俺、我を忘れます。
アミーはロデオのような勢いでゲルド将軍に突進していく。
しかし、怒りで我を忘れてしまったせいなのか、動きが単調だ。
ゲルド将軍は、アミーの突進を軽く横にずれるだけでかわしてしまった。
「たっく、いきなりなんだぁ?」
「うるさい!ブレスレットを、ブレスレットを返せ!!」
「あぁん?ブレスレット?」
「お前が腕に嵌めているブレスレットのことだ!」
そう言ってアミーは、またもゲルド将軍に飛び掛る。
しかし、ゲルド将軍はまたもや避けてしまった。それだけでなく、今度はアミーの腹ににカウンターを合わせるというオマケつきで。
ズンッという音が響いた後、アミーは後方10mは吹っ飛ばされ、壁に衝突し大きなクレーターを作った。
アミーは殴られた衝撃か、はたまた壁にぶつかった衝撃か定かではないが、意識を失い、地面に崩れ落ちた。
おいおい、一発殴っただけであの威力かよ。
アミーは俺から見ても、かなり腕の立つ戦士だった。そのアミーが一発でやられたとすると、並みのパワーではないことは確かだ。
おそらくヤツはガチガチのパワータイプだ。腕力はたしかに異常だが、スピードはそうでもないはず…
攻撃に合わせて上手くカウンターを合わせられれば、倒せないことはn『ドンッ』…え?
俺の耳に音が響いた。
方向はサラがいる方向。
なにかを殴るような、そう、たとえば人間を…
俺は恐る恐るサラのいるであろう方向を向いた。
そこにいたのは…
「よぉ人間。どうした?鳩が豆鉄砲をくらったような顔して」
邪悪な笑みを浮かべ、殴り終えた直後の姿勢で停止しているゲルド将軍だった。
「な……ど……」
何故、どうしてお前がここにいる!?
ヤツはさっきまで確かに向こうにいたはずだ。
俺とイランとサラはここから動いていないし、ヤツもまた、アミーの攻撃を避けるために少し動いただけで、俺たちとの距離は、最初からそれほど変わっていないはずだった。
なのに、ヤツは今ここにいる。
それも、サラを殴り終えたような体勢で…
「…はっ。サラ、サラ!!」
いきなりのことに呆然としてしまった俺だったが、改めてサラを探す。
ゲルド将軍は、油断しているのか、はたまた、俺たちなんてすぐに仕留められると思っているのか、攻撃してこない。
おそらく後者だろう。俺たちなんてゲルド将軍からしたら蟻ん子以下なのかもしれない。
幸いと言うべきか、サラはすぐに見つかった。
俺たちから見て後ろの壁に、アミーと同じ状態で…
その光景を見た瞬間、俺の中の何かが弾けた。
「あ、あ……」
頭の中からさまざまな思考が消えていく。
「…ああ、あああ」
変わりに、1つの言葉が頭の中を埋め尽くす。
「…あ、ああ。ああああああ…」
『コロス』
「あぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス
コイツコロス!!
俺は我を忘れ、ゲルド将軍に切りかかろうとした。
しかし、ゲルド将軍に剣が届く寸前、俺のことを白い光が包み込み、俺の意識は遠のいていった。
意識が途切れる寸前に見たのは、俺に向かって拳を突き出そうとしているゲルド将軍だった。