34.呪いアイテムと魔王
読んでくださりありがとうございます!
レンの痴漢が治らない……
苦手な方は昔話が終わってからは飛ばしてください
シリアスが多くなってきた……コメディどこ!?明るさどこ!?
ダンジョン〈脱落の土地〉
「これには色々と事情があるんだ。でも、まずはその指輪の話から話そうか」
レンはそう言って昔を思い出すような、慈しむような声音で話し始めた。
「これは昔のお話……
***
あるところに、とてもとても強い魔王が居ました。
その魔王は生まれたときから強い力を持っていました。
そしてその周りの人たちは畏怖するとともに、適任だ、我々の野望をついに実現できる。と、喜んでいました。
その野望とは、人族や獣人族、魔物を配下にして世界征服をすることでした。
そのために、まだ幼い魔王の子供にたくさんの訓練をし、魔人族がされたことのみの情報を与え、他の種族を憎む操り人形に仕立て上げました。
その中で一人、その野望に反対する人が居ました。
それは魔王の家計として生まれたにもかかわらず、力も弱く、魔王や魔族の象徴である闇属性の魔法も使えない、忌み子の兄でした。
その兄は、力で抑えるのではなく話し合いをして、皆で手を取り合う事を望みました。
兄は何度も説得しようとしましたが、他の重臣や父親の妨害や発言により、その望みは聞き入れられることはありませんでした。
兄は親にまで考えを否定され続けたことで、塞ぎ込んでしまいました。
そしてその操り人形の魔王は、七歳の誕生日の日に正式に魔王となり、征服を始めました。
魔王は、人族を圧倒的な力で降伏させ、獣人族をありとあらゆる罠で陥落し、魔物を残酷な方法で皆殺しにし瞬く間に征服を完了させました。それは、魔王が十歳の頃でした。
その魔王は、征服を進めるたびに畏れられ、復讐の、憎しみの相手として嫌われました。
魔王は、いつからか独裁政治をはじめ、その魔王に意見する者を殺していきました。
それは、重臣に始まり、知将と恐れられた者、そして、自らの父親まで手に掛けました。
そうして、虚ろな目をした、誰にも操ることの出来ない操り人形は全ての者に嫌われ、どんどん壊れていきました。
ある日、魔王は夢の中で神と名乗る者と出会いました。
魔王はいつもの通りに殺そうとしましたが、いつもいつも避けられ倒せませんでした。
その神は、魔王が眠りに就くたびに会いました。
何十回目かの時に神は唐突に言いました。
――事実を教える、と。
それから魔王は、自分が征服する前、征服するとき、征服した後の世界を見ました。
征服する前のその世界は皮肉にも、皆仲良く笑顔が溢れていましたが、征服した後は皆暗く沈んでいました。
そこで沢山のものを見た魔王は、やっと自分のしたことの残酷さに気づきました。それは、魔王が十五歳の頃です。
でも、もう遅すぎたのです。
魔王の作り変えた世界は混沌に満ちていて、もう前のように戻すことは出来ませんでした。何をしても……。
そこで魔王は、神に相談しました。
神は、意思を問い、二つの方法を提示しました。
ひとつはこの世界を終わらせる方法。
もうひとつは魔王を“核”にする方法。
核とは、この世界の災厄を背負う役目だと説明しました。
魔王はすぐに決めました。
そして、兄に後のことを頼もうと会いに行くと、母が殺された、ということを聞きました。
とうとう家族は二人だけになりました。
それでも魔王はこれからのことを話し、後のことを頼みました。
そして、魔王はバラバラになり、世界は少しずつ平和に、元の姿を取り戻していきました。核になったのです。
一人になった兄は、精神的に不安定になり、周りにうまく利用されました。
ある日、湖畔を歩いていた兄は湖の近くに人が倒れているのを見つけました。
それがあまりにも魔王に似ていた為、城に連れて帰りました。
実際、それはあの魔王でした。
また操り人形になることを恐れた兄は、その人を連れて各地を転々としました。
世界をも越える中で、ある女性と少年と出会い、やがて、とある青い惑星に定住しました。
***
……そして、母一人、兄弟三人で暮らしましたとさ」
そう言ってレンは物語を締めくくった。
……。
なんというか、うん。
「重い話だね」
「現実なんてこんなもんさ」
「そんなドロドロしたものは知りたくなかった……」
あたしが微妙な顔で言うと、レンは面白がるような顔で言った。
内容を軽く整理してみて、指輪の説明になってないことに気づく。
「どんな関係があるの?」
「ボクはちゃんと言ったよ。魔王は核となってバラバラになったってさ」
レンが呆れたように言う。すると、あたしの中でひとつの可能性が浮かび上がる。
「つまり、この呪いアイテムは魔王だったもの? 集めたら魔王になるの?」
「うーん、半分正解、半分間違い、かな」
うん? 訳が分からなくなってきたよ。
頭を抱えて悩むあたしを他所に、話し始める。
「魔王は本体が居るんだ、兄が連れて行ったっていう。指輪は能力の塊みたいなものかな。魔王は、それ全部を本体に着けさせると復活するんだよ……まあ、本体がもう指輪着けちゃってるけどね……」
「だから治癒魔法が使えるんだ」
なるほど、と声を上げると、(被って最後のほうが聞こえなかったけど、どうせ説明だよね)レンはよかったねって言ってきた。ありがとー。でも、魔王復活はしちゃ駄目だよね……ずっと取れないのかな?
「治癒魔法は万能だからね。でも、同時に災厄も背負うんだ」
……えっ、なんか聞きたくなかった言葉が……。
レンはそんなあたしをほって勇者の話に入る。えっ、ちょっ。
「で、中には災厄だけがなったものもあって、どうやら勇者の一人が着けちゃったらしいんだ。もともと災厄は、魔王か災厄以上の力を持ってる人じゃないと耐えられないんだよね」
「耐えられないと……」
「ふふっ……」
恐る恐る聞いたら笑顔を深められた。ゆ、勇者っ。耐えろ、耐えるんだ!
あれ? でもあたしも着けてるぞ。あ、それ以上の力があるのか。うん。耐えろ、あたし。
「それでね、呪いアイテムの所為で、ちょっと暴れてるんだよね。だから、ね?」
「だからの意味が分かんないんだけど!?」
いやだよ! 危ないじゃん!?
あたしが拒否しても、レンは言い募る。
「このままだと、キミの兄弟や友達が危ないよ?」
「うっ……分かったよ。やるよ、やればいんでしょ」
あたしが折れると、レンは満足そうに頭を撫で……頭に感じるはずの感覚をお尻の辺りで感じた……
「こんなときに何やってんの!?」
「え? なでてほしそうだったから」
「逆に何で聞くの? みたいな顔するな!? 誰も望まないと思うよ!?」
「で、着けちゃった人だけど」
「スルーされた!?」
もう疲れる!
ぐったりしてるあたしをニヤニヤと見ながら爆弾を落とした。
「着けたのは、星名雪――キミの友達だよ」
……雪様ーーーーー!
「あははっ、がんばってね」
レンの楽しそうな声が聞こえた。




