39.雪様は無事?
読んでくださりありがとうございます。
気分転換に短編「天気くん」を書きました。盛り上がりナッシングなものですが、気分転換にどうぞ。
ちゅんちゅん……
鈴のように澄んだ鳥の鳴き声と、カーテンの開けられた窓から差し込む朱の光で目を覚ます。
わぁ、異世界でも雀がいるんだー、とどうでもいいことを考えながらふかふかの布団の中でまどろむ。
そういえば、最近はダンジョンを進んでたからダンジョンで寝てたんだよね。夜だったけど、アンデッドに襲われなかったな……レンがなんかやったんだろうけど。ダンジョンとはいえ、地べたじゃ無くてタオルかなんかを敷いてたな。そういえばそれもレンが渡してきたんだよな……。タオル一枚でも硬いけど、ダンジョンで慣れたからな……あれ、なんかダンジョンって慣れたら意外といい物件なのでは? って思ってしまうあたり、あたしの頭が危なくなってるのかもしれない……。まあ、普通は無理なんだろうけどね。
でもふかふかで安眠できるこれもレンのおかげなんだよな。
レン、これまで色々ありがとう。あたしに出来ることならなんでもするよ。
そして結構しっかりと考えつつも、未だにまどろんでるという不思議な体験をしてるあたしに声が掛けられる。
「どういたしまして。それなら、お礼は働いて返してくれるかい」
そういえばレンも心が読めたね、っていうかいっつもがっつり読んでくるよね。会話が成り立つレベルで。プライバシーって言葉知ってるかな?
働く……仕事。……ああ、起きたら聞き込みとかしないと。それに書類も盗らないと。
まどろみながらも仕事のことを考えるって、あたしどんどん下っ端っぽくなってくな……嫌な変化。
「ついさっき星名雪を見かけたよ。屋台のほうに行ったみたいだけれどさ、いいのかい?」
からかいの含まれた声で告げられた衝撃の内容にあたしは跳ね起きる。そして、素早く準備する。もともと服はこれしかないから早いけど……早く服買おう。ダンジョンではレンに水を出してもらって洗ったけど、すぐ乾くように簡単にしか洗えなかったから気になるんだよね。まあ、下っ端だから仕事優先だけど。
ベルトポーチに本をいれ、カスミソウの刺繍をちょっと眺めると、がんばろうと心の中で誓いながら窓枠に近寄る。そこからは町が一望できる(ここ三階だもんね)。どこまでも続く異世界ならではの景色をじっくり眺めたい衝動に駆られるけど、急いで雪様の姿を探す。「屋台は……」ときょろきょろしてると、ちょうど右側の宿屋が乱立するとこから歩いてくる姿を見つけた。
ざっと見て、火煙や騒動が無いことに胸を撫で下ろしながら、階段を駆け下りる。宿屋の皆さん、騒がしくてごめんなさい!
出入り口を抜け、雪様を探す。またどっかに行って、被害が出ないように。けど、その心配は必要なかったらしい。
いきなり出てきたあたしに気づいた雪様がこっちに近づいてくる。顔は、いつもあたしに話しかけてくるような笑顔。いつも通りすぎて拍子抜けする。いやだって、あんな別れ方したからなんか会いづらかったんだよ。
「奈央さん、生きていらっしゃったのですね。心配いたしましたわ」
「うん、驚きだよ……」
――色々と、ね。手を胸の前で組み、眉を下げる雪様を驚きの表情で見る。
服が白くレースが軽くあしらわれた地味に高級感溢れるワンピースで、ポーズもあり清純そうで本気で心配してるんだろうけど、どうしてか違和感が消えてくれない。
そして、チラッと視線を巡らせたあたしは入り組んだ宿屋の隙間から、こっちを覗き見る黒髪足枷付きの不審人物を見つけてしまった。
ものすごくどこかで見たような人物が気になってしまって、ときどき相槌を打つくらいで、ほとんど雪様の話を聞いてなかった。
「……ってことでいいかしら?」
「え? えーっと……」
「では、三日後にまたここで会いましょう。それでは」
いきなり聞かれて若干右上を見ながら濁したけど、雪様は気にした風も無く軽く会釈するとすたすたと歩き去ってしまう。
混乱して突っ立ってるあたしを現実に引き戻したのは、レンではなく不審人物――魔王の言葉だった。
「師匠と知り合いなの?」
ししょう?
結局現実逃避をしてしまったような気が……




