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無くなってしまった街 -Oppidum oppidi tuendi causa hero- 転

「よくやった。これも食え」

「まじっすか旦那!さすがっす!」


男たちは火を囲んで輪になって座り、談笑していた。その輪の中には肉や野菜を使った料理が並ぶ。

焰蘭ほむらは髭面の男に渡された大きな肉の塊を水で流し込み、笑顔を浮かべた。その顔は幼く、ビルの中で見せた顔とは似てもに使わないもの。


「しかしすげぇな、ホムラは、その歳でそれだけ強ければ、将来が楽しみだ」

「あの旅人も相当な手練だったろ?」

「お前を拾ってよかった!」



残りの男たちも口々に賛辞を述べた。


「お前が来てから格段に成功率が上がったもんな。あの旅人がいいもの持ってるといいんだがな!」


眼鏡をかけた男は倒壊したビルを見やる。

先ほど自分たちが標的もろとも爆破したビル、食事の後は目当ての物を探す予定だ。



「あれ?あのビル、なんか違和感が……」


ほんの少し、ビルの破片が動いていないか?


そう仲間に伝えようと、男が仲間へと振り返る


そして、男がそう口を開く前にその男の頭が、爆ぜた。

周囲に飛び散った脳漿や骨の欠片が料理へふりかかり、眼球は火の中へ落ち、小さく音を立てながら肉の焦げるような匂いを充満させる。



「東だ!全員伏せろ!!」



髭面の男が叫んだ瞬間、全員が近くの岩場に飛び込む。

唯一足を怪我していた男だけが遅れ、半身以上が露出したままでいた。



「………ぐぁあああ!!」



小さな発砲音の後、逃げ遅れた男の脇腹から血が噴き出す。

なんとか岩場へと隠れるが、脇腹を抑える手は血で真っ赤に濡れていた。




「初めてでも、意外となんとかなるものだね」

「まぁレノの目は普通じゃないし、オイラとレノは一心同体だからね、多少はフォローするし」



倒壊したビルから数十メートル離れた先、高いビルの屋上から男たちを見下ろすように黒い塊が伏せていた。

その手の中には黒いスナイパーライフル。ストックの上にはスコープがつけられ、銃口にはサプレッサーが差し込まれていた。サプレッサーを通して小さくなった銃声は遠く離れた男たちには届かない。

レノは全員が岩場の影へ隠れ、狙える標的がないとこを確認すると体を起こし、その場所から逃げ出すように駆け出した。




「……なぜ、まだ生きている?」


伏せていた男たちが立ち上がり、仲間の死体のそばへしゃがみこむ。

大男は頭が半分以下になった眼鏡の男と、痛みに顔を歪めたまま死んでいる男からブローチを回収すると胸のポケットへと収める。

ブローチとブローチがポケットの中で当たり、音を立てた。



「お前が逃がしたのか?ホムラ、答えろ!!」


大男は焔蘭の方を見ると、声を荒らげた。対する焔蘭は飄々とした態度を崩さない。


「俺は真面目にやりましたよ。ま、怪我させることはできなかったですから相当運が良かったか、なにか不思議な力を使ったかとかじゃないですか?あと、何度も言いますが俺の名前は……」

「不思議な力だと!?」

「でもそうとしか言いようがないんですから、しょうがないじゃないですか。ビルを爆破したとき、確かに奴はビルの中にいましたよ。あれで生きているなんて奇跡じゃないですか」


「嘘じゃないだろうな!」

「……おちつけ」


激高した大男を髭面の男がなだめる。


「奴が生きているのは確かだ。これ以上仲間を殺されるわけにはいかない。今度は確実に殺す」

「俺にも責任あるんで、今度はしっかりやりますよ」


焔蘭は袖口から小太刀の柄部分をのぞかせた。

しかし、その焔蘭を押しのけ、長身の男が前に出る。


「あいつは、俺がやる。焔蘭はリーダーを頼む」


男に抱かれた銃がギシギシと音を立てていた。





「レノ、そろそろ休んだら?」

「いや…もう少し……」


レノは陽の沈みかけた街を駆けていた。その顔は険しく、息はかなり切れて呼吸もままならない程。

走る速度も、いつもとは比べ物にならないほど遅い。


「かなり無茶したからね。しょうがないよ」

「たったあれだけで……こんなになるなんて……」


「レノが使った強制凝血は血液中を流れてるオイラを固めてるからね、いくら半神のレノでも体への負担は相当でしょ」

「でも、ああしないと防げなかったんだ。でもさすがにやりすぎたかな…」



レノの首筋には黒い筋が残っていた。幾筋も走った黒い傷跡は瘡蓋かさぶたのようになり、地面を蹴る衝撃でポロポロと剥がれ落ちていく。

黒いかすは地面に落ちるよりも早く、塵のようになって空中に消える。


「ふぅ………少し休もうか」


首を抑えながら建物の影に座る。ウェズはいつでも抜けるように腹に抱えるようにして持っていた。

そのウェズが何かを察したようにカタカタと震える。


「レノ!上!」


声と同時に横へ転がっる。その瞬間、レノが居た場所へ黒い球体が落下した。それは数秒の間を空けて、爆発。

粉塵を上げて建物の壁をえぐり、破裂する。

さらに上を見上げたレノの元に大量の黒い球体が降り注ぐ。


周囲にある建物の外壁を破壊しながら迫る爆弾の雨の中を、レノは全速力で駆け抜ける。細い路地を抜け、大通りへ転がり出たレノの髪は焦げ、顔は煤だらけだった。



大通りには、大男が待ち構えていた。


「よくも仲間を殺してくれたな!」


薄青色の髪が数本中に舞う。レノはさらに横へ飛び、男から距離をとった。

大男が持っていたのは巨大な三節棍。三本の棍棒が鎖でつながったそれを巨大な手でぶんぶんと振り回す。


「はい。ボクも死にたくはなかったので」

「それはあいつらも同じだったろうさ!それを君が殺したんだ、だから君にも死んでもらう!」


「……お断りします」


レノはそう言った瞬間、ウェズを構え、大男の胸元へ突進する。

大男の手から放たれた棍棒はレノの耳を掠め、空気を切り裂きながらジャラジャラと音を立て、何もない空間へと伸びていく。


「やるな!だが俺はただでは死なんぞ!!」


ウェズが大男の左胸を貫通した。その瞬間、レノの小さな体を太い腕が拘束する。

持ち上げられたレノは足をばたつかせながら抵抗するが、大男は胸から血を流しながらも腕を離そうとはしない。


「今だ!俺ごと撃て!!!」



大男は震える声でそう吠えた。

目線の先には先程爆弾によってボロボロにされたビル。


ビルの屋上で愛銃を構える男は、震えていた。

男の胸ポケットには、大男に渡された仲間たちのブローチが入っていた。その中には、大男本人の物も含まれている。


長身の男は、作戦通りビルの屋上から大量の爆弾を落とすと、すぐに射撃場所へ移動した。

大男が刺され、後はこの銃が仲間もろとも旅人を撃ち殺せば作戦は終了。


刺された仲間の叫びは、聞こえていた。

すぐに自分が撃たなければならないことも、わかっていた。


「……っ!!」


だが、引き金に、指が伸びなかった。

ほんの一瞬の躊躇い、仲間への発砲という重圧が彼の指を止めた。


「くそがっ!!」


決意まで、ほんの数秒。指が引き金に伸び、スコープを覗く。

そして、狙いを定め、引き金を絞る。



しかし発泡しようとした瞬間、スコープの向こう側が煙に包まれた。



「っ!?」


大男と旅人、その周囲が白い煙に包まれている。

煙は少しづつ広がり、大通り全体をも覆い隠す。


「くそっ!何が起きてる!」


男はスコープを覗き込むが、白い煙に遮られ動くものを確認することはできない。

再び一瞬の逡巡。しかしすぐに男の手は引き金を絞り、銃口からは大量の銃弾が狙いもつけずに乱射された。



「うぉ………ぉおお……おおおお!!」



数分後、煙が晴れた大通りに、動くものはいなかった。

大男だけが通りの中央で全身から血を噴き出しながら倒れている。




やがて、銃を下ろした男は後ろを振り返りながら口を開く。


「ブローチだけは、隊長に届けてくれるか」


そこには、青い髪の旅人が立っていた。



「流石だな。煙に紛れて脱出するだけではなく、俺のいるビルまで嗅ぎ当てるとはな」

「あれだけ殺気を出されていたら誰でもわかりますよ」



旅人は漆黒の刀を正面に構え、男へと一歩近づく。



「教えてくれませんか。なぜあなた方はボクを襲うんですか。金目の物なんて……」

「俺たちは山賊じゃない。軍隊だ。自分たちの国に侵入する者を排除して何が悪い」


長身の男は、自分の銃をこめかみに当てる。


「俺は、お前には殺されない」



旅人が次の言葉を発するよりも早く、銃声が響いた。



レノは男の胸からブローチを外すと、胸ポケットからも複数のブローチを取り出す。



「……ちゃんと、お届けします」



握られたブローチは、どれも血で濡れていた。




----------to be continue


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