表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/27

機械仕掛けの神 -Inducebat ad location- 転

「やぁ旅人さん!僕たちの国へようこそ!」


 青いシャツを着た男はレノに向け、両手を広げて歓迎の意を示す。

その顔は旅人が来たこと自体に喜んでいるというよりも、久しぶりに人間と会話することを楽しんでいるような、人と会うことを楽しんでいるような、そんな笑顔だった。



「昨夜のメールは、あなたが?」


 レノの問い掛けに、男は満面の笑みを浮かべると、ブンブンと首を縦に振った。


「そうだよ!僕が送ったものさ!どうだった!?読んでくれたんだろ?」


「メールって何?そんなの来てたの?」


 レノの後ろでウェズが不思議そうに声を上げた。レノはタブレットを操作すると、ウェズに見えるように肩のあたりへそれを掲げた。


 そこに書いてあったのは、自分はこの町に住んでいる人間で、ぜひ君と話がしたい。明日僕の家まで来て欲しい。という文章とこの場所の地図。


「この国では出入国管理こそ機械がやっているけど、誰がいつ入ってきたかは国民全員が知ることができるんだ。ホテルの部屋以外では監視用の機械がついて回っているから、どこで何をしているかも見られるしね!多分、今も君のことを見ている人は多いんじゃないかな?」


「そしてこの国の人は誰もが旅人さんに会いたがってる。でも、昨日メールを送ることができたのは、僕だけなんだ!そして、君はメールを見てこの場所に来てくれた!なんて運命なんだろう!」



 男は天を仰ぎ、全身で喜びを表している。

 レノはその様子をただじっと見ていた。


「よく、意味がわからないのですが……」

「うん。意味不明。やばい人だね」



 それを聞いた男は、我に返ったような表情を浮かべると、それでも嬉しそうな顔で自分の家の方を指さした。


「ごめんよ。でも、僕が嬉しいことだけはわかってほしい。そして、すべて説明するよ。僕の家でゆっくり話さないかい?」



■ ■ ■ ■ ■



 男の家の中は、ほとんどホテルと同じ作りになっていた。

 大きな部屋にはソファとベットが置かれ、その脇の部屋には調理をするための台や、シャワーなどが見て取れた。唯一、ホテルと違っていたのは、室内に巨大な機械があること。

 それは巨大な円柱状の機械で、高さは二メートル程。青色のその機械は、部屋の中央部で複数のコードに繋がれ、異様な存在感を放っていた。


「おっちゃんなにこれ!おっきな冷蔵庫?」


 男はその言葉に声を出しながら笑うと、一度キッチンへと消え、机の上にカップを一つ置き、自分の分は手に持ってそのままベットへと腰掛けた。そしてレノにソファに座るよう薦めると、そのお茶をゆっくりと口に含む。


「話を、始めようか。たくさん話したいことがあるんだ。この国のこと、僕のこと、そしてこれからのこと、少し長くなっても大丈夫かい?……いや、ダメだったとしても、聞いて欲しい」


 そう前置きすると、レノの返事を待たずに、男は話し始めた。


「さっきも言ったけどこの国の出入国管理は機械が行っている。旅人の監視や、ホテル、レストランの業務、全部機械だ。このシステムが出来たのは僕が生まれるよりずっとずっと前のことらしいから、詳しくはわからない、でも僕らは、これを当たり前として生きている。たまにやってくる旅人さんの様子を見ていると、いつもひどく驚いてくれるから、きっと周りの世界は違うんだろうけどね」



 レノは、カップのお茶を一口だけ飲んだ。茶葉が多かったのか、種類が違うのか、少しだけ苦く感じた。



「僕が本当に話したいのはここから……この国で管理されているのは、君たち旅人さんの生活だけじゃないんだ。僕らの生活は、すべてを機械に頼っている。農場で畑を耕すのも機械、その食材を調理するのも、配達するのも、片付けするのも全て機械だ。それが悪いなんて言わない。なにせ僕らは何もしなくても生きていくことができるからね。楽なもんだよ」



「全く話が、見えてこないんですが。この国の中に人の姿が見えない理由はよくわかりました。家から出なくても食料が届けられる、働かなくても生きていける。でもそれを何故、ボクに話したいんですか?」



「それは、僕が今日死ぬからさ」


 男は晴れやかな顔で言い放った。


「今日僕は、この機械の中で死ぬ。これは機械によって決められた絶対のルールなんだ。この機械は、僕らに食料を配達し、空き容器を回収し、常に僕らの生活環境を監視することによって、僕らを生かしてきた。そして最後には、僕らを殺す」



「あなたはそれで、いいんですか?」



「いいもなにも、決まっていることだからね!例え機械に入らなくて死ななかったとしても、この国ではこの機械以外から食料を手に入れるすべはないからやがて餓死するだろうし、機械から部屋中に毒ガスが撒かれるかもしれない。苦しんで死ぬのは嫌だから、僕は大人しく機械の中で最後を迎えようと思ってるよ」



「ではなぜそれをボクに?」



「僕が生きていたことを誰かに知って欲しかったからかな!あ、そうだ言ってなかったけど、この国では必要時以外家の外に出ることが禁じられているから、自分以外の人と会うことはめったにないんだ。僕なんか今までで三回ぐらいかな?限られた人とは電話やチャットなんかでつながっていられるから、寂しくはないけどね」


 レノはお茶をもう一度、口に運ぶ。すでにお茶は冷めていた。


「そんな風に言うと、行動が制限されているみたいに思われちゃうと思うよね。だからこの国には一つだけルールがあるんだ。それは”寿命が残り一週間を切ったものは、一切の制限を与えず自由に暮らしていい”これは素晴らしいルールだよ!誰にでも連絡できるし、決まった献立からも解放される!そのおかげで本来連絡できないはずの君にもメールすることができたんだ。僕の寿命が終わる前に来てくれてありがとう。おかげで初めて人の顔を見ながら話すことができたよ!」



 男は心底嬉しそうな表情を浮かべると、ベットから立ち上がり、青い機械へと近づいていく。そしてそれを名残惜しそうに見つめ、入口を開けた。



「あぁ…最後にこんなに楽しいことがあったなんて、幸せな人生だったなぁ……。ごめんね旅人さん、僕、自分でお茶を入れるのも初めてだったから、きっと美味しくなかったでしょ、ちゃんとおもてなしできなくてごめん。代わりに、僕だけがとても楽しんじゃったよ!本当にありがとう!それじゃあ!また!」



 男はまるで、ちょっとそこまで散歩に行くような口ぶりで、青色の機械の中に消えていった。

 やがて機械は動き出し、しばらくの間小さく音を出していたが、それもやがて止まると、部屋の中は無音になった。



「まぁまぁ面白いお話だったね。さて、このあとどうするのレノ?」



 レノはお茶の中身を飲み干すと、カップを机の上へとそっと置いた。


「……この国の神に、会ってみようと思う」

長らく間が空いてしまって申し訳ありません……

このお話、もう一話だけ続きます…

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ