表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このアイテムは呪われています!  作者: マリー?
3章.裏切りと出合い~夢の住人編~
38/98

36.新しい仲間ですか?―いいえ、タイラントです

読んでくださりありがとうございます。


今回はいろいろな意味でR付きです。

グロ、痴漢モドキ等苦手な方は飛ばしてください。(特にグロ注意)

暗い話が多くなりましたが、もうすぐ明るくなります……多分。

 

 ダンジョン〈脱落の土地〉



「……食べられているけど、大丈夫かい?」

 ダンジョンを進んでると、急にレンが心配するような、変なものを見るような複雑な顔をしながら話しかけてきた。失礼な。

「回復魔法をかけ続けてるけど痛い」

「それなら離したらどうなのさ」

「断固拒否、絶対いやだ」

 せっかくのモフモフを離すもんか!

 ……でも痛い。どこが痛いかっていえば、左手が痛い。具体的には、あたしはレンに魔法で痛み止めみたいなことをしてもらってるからチクリチクリだけど、痛み止めが無かったら肉を抉るような感覚だと思う。

 更に具体的に描写するなら、あたしの手は万力で摑まれたかのようにビクともしない。つまり離そうにも離せない。思いっきり引っ張ると万力が億力にグレードアップされる。それに耐えて引っ張ってもその“動物”は噛り付いたままあたしの手にくっついてくる。あきらかに牙らしきものが手に突き刺さってた。……見なきゃよかったよ。

 ちなみに三十分くらい“動物”は肩に居座り、このまま噛り付いてる。噛り付かれては回復し、また噛り付かれては回復の無限ループに陥ってる。噛り付かれるたびに血が滴り落ち、回復の合間には白い見えてはいけないナニカが見えた。そこまで見てあたしは、手をペロペロ舐めてるだけだと思うことにした。回復のときに手がボコボコして気持ち悪かったとか思ってないし見ても無いんだからね!

 こんなリスクを冒さないと触れ合えないとか異世界怖い……超怖い。


 でもここまでしてもふわふわの小動物とは触れ合いたい!

 だって指輪の呪いの所為で動物(魔物)は近づかないし、近づいてもレンに瞬殺されてあたしの中でランデブーして天国に逝くんだもん。いや、ランデブーっていっても恋仲ではないけど。


 え? なんで近寄らないかランデブーして逝くかの二択しかない動物がいるのかって?

 それは奥様、旦那様。ものすっごく簡単なことです。


 ギャップ萌えとやらを動物がしたから。

 ……だと思ってる。大丈夫、まだ頭は無事だから。まだ。


 なぜそう思ったかは二時間ぐらい前のことだ。


 ***


 勇者の現状を聞いた次の日、急いでダンジョンを出るため走ってると目の前に黒いウサギが現れた。

 こっちに近づこうと少しずつ歩いてるけど、その歩き方が少しおかしい。後ろの左足を庇うようにピョコピョコと進もうとする健気さに心を掴まれ、あたしは怪我を治してあげようと近づく。

 黒ウサギの数メートル前で手を伸ばしたときに、レンがさも今思い出したとばかりに満面の笑みで言い放った。

「そういえば、人に飼われているウサギは安全だけど、野生のウサギは危険だって話聞いたことあるかい。特にエセウサギは普通に人を襲って食べるらしいから危険視されているのさ。気をつけてね」

 あたしは思わず振り向いてレンを見る。

 ウサギってクローバー食べてるとこしか思い浮かばないんだけど……。え、人って成人男性とかを? ウサギにそんな力が?


 カツッ


 不意に前のほうから、なんかヒールみたいな硬いもので石を踏む音がした。

 あたしは錆びて固まった首を無理やり動かしてウサギを見る。そしてすぐに後悔する。


 そこには血のように紅い瞳を獲物を見つけたとばかりにギラつかせ、鋭い牙と爪を見せつけ、黒い毛を逆立てて猫のようにしなやかな身体を大きく見せてる獣がいた。その雰囲気は百獣の王を思わせる凶暴さと威厳、そして狂気が漂ってる。あたしと目が合うと低く唸り、更に狂気が増す。


 え、まさかこれって指輪の効果もある? 嫌われてるから酷くなったとか!?

 餌は、生餌はいやだ!


「レン。た、助けてっ……」

 必死に助けを求めるも聞こえないふりをするレン。後で覚えてろっ!


「ッ!?」

 そんなことをしてる間に前から、前足の爪で攻撃される。速くて黒い塊が迫ってくるように見える。あわてて避けると、あたしが居たとこの床の石に当たり、石が本当は砂じゃないのかってくらい簡単に抉れる。うん、成人男性を殺せるのも納得。隙間無く石が敷き詰められてるからね、これ……。

 一人で感嘆したり若干引いたりしながら見てると、ふっと黒い塊が消える。と同時に右から首筋めがけて牙が迫る。

 スローモーションになった世界で驚きで固まってたあたしの身体は、それまでが嘘だったかのように滑らかに動き勝手に(・・・)カウンターを行う。

 まるで面倒くさそうに手を振り払うように雑に放たれた右手は、其の実、牙に掠ることなく正確にウサギの頭に当たり、そして素早かった。


 鈍い音がして、ウサギは転がりながら床の石に紅い花を描く。数回転がるとぐったりする。

 あたしは生暖かい手を見て固まる。


 手にはこれでもかというほど血が付いてて、時々滴り落ちる。その血を目で追うと、地面には雨でも降ったみたいに血の池が出来てる。恐る恐る顔を上げ辺りを見回す。そこには、返り血を浴びた木や草花、血を垂れ流し続けてる沢山の人や狸、狐のような魔物、そして長い尻尾を持った獣人が居た。そこはまるで、赤と黒で描かれた地獄絵図のようだった。


 ふと、ある一角に目が留まる。そこには魔人が同じような有様で転がってる。――そこは、ウサギが転がってるとこだった。なぜか、その人が大切な、失ってはいけない人な気がして我武者羅に回復魔法を掛け続ける。


「……ぶかい……大丈夫かい!?」

 レンの大きく鋭い声で目が覚める。いつから寝てたんだろ……。立ち上がろうとすると眩暈や、酷い倦怠感に襲われてへたり込む。


「倦怠感は魔力が枯渇したからなのさ。それよりどうしたんだい、急に回復魔法を魔力が無くなるまで掛けて」

 レンがいつもみたいに余裕そうに少し笑いながら聞いてきた。そしてどこから出したのか分からないけど、水の入ったコップを渡してきた。少し飲むと大分楽になった。

「水ありがとう。……ええっと……」

 なんて言おうか考えてるとさっき見た光景がよみがえりそうになる。けど、よみがえるすんでのとこでレンがニヤニヤしながら言う。

「そんな気だるげな顔で見てきて……誘ってるのかい?」

「何に、とは聞かないからな!」

「そんなことより、懐かれているようだね」

「“そんな”って……いや、忘れよう。……おおー、ウサギ可愛いー」

 全力で撫で撫でしたよ! なんか逃げようとしたけどね。

 まあ、夢のことは忘れよう。どうせ夢だし。ついでにセクハラのそんなこと呼ばわりも忘れよう。嫌な事を思い出さずにすんだとしてもセクハラはセクハラだから。


 でも、懐いたのはなぜ? あ、ギャップかな、ギャップ萌え。決して飴と鞭じゃ無いと思う、多分きっといや絶対!



 ……。

 まあ、うん。

 折角懐いたから飼いたい! ってことを言ったら普通に許可が下りた。やった!

 勿論餌もあげるよってことで肩に乗せて(一回やってみたかった)レンから貰った魔物の肉の余りを口の前に持っていく。それで撫でようとしたら手を摑まれ、冒頭に戻るんだ。


 ねえ、もうすぐ魔力なくなるんだけど。あの水で少し回復したけど、もう切れるんだけど。だるいんだけど……!

 も う や め て !


 最悪レンに助けてもらおうと思って、さっきから考えてたことを言う。

「名前はタイラント。暴君って意味だよ。よろしくねタイラント」

 そうにこやかにタイラントに向かって言うと、怒ってるみたいにじゃれ付いてるみたいに、より噛り付いてきた。いやもう魔力無いから! 地味に痛いし!


「あ、そうそう。タイラントはロロックっていう魔物だよ。よくエセウサギと間違えられて殺されるから数は少ないけれど、転移魔法を使っていたからロロックなのさ」

 あたしが離さないか四苦八苦してると、レンが説明してきた。っていうかレン。タイラントってわざと大きな声で言わなかった? ニヤニヤしながら。

 ねぇ? 言われた瞬間タイラントがもっと力込めたんだけど、気のせいかな?


 でもロロックってミミックみたいだね。いや実際似たような目に遭ったけど……。


 まあ、ふわふわで可愛いからいっか。



 ガジガジガジガジg……

「いい加減離して!?」

 あたしの声は空しく響いた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ