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無くなってしまった街 -Oppidum oppidi tuendi causa hero- 序

左右対称に建物が立ち並ぶ住宅街。しかし煉瓦レンガ造りの家々が並ぶその場所に人の気配はない。

空はどんよりと曇り、灰色の世界が広がっていた。時折吹く冷たい風がレンガの隙間から生えた草を揺らし、通り抜ける。

二階建ての建物、その割れた窓ガラスから二つの目が外を見ていた。



「レノー、まだぁ?」

「うん、まだいるよ」


そこにいたのは黒いコートを着た旅人。レノと呼ばれた人影は、背中に吊った長刀の位置を確かめるように軽く触った。



「全くしつこいよね、レノは金目の物なんて持ってない貧乏さんなのに」

「まぁいろいろと否定はしないけど、山賊にそんなことは関係なんじゃないかな?現にこうなってるわけだし……っ!!!」



レノが近づけていた窓から顔を離す。

その瞬間、目があった場所を銃弾が通り抜けた。音速を超えた弾丸はうねりを上げ逆側の壁に当たるとぽとりと床へ落ち、甲高い音を立てた。



「チッ……外した」


レノから数十メートル離れた建物、その屋上には六人の男が立っていた。

そのうち、未だ煙をあげるライフル銃を構え直した男は、悔しそうに再びレノがいる建物へ照準を定める。


その男の横に立つ大男は身の丈に合うほど大きなリュックを背負っていた。そして豪華に声を上げて笑う。


「ガハハハハハ!子供だと思って舐めてかかるから悪い。こいつらと同じだな」


男の手にはブローチが握られていた。星型で金色のブローチには鳥の羽のような模様が彫り込まれている。そして、それらはすべて血で濡れていた。

大男は自分の胸についた同じ模様のブローチを撫でながら、血まみれのブローチを胸のポケットにしまった。



「俺は舐めてなんかいない。あんたこそ仲間の死をもう少し悼むべきなんじゃないのか?」

「弱者を悼む心は持ち合わせておらんなぁ。お前さんはそうならんといいがな」



六人のうち五人は同じような格好をしていた。ポケットが複数付いたジャケットに、上下お揃い藤色のパンツ。背中には各々の銃を背負っていた。


ライフル銃を収めた長身の男、リュックを背負った大男、ハンドガンを両腰にぶら下げた髭面の男、メガネをかけた男は別の男を肩に担いでいた。背負われた男は左足から出血し、頭をたれていた。

そしてその男たちの脇に一人だけ雰囲気が異なる男。周りにいる男たちのように銃は持っておらず、服装も一人だけ黒く、上下繋がったツナギのようなものを身にまとっていた。



「おい、お前ちゃんと働けよ?」


リーダーらしい髭面の男が少し離れたところにいる黒い男に声をかける。

その声は、少しイライラしているようだった。



「いやぁ旦那、俺は死なないように立ち回るだけですよ。あの旅人、かなり腕が立ちそうですしね」

「何のために仲間にしてやったと思ってる。先程みすみす仲間を殺したこと、忘れたわけじゃあるまいな?」


「いや、拾ってくれたことは感謝してますけど、それとこれとは別です。それに、殺された奴らは不用意に近づいて相手の力量もわからないのに殺しにかかって返り討ちにあっただけでしょ?俺は悪くないですよ。自業自得です。自業自得」


「ボス!やつが動きました!」


双眼鏡を覗いていた長身の男が言う。

レノは銃弾が通り抜けた瞬間、潜んでいた家から飛び出していた。恐ろしいスピードでジグザグと進み、男たちが陣取ったビルの一階へと滑り込んだ。



「早いっ!この下だ!」

「下へ降りながら迎え撃つ!!」


「待て!」



いきり立つ部下を髭面の男が一括する。


「おちつけ。焦りは死期をはやめるぞ。作戦弐でいく。火付け役はお前がやれ、ホムラ」


名指しされた黒い男は嫌そうな顔をして腕を組む。


「旦那、俺ですか……?正直あいつとやり合うのは気が進まないんですが……あと……」

「いいからやれ。お前が俺たちの仲間で、ちゃんと働けることを証明しろ」


ホムラと呼ばれた男はしぶしぶ階下へ続く階段へ足を向けた。


「分かりましたよ…その代わり今日の晩飯はたくさんくださいね?あと、俺の名前は焰蘭ほむら、ホムラじゃありません」


微妙なイントネーションの違いを指摘すると、焰蘭はドアの先、闇の中へと消えていった。




レノは罠を警戒しながら少しづつ上へ進む。

時折配置されている罠は、紐や鉄鋏を使った原始的なもの。時折ウェズの指摘を受けながら、それらを解体、回収していく。


「そろそろ屋上かな……」


三階への階段に設置された縄トラップを解除しながらレノが言う。

その先に、黒い男が立っていた。



「そうだね。後一回階段を上ったら屋上さ。俺の仲間たちが待ってる」


暗闇から現れた焰蘭は飄々とレノに近づきながらそう話した。


「そうですか。ボクとしてはあなた方と争いたいわけではないので、このまま見逃してくれないでしょうか」

「それは無理さ。俺は別にいいんだけど、旦那がもうカンカンだからね、逃がしたら俺が折檻されちゃうよ」



レノは背中のウェズに手を伸ばす。

一方、焰蘭は何かを持っているようには見えなかった。



「では、通していただきます。死にたくなかったら……」



刹那、焰蘭が、消えた



――――― ガッギィィィイイインッッ!!!!



そして次の瞬間にはレノの手元で火花が散っていた。目の前には焰蘭の顔、その手には小太刀が逆手で握られていた。


「やっぱり旅人さん強いなぁ、だからヤなんだよ……」


そして焰蘭は距離をとる。レノは未だウェズを構えたまま固まっていた。

その額には汗が流れている。



「ウェズ、今の見えた?」

「ギリギリかな。暗いから完全には見えなかったね」


「じゃ、行くよ旅人さん。俺の動きに目が慣れる前にサクッと死んでよ」

「お断りします」


焰蘭が再び消える。

その瞬間、ウェズがレノの手の中でその形を変えた。それはレノの正面を大きくカバーするような壁、薄く黒い壁の強度は、人間が破れるようなものではなかった。


焰蘭はその壁に衝突し、その勢いのままに跳ね返される。


「がぁっ…!ぐ………さすがだね、いつの間にそんなもの用意したんだい?」


レノはその問に答えず、刀に戻ったウェズを構え直した。


「ま、いいか。関係ないや」


焰蘭が、消える。

レノは再び正面に壁を作り待ち構えた、その目はまっすぐ前を向いている。



「そう何度もかからないよっ!!」



焰蘭が現れたのはレノの背後。

その速さは常人に追えるものではなく、小太刀は真っ直ぐにその首筋へと刃を立てる。

しかし、その刃を切り落とす事なく、皮を一枚切り裂いただけで止まった。



「……は?」


焰蘭は再び距離をとり、自身の小太刀をまじまじと見つめる。



「旅人さん、ほんとに人間かい?」

「ボクは人間だなんて言ってませんよ」



「やれやれ………こりゃ今日の夕飯だけじゃ割に合わないな……」



焰蘭の攻撃は止まらない。

何度も消失と出現を繰り返しレノの首筋を狙うが、その攻撃が小さなレノの体に傷をつけることはなかった。


「そろそろ諦めてくれませんか?」



レノはその場から動こうとしない。焰蘭の顔には大粒の汗が滲んでいた。


「別にいいけど、なんか悔しいんだよね」

「……そうですか」



焰蘭は小太刀を大きく膨らんだ袖口そでぐちの中へ納め、今までにないほどに距離をとる。



「でも、俺は君に勝たなくてもいいんだ。こっちはさらに悔しいけどね」

「…どういうことでしょう?」


「俺と俺達、は違うんだよ。暗闇に紛れる俺が、君の目が慣れてしまうというリスクを犯してまで三階で待っていたと思う?

なんで、俺以外の仲間がここに降りてこないと思う?なんで、俺がただただ一辺倒な攻撃を繰り返していたと思う?」



焰蘭は笑みを浮かべながらゆっくりと下がり、窓へ近づく。



「俺が三階で待っていたのは、君がそう簡単にこのビルから出られないようにするため。

俺以外の仲間がここにいないのは、屋上であることを準備していたから。

俺が効かない攻撃を繰り返していたのは、時間を稼ぐのにそれが最適だったから」



窓の外、上から一本のロープが垂れ落ちてくる。



「そして俺が攻撃をやめてこの場所まで退いたのは、全ての準備が整ったから」


窓を開け、焰蘭がロープを掴むと、一瞬にして上昇。その姿はレノのいる場所からは見えなくなった。



「レノ!早くこのビルから出て!きっと……」




上昇した焰蘭は仲間の顔を見て笑みを浮かべ、懐から小さなスイッチを取り出す。

仲間たちはすでに巨大なはしごを使って隣のビルへと乗り移っていた。焰蘭もそのはしごに足をかけ、仲間のいる場所へジャンプした。



「ま、あのまま戦ってても俺が勝ったけどね。疲れるのは嫌いなんだ」



振り返った焰蘭の指が小さなスイッチへと伸びる。



「勝ちは勝ち。ゴメンネ旅人さん。さよなら」




スイッチを押した瞬間、ビルの一階部分と屋上が爆発を起こす。



一瞬にして倒壊したビルの周囲に、薄青色の人影を見ることはできなかった。




----------to be continue

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