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人になりたかった少女 -Person populus vos would amo- 結


エタの笑い声が響く広場の中、私はただ呆然ぼうぜんと立っていた。




やがて、ふらふらと歩き出す。




もう拳銃けんじゅうはいらない。いつ死んでもよかった。




でも、その時はいつまでたっても訪れなかった。



何もないまま、ただ、時間だけが過ぎていく。





「十四番。貴様きさまが一位だ!喜べ!」




不意ふいに後ろから声が聞こえた、

私は反射的に銃口をそちらへ向ける。



「ふん。そんなもので神が殺せると思うのか、私に銃を向けるとは不届ふとどき者め」






瞬間、右手から拳銃がはじけ飛び、左腕には激痛が走った。



「ーーーーーーっっ!!!!」



声にならない叫びと共に、私は左腕を押さえる。

触っただけでわかる、縫合ほうごうけ、傷口が開いた左腕からは、血があふれでていた。




「こっちを向け十四番、もう一度だけ言うぞ、貴様が一位だ。他の奴隷共は全員死んだ!」



よく、意味がわからなかった。


わかりたくなかった。



私は首を左右に振る。もう何も聞きたくなかった。




「貴様は目が見えないからわからないのか?……仕方ない、楽しませてくれた礼だ」



やれやれ、といった様子が声ににじみ出ている。

右目に、なにか温かいものを感じた。



「目を開けろ」



そう言われ、言われるままに目を開ける。




私は、生まれて初めて、外の世界を見た。

そこは、






地獄だった。





初めて見る赤は、血液けつえきの色だった。どす黒い赤は灰色の床や壁をまるで現代アートのようにりつぶしていた。



床に転がっている人間は、どれも正しい形をしていなかった。

首から上がなくなっている者、腹を切られ、中身が飛び出しているもの。

誰も、自分が今日死ぬなどとは思っていなかったのだろう、その顔は恐怖と驚きの表情のまま、固まっている。



「……お……おぉぇぇええーーー!!」



私は、吐いた。


赤色に続いて、初めて見た緑色や黄色は自分の吐瀉物。

現実を受け入れられない。

今朝けさまで生きていた仲間が、今はもういなくて、おばあちゃんも…………



「おばあちゃん!!」



唐突とうとつに思い出した、おばあちゃん。

大好きだったおばあちゃん。

わたしは、おばあちゃんのおかげでここまで生きてこられた。




もう一度会いたかった。

顔を、見たかった。

周囲を見渡したが、私には、おばあちゃんがどんな顔で、どんな体型なのかもわからない。



「おばあちゃんは………どこ?」



私は神の方を見た。



エタは不機嫌そうな顔になり、口をとがらせる。



「なんだ、見えるようにしてやったのに、感謝の言葉もなしか。」



やれやれと言った様子で首を振ると、エタは先程まで私がいたあたりを指さす。



「貴様が言うおばあちゃん、とはヤツのことだろう」



そこには、人が倒れていた。

遠くからではそれがどんな状態なのかわからない。



「おばあちゃん!」



私は走った。

途中何度も足をもつれさせながら

息をするたびに血と吐瀉物の匂いがした




「おば……ぁ………ちゃん」 




私の目の前には力なく倒れる人間の死体があった。

中肉中背、どこにでもいそうなおばあちゃんだった。



顔が、つぶれていなければ。



老婆の顔は巨大な衝撃しょうげきが加わったのだろう。

赤くぜ、あたりには脳や頭蓋骨のかけらが散らばっていた。


その顔の元の形は全くわからない。

首から上はもはや原型がないほど潰れていた。





「うっ…………おぉぉぇえ……」




私は、再び吐いた。



もう、胃液しか出てこない。

それでも、吐き続けた、液体の中に血が混じっていた。



おばあちゃんとの思い出を思い出すと涙が出た、




体中の水分を出しきった頃、私の体に異変が起き始めた。

頭がふらふらし、まともに座っていられない。




私はやっとの思いで立ち上がると、まどろむ意識を振り払うように頭を振る。




「貧血だな。興奮するからだ」



遠くで声がした。

聞きたくもないエタの声。


私の左手からは、まだ血が流れている。





「さぁ願いを言え、十四番!貴様の願いを叶えてやろう」





「おばあちゃんのいない世界なら、もう、私は生きてなくていい。」



本心だった。



「ハッ!何を言うか、そのババアを殺したのは貴様ではないか!

目が見えないにしては、なかなか見事な射撃しゃげきだったぞ」



「は………?」




「貴様が最後に撃ち殺したのが、そのババアだ。そいつは稀代きだいの殺人鬼でな、今さっきの殺し合いでも50人近くは殺したんじゃないか?その殺しっぷりは最高に楽しかったぞ?」




「おばぁちゃんが、殺人鬼?嘘言わないで!」





「嘘ではない。貴様は聞いていなかったのか?そのババアの名は、”ウェズリア・リリカス”。村で300人近くを猟奇りょうき的に殺害し、ここに送られてきた極悪人だぞ?」




おばぁちゃんはなぜここに来たのか、教えてくれなかった。

でも、私に優しくしてくれた。いろいろなことを教えてくれた。


……そんなおばあちゃんが殺人?



「そんなわけないっ!!」



つい、口に出していた



「では、なぜ貴様は生きている?盲目の貴様など、銃を持っていたとて格好かっこう獲物えものだろう」




「それは………」



「上から見ていたぞ?ババアが必死に貴様を守る姿が!不格好ながら、あれはあれでなかなか感動したよ」




エタが手を目元にあて、泣き真似のような仕草をする。



「それが、守りきったと思ったら、そいつに殺されるんだもんな!笑ったよ!」



今度は、腹を抱えて笑い出す。




「おばあちゃんも、私とおんなじように、村のみんなに売られた……?」



「ババアの過去など、どうでもいい、私は、ただあのババアが面白い死に方をしたから、褒めただけだ」



その顔には明らかに侮蔑ぶべつの表情が浮かんでいた。



「おばあちゃんをバカにしないで!」



「自分の奴隷を下に見て何が悪い!

第一、あんなババアのどこがいい?殺人鬼としての腕はともかく、他は普通以下。使えないにも程がある、わざわざ私が殺し合いの場を用意してあげたことに感謝してもらいたいくらいだ」



やれやれ、といった様子でエタは続ける。



「そんなババアや、まして奴隷が何人死のうと、私には関係ない。せいぜいねぎらって死体は村の家畜かちくどもにでも食わせて……」


「黙れっ!!それ以上おばあちゃんやみんなを馬鹿にするな!」



私は足元に落ちていた剣を拾った。


左腕からは相変わらず血が流れ、頭はボーッとするが、そんなことは関係ない。



コイツは、おばあちゃんをけなした。



「私に歯向かおうというのか?いいぞ、それはそれで楽しそうだ!……だが、そんな刀ではつまらんな」




そう言うと、エタは自分の懐から、黒い珠のようなものを取り出す。



大きさは、どんぐりほど。

黒いそれは何に使うものなのか、まったく想像がつかなかった。



「これは”神の実”人工的に神を増やそうってものだ。使えば神になれるかもしれんぞ?貴様が実験体1号だ!」



「そんなのいらない!」


神になどなりたくなかった。こんなやつになるくらいなら死んだほうがマシだと思った。



「そんなこと言うな。どれ、私がやってやろう」


見えなかった。



エタは一瞬にして私の背後に回り込むと、それをいまだ出血している左手へと無理矢理ねじ込んだ




「がぁぁあああ!!」




それは、私の中に入ってきた。



左腕から侵入し、全身がおかされていく感覚。

痛みで飛びそうになる意識を引き止め、私は目を開く。



私は、目を疑った。



黒い左腕が、生えている。

出血はとまり、自分の腕の先から、黒い物体が出ていて、それが残りの腕や指を形成していた。

自由に動くし、感覚もある。



そして、左目も、見える。

初めはぼやっと、次第にはっきりと見えるようになってきた。



体中全ての感覚が戻り、意識がはっきりしてくる。

さらに、生えてきた左手には、いつの間にか見たことのない刀が握られていた。



服も奴隷服の上に、黒いコートのようなものを羽織っていた。



「ほう?欠損けっそんした体まで再生するのか……興味深い……」



エタは観察するようにニヤニヤとこちらを見ている。



「実験の続きだ」


エタはいつの間にか右手に剣を握っていた。

それを勢いよく振りかぶり、こちらへ向かってくる。



「そうれっ!」



ためらいなく振り下ろされた剣を、必死の思いで受け止める。


目が見えるようになったのは、ついさっき


初めて剣を持ったのも、ついさっき


戦いなんてまるで素人だった。



「それっ、それっ、そぉ~れっ!」



エタは、まるで遊んでいるようだった。

しばらくそうして私は遊ばれていた。




やがてエタは距離をとると



「つまらんな。所詮人は人か。殺すか」


そうつぶやいた。


それからは、何も、見えなかった

ただ、エタの姿が消え、何かがこちらに向かってくる気配だけが伝わってくる。



「右上」




その時、どこからか、声がした。




「早く!」



言われるがまま、その方向に刀を動かした。





ガギィィィンッ!!!!



その瞬間私の刀はエタの振り下ろした刃を受け止めていた。



「………む?」



一瞬怪訝けげんそうな顔をしたエタは、再び高速移動に入る。



やはり私にその姿を目視もくしすることはできない。




「次、3秒後に剣を正面に突き出す!」



また、声がした

私より年下の男の子の声。

その声はカウントダウンを始める。



「3…2…1…今っ!」



慌てて私が突き出した剣先には、



エタが、突き刺さっていた。



「「…………は?」」



一瞬の静寂の後、エタは自らの腹部をまじまじと見る。

そこからは部屋中に飛び散っている血液と同じ色の液体が滲み出していた。

それは少しずつ広がり、豪華なドレスに染みを作ってゆく。




「貴様……よくも……」



エタのひとみは怒りに燃えていた。

腹に刀を突き刺したまま、自らの剣で私に斬りかかってくる。



「左手を上に」




言われた瞬間、反射的に出した左腕は、斬られることなくその剣を受け止めていた。

驚いたエタは、もう一度斬りかかろうと、剣を引く




「君はさ、生きたいの?」




あの男の子の声が聞こえる。



「わからない」



私は、自然と答えていた



「それならさ、試しに生きてみなよ」



男の子の声は続く



「生きたいなら、次は左手を目の前にグーね」



激しい金属音とともに、何かが弾けとんだ

少し遠くの床に刺さったそれは、エタが持っていた剣の先の部分。


衝撃で私の剣はエタの腹部から抜け、剣があった場所からは大量の血が流れ出す。



出した左手は剣先とぶつかっても痛くも痒くもなかった。




「なぜだ。なぜ人間がこの私と戦える!神の実にそんな力があるというのか!?」



エタは驚愕の表情を浮かべている。



「この私が……負ける?死ぬ?」



「そんなことはありえない!十四番!いい実験体だ!せいぜい今を生きろ!私に殺されるまでな!」



エタは床の中に沈んでいくように消えていった。




「私、勝った、の?」



■■■■■■■■



レノは、草原にいた。

村とエタの住む宮殿から少し離れた場所。



黒いコートを着たレノは、目の前に刀を掲げ、何かをしゃべっているようだった。




「結局、君はなんなの?生きてるの?」



少女と刀が話す姿ははたから見ても少し異様であった。




「んー、とね、簡単に言うと、僕と君は一心同体って感じ?

ボクは君の左目、左手、あとは衝撃で欠損してた臓器、血液なんかを補ってる。

そして代わりに君に使ってもらう。

まぁ君はあの時死にかけてたし、生きられてラッキーでしょ?

使われなかったら寝てるのとおんなじさ。そんなのつまらない!」



「そもそも刀ってのは…………」



黒い刀はよく喋った。



「ところで、君の名前はなに?」



突然振られた問いに私は一瞬口ごもる。



「わたし?私は………」


”十四番”そう答えようとした。



もう、奴隷ではなかった。

目が見えなくて周りに頼ってばかりだった自分も、もういない。



「レノ。………私は、レノ」



その名前を何度も噛み締めた。

名づけてくれた人を忘れぬよう。




「僕は?僕の名前は、あるの?」



「あるよ君の名前は……ウェズ!私の……そう、ヒーローの名前」



「ウェズ、かぁ……悪くないかも………」



(気に入った……のかな?)


「で、レノ。これからどうするの?村に戻るの?」



レノは、ウェズを背中の鞘へ戻す。

落ちていた鞘を拾ってきたので、大きさは若干あっていない。


「サイズの合わないズボン履いてる感じだよ……」


ウェズはひとりごちたが、レノは構わず村とは反対方向に歩き出した。


「村には戻らないよ。あそこにもう、私が帰る場所なんて……」



「じゃぁ、どうするのさ、レノは、どうしたいの?」


左右言われたレノは少しの間考える仕草をする

やがて、顔を上げる。


「私は、強くなりたい」


「急にどしたの?」


「だって、強くなれば、今日みたいに神様だってやっつけられる。私みたいに困ってる人を助けられるんだよ?」



「そりゃそうだけど……まぁ、いいか。レノがそうしたいならそうしたらいいよ」



「うん!じゃぁウェズ、強くなるにはどうしたらいい?」



「まずはスクワットと腕立てからだね!体が貧弱すぎる!」



「えーーーーー!……で、すくわっとってなに?」




草原に明るい声が響く。

それはまるで、数刻前までの惨劇を必死で忘れようとしているかのようだった。


草原に暖かい風が吹く。



雨は、もう止んでいた。







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