40.強いのは魔王?
読んでくださりありがとうございます!
遅れましたすみません!いやこれには訳があってですね?やる気がですね……ははは。今回は強いのか弱いのかよくわかりませんね。ではどうぞ。
「そこで師匠がワンピースの裾をはためかせながら助けてくれたんだ。カッコよかったよ」
あたしは今、魔王から師匠との出会いと弟子になった理由を聞いてる。……一時間くらい。
最初に聞いても無いのに自慢げに話し出したから「あ、これ長いやつだ……」って思って、取り敢えずは(朝ご飯を食べてないのもあるけど)宿屋の食堂に入っていつも通りにシュウトウ(サンマみたいなやつ)の塩焼き、数種類の豆の入ったご飯、にんじんとかが入ったコンソメスープという若干和食を頼む。って、もうとっくに食べ終わってるけど……。
なんか近くを通るお客さんがあたしの方を見てギョッとしてたなあ。まあずっと変わらない座った姿勢のままで、虚ろな目をしてたらびっくりするよな、普通。
なんか、女子のお話を延々と聞かされる彼氏の苦労が分かったよ……。
雪様の凄さはもうお腹いっぱいだから、この話から逸らそう。
「そうそう、そういえば物陰に隠れるようにして、雪様の後をついて行ってたのはなんで?」
「見守っていたんだよ。そしてあわよくば弟子にしてもらおうと思って……」
弟子じゃなかったの!? 師匠って呼んでるのに? あ、名前が分かんないとかかな? あたしが何回も雪様って言ってる気がするけど。
それに、見守るって、あれは完全にストーカーな気がしなくも無いんだけど。
「それはやめたほうがいいと思うよ、お互いのために」
だって、魔王が勇者のストーカーってアウトだと思う。
あたしが話が終わったから部屋に戻ろうと席を立つと、突然魔王が言い放つ。
「それじゃあ、さよう――」
「決闘しよう!」
同じく立ち上がって両拳を握り、真剣な顔で言う。あれ、なんかどこか楽しそうっていうか嬉しそうっていうか……真顔なのになんでそんなんで感じるのかな?
っていうか、
「話飛びすぎだね!? なんでそうなったの! 嫌だよ」
「僕の一族は意見が割れたときは決闘をするっていう決まりなんだ」
あたしが、机を軽く叩き(本当に騒がしくてごめんなさい)身を乗り出しながら言っても、魔王はどこ吹く風とばかりに、あたしの拒否を聞き流す。ちょっと!
さっきよりもわくわくの度合いが高くなってない?
っていうか、普通にやめよう。世間体が、ね。
「いやいやいや、あたしは決まりに関係な……ここどこ?」
急いで部屋に戻ろうと、机から手を離そうとしたとこで手首を掴まれ、気がついたらよく分かんないとこにいた。いや、草花の無い石だらけの地面に、右の五百メートルくらい先に消えた森と、家のほとんど無い廃墟みたいなとこがあるから、大体、雪様被害の村のとこか。でも、町は見えない……遠いとこになんで、って決闘か!
「それじゃあ、開始!」
「待って待って待って!」
あたしの制止の声を無駄だと体現するように凄い速さでこっちに来る。なんか魔王が三人くらい居るんだけど!?
どうしよう!
いい案が思い浮かぶまで、攻撃を避け続ける。っていうか、当たったら骨を何本か持って行かれそうなんだけど!? 餌が死んじゃうよ! いいの、楽しみが減るよ?
色々考えてると右から手が迫る。それを左前に進むようにしてかわす。と、背中を蹴られたようで、たたらを踏む。……死なないようにはしてるんだ。
後ろを見ようと足を引くと、なんか丸っこい石を踏んでこける。痛い! 腰打った! でも、幸運なことに石には当たってない。頭の横にあるけど、こ、怖くなんて無いんだからね! ……何へのツン?
っていうか、あたしの器用、働け! あ、0だったね。
と、そんなあたしの上を手が、まるで剣で横に切るように通り過ぎる。……あっぶなー。
一人で慄いてると、ふと、時間魔法の練習のときの光景が思い浮かんだ。バラバラにされた石を戻そうとして、戻しすぎて砂になった石。そしてある作戦が思い浮かぶ。そう――地面も戻したら砂みたいになって魔王を捕れるんじゃね? と。
そもそも、接近戦とか無理だからな、経験なんて同年代の子と比べても圧倒的に少ないからなあ。やっぱり、後方支援がいいな。そこまで使えないけど。
そして、魔王に向かう振りをして通り過ぎようとする。が、読まれてたらしくあたしの顔に腕が迫る。咄嗟にイナバウアーみたいになって、少し前に滑ってから走り抜ける。
魔王って、ただの戦闘狂じゃないのか……賢い戦闘狂なのか。
でも、お互いさっきのスピードのまま進んだから、二百メートルくらい開く。よし、ここで使おう!
そして、地面が砂丘になったとこを想像する。すると、魔法を使うと気づいた魔王は、こっちに走り出す。
うわ、急がないと。魔王の蹴ったとこが抉れてるとか思ったらだめだ。
そして、ありったけの魔力を地面にむかって水を注ぐイメージで流し、砂にさせようとする。
まあ、失敗は誰にでもあるよね。特に器用0のあたしは。
ジュウワアァァァァアアア!
ああ、暑いな。目の前に溶岩があるからかな。惑星とかの始まりって、マグマとかの塊(高温)だからな、多分。肉の焦げるような臭いはきっとその真ん中で埋まりかけてる魔王のものなんだろうな……じゃなくて、助けよう!
気力まで使って地面を元に戻し、湯気を出してぐったりしてる魔王の周りだけ砂状にして(なんで今は出来るんだろう)引っ張り上げて、魔王の体内の魔力(一回も使ってなかったし、あたしも魔力ないし使わせてもらおう!)ごと回復エネルギーにさせる(まあ、あたしもそこまで入れてないから回復速度がちょっとだけ上がっただけなんだろうけど)。回復するまでの間に湯気出てたから、近くに辛うじてあった木の葉っぱを使って扇ぐ。
改めて見てみると、溶岩の中に入ったとは思えないくらい無事で(なぜか服も。やっぱり異世界凄い)、右手と左足、頬がちょっと(左足は白いナニカまで見えてた気がするけど気のせいだよね)焼けてたくらいだった。
「ごめんごめんごめんごめん!」
「あの魔法凄く良かったしいいよ。それより、あの強力な魔法は何? 師匠」
……ナンデソコデホオヲアカラメルノ? こいつ、まさかM……なのか……? 魔王が溶岩に埋まった魔法を(実際はちょっと違うけど)凄くいいって……。痛めつけられたのに……なのか?
……ん? シショウ?
「シショウって……?」
恐る恐る聞くと、その答えは後ろから聞こえた。
「魔王様、先生を見つけたのかい?」
ニヤリと笑いながらこっちに歩いてくるレン。
先生? え、まさかそれだったら止めるべきだよ。魔法とは無縁の世界からきたし。
「はい、後は座学の先生だけだよ」
え、先生になれと?
にこやかに言った魔王の言葉にニヤッとしてこっちを見るレン。……なんでだろう、ものすごく嫌な予感がするよ。
きっと分かりやすいくらいに引き攣ってる顔だろうあたしに、容赦の無い一言を浴びせてきた。
「なら、彼女――ナオに教えてもらうといいよ。魔術、座学の先生、それから餌の彼女に」
「いやいやいやいやいや、絶っ対嫌だよ!? っていうか餌も遠慮するからね!」
勇者として召喚された人が魔王に教えることって何!? 世界平和?
レンは思いっきり首を横に振るあたしを可笑しそうに見てから挑発してきた。
「それなら、千円の商品が二割引きで売られていました。代金は何円ですか? ああ、君が居た世界だとこれくらいの問題は解けないといけないはずだけどさ、できるの?」
……イラ。
「八百円だよ!それくらい分かるから……あ」
言い返してから気が付いた。レンと魔王がものっ凄い笑顔なことに。……ハメめられた!
そしてあたしは勉強を教えることになりました! ああもう!
そして餌は魔王の
「決闘だね!」
という一声で勝負したけど、呆気なく負けたよ! レン曰く、戦闘能力で魔王になったタイプらしい。歴代一位だとか。うわあ。
レンの助け船で、食べるときは決闘するってことになって四六時中は無いから安心したけど、魔王が嬉しそうあだった……。……。
「……やっぱり……危険だ……保護しよう。これからずっと側に居てね」
前半はゴニョゴニョ言ってて聞き取れなかった。けど、言外にお前は僕の物宣言された気が……。気のせいだよね。
そして、歩いて宿屋に戻った。疲れた。




