーのギルド。依頼多い!
すると突然後方から声が響いた。
「申し訳ありませんが、回復魔法を使える方はこちらにお願いします!」
そして、怪我の治療の依頼を出されて、その仕事をこなすうちに、どんどん仕事が回ってきた。多分効率とか、効果とかからこっちに回されたんだろうな。治癒魔法凄い。
「ありがとうございました」
おずおずとしたお礼の声に、現実に戻る。どうやら、治癒し終えたらしい。……手が勝手に動くようになってる……どんどん下っ端になるね、あたし。
「お疲れ様ー」
「お疲れ様でした」
そして、一人一人に報酬が手渡される。なんか、他の人より多い気が……気のせいかな?
あたしは報酬を貰ってから、ちょっとだけ重い袋を持ちながら帰路についた。




