俺、少女助けます。
俺たちがサラへの手がかりを頼りに歩いていると、目の前に洞窟を見つけた。
もしかしたら、ここにいるのか?
イランに目配せすると頷いてきたので、どうやらイランも同じ考えのようだ。
ここからは細心の注意を払わないとな。
「イラン、行こうか。」
頷くイランを連れて俺たちは洞窟に入っていった。
洞窟の中は、森とは比較にならないほど寒く、軽く身震いをしてしまうほどだ。
何回か曲がり角を曲がると、ぼんやりと明かりが見えてきた。
遠くてよく聞こえないが、なにやら騒いでいるようだ。
あそこかっ!
走りだそうとする俺の前にイランの手がかざされた。
「まちなさい、ロイ。相手の数も分からないのに突っ込む気ですか?」
「けどっ、やっとサラを見つけたんだぞ。はやく助けないとっ…」
焦る俺とは裏腹にイランは落ち着いている。
「助けたいと思っているのは私だって同じです。」
「だったら…」
「最後まで聞きなさい。ここで無闇に突っ込んでも負けるのは目に見えています。負けてしまってサラを助けられず、かつ自分も死んでしまっては元も子もないでしょう?ですから、慎重にいって確実に勝てる方法を探そうと言っているのです。」
この言葉を聞いて焦っていた俺の思考は落ち着いていった。
そうだな、サラを助けられきゃ意味ないもんな。
はは、俺ってばイランがいなきゃダメダメだな。
「ありがとう、イラン。」
「ええ、落ち着いたようですね。では、行きましょうか。」
明かりの方へ近づくにつれてだんだん敵の様子が明らかになっていく。
敵の数は約50といったところだろう。なにやら宴会の様相を呈していた。
そして、サラの様子を確認しようとサラに目を向けた瞬間、俺はまぬけな表情をしてしまったことだろう。
多分、隣にいるイランも同じような状態になっていることだろう。
だって、サラの格好がウェディングドレス姿なんて思いもしてなかったんだから。
おかげでまぬけな声まで出ちまったぜ。
だが、その間抜けな声がいけなかった。
俺の出した声が聞こえたのか、大トカゲの一体がこっちを向いたのだ。
俺たちは数秒ほうけた後、同時に動き出した。
大トカゲが妙な奇声を上げ、(敵襲を知らせる合図だろう)他の大トカゲたちを呼んだ。
俺とイランは同時に走り出し、敵との距離を詰めていった。
しかし、敵の行動は予想以上に早く俺たちは数mの距離を開けて相対した。
「おい!お前ら、サラを返せ!!」
俺のこの叫びに応じたのかどうかは定かではないが、人垣?が割れてサラと大トカゲ部隊のボスらしきヤツが出てきた。
「ロイさん、イランさん!」
サラが泣き出しそうな顔で俺たちの名前を呼んだ。
「キサマ等、ナニユエ我ガ縄張リニ足ヲ踏ミ入レタ」
「そんなのサラを取り返すために決まってんだろ!」
「フム、ソレハ出来ヌ相談ダナ。コノ娘ニハ我ガ嫁二ナッテ貰イ、子孫ヲ残シテ貰ワネバナラヌ。早々二立チ去ルガイイ。」
くそっ、やっぱり返してくれなさそうだな。だったら…
「だったら、実力行使で取り返す!」
その言葉を合図に俺たちと大トカゲ部隊は臨戦態勢に入った。
「ロイ、雑魚は私が引き受けます。あなたはアイツを倒してきなさい。」
その言葉に続くように、イランが魔法の呪文を唱えた。
「我が心に眠りし業火の炎よ、うつし世に現れて我が敵を滅したまえ。」
…美しい。
そう唱えるイランの姿はどこか神々しさを漂わせていて、俺は戦いの最中だと言うことを忘れて見惚れていてしまった。
「ロイ、ぼーっとしてないでアイツを倒しなさい!」
…はっ、そうだ、アイツは!
そう考えた瞬間、俺は吹っ飛ばされていた。
当初、俺は何をされたか理解できなかった。だが、徐々に襲ってくる腹部への痛みと相手の手をつき出している体勢から、俺は殴られたんだと遅まきに理解した。
「かはっ…。」
「フン、コノ程度カ?人間ヨ。」
「なわけ、ねぇだろ。」
強がってみるも、相当ダメージをくらってしまったようで、俺は剣を杖代わりにしながら、やっとのことで立ち上がった。
「ロイさん!?」
そう叫んでサラは近づいてくる。
「何、してんだよ、サラ。ここは、危ないから、向こうへ行ってろ。」
「でも、ロイさん、傷が…」
このくらい、なんともねぇよ。
そう口にしたかったが、のどからはヒューヒューという音しか出てこなかった。
変わりに笑顔を向けると、サラは心配そうな顔で見つめつつも俺の言うことに従い、下がってくれた。
と、同時にヤツから殺気が飛んでくる。
はは、もうお喋りすらさせてくれなさそうだな。
俺は剣をゆっくり持ち上げ、正眼に構える。
相手は構えを取らず、ゆったりと立っていた。
俺は満身創痍で動けるのはあと一度きりってとこだろう。
対して相手はノーダメージ。それに加えて動きも速いときたもんだ。
チャンスは一度きり。ヤツは油断しているから、単調な攻撃をしてくるはずだ。その攻撃にあわせて、カウンターを放つ!
俺とヤツは、無言で睨みあう。
どれぐらいの時が経っただろう。数時間のような気もするし、数分も経っていないような気さえする。
そんな膠着状態がまたしばらく続いたとき、どこかで水滴が地面にぶつかる音がした。
瞬間、ヤツが動いた。
来た!!
ヤツはやはり油断しているのか真っ直ぐに突っ込んでくる。
俺は焦り、前に進みそうになる足を堪えて、ヤツが攻撃をしてくる瞬間を待った。
ヤツが接近して、拳を振り上げた瞬間…
今だ!
俺は沈み込んで、ヤツの腹部にあたる位置であろう場所に剣を置いた。
ヤツと俺が交差し、互いに背を向けて止まった。
俺は、ヤツのパンチの余波で頬が少し切れた。
対してヤツは、腹から血が噴き出し、崩れ落ちた。
ヤツは俺の読み通りに動いてくれた。
もしも途中で気づいて、体をそらされては俺のカウンターは当たらなかったし、俺もタイミングが少しでも遅れていたらヤツの攻撃をモロにくらっていただろう。
偶然が重なった結果だが、俺たちは見事大トカゲ部隊に勝利することが出来た。
っと、そうだ。イランは…
イランもちょうど片付いたようで、俺の方に近づいてきた。
「ロイ。どうやら倒せたようですね。」
ああ、なんとかな。
そう言おうとしたが、声が出ないことに気づいた俺は頷くだけに留めた。
「ふふ、ロイ、よく頑張りました。」
その言葉を聞いて、、限界を越えていた俺の意識はブラックアウトしていった。
意識が完全になくなる前に見たものは、珍しくあわてた様子のイランと、涙で駆け寄ってくるサラだった。
俺は、サラの家で意識を取り戻した。
どうやら丸1日眠っていたらしく、サラとイランにすごく心配しましたと怒られた。
その後のことを聞いてみたところ、サラはヤツに『私は、あなたとは結婚出来ません。』と、しっかり断ったらしい。
大丈夫だったのか?と思ったが、ヤツは存外素直に聞いてくれたらしく、何もされなかったそうだ。
俺は、丸1日眠っていたおかげか、体調の方は万全で殴られた所も痛まなくなっていた。
傷が完全に癒えた俺とイランは、さっそく旅の準備に取り掛かり、出発することにした。
「ありがとうな、サラ。色々世話になったよ。」
「い、いえ…。」
??どうしたんだろ。なんか浮かない顔をしてるが。
「じゃあ、そろそろ俺たちは行「あ、あの!」…なに?」
あれ、なんかデジャヴ。
俺のそんな暢気な思考とは裏腹に、次にサラの口から飛び出た言葉は俺の予想を飛び越えるものだった。
「あ、あの…私も一緒に連れてってくれませんか?」
「…は?」
「料理と簡単な手当てくらいしか出来ませんが、私も、ロイさんたちの旅にご一緒させてください!」
ふ~む。料理をしてくれるのは嬉しいな。だったら…
「ダメよ!」
突然の大声に俺とサラはびっくりした。
声のした方向をむくと、イランがいた。
珍しいな、イランが大声を出すなんて。それに、ダメってどうしてだろう?
「ダメよ、認められないわ。あなた、あんなことがあったのよ?」
「は、はい…。」
イランの言葉を聞いてサラは恐怖を思い出したのか、声が尻すぼみに沈んでいき、顔を俯けさせた。
しかし、次の瞬間には目に決意を宿した様子で
「で、でも、ロイさんたちが危険な目に合われるのにここでじっとなんてしていられません!」
「ですが!」
「まぁまぁ、イラン。いいじゃないか。いざという時は俺がサラを守るから、さ。」
「ロイさん…」
サラは潤んだ目で俺の方を見てきた。
一方イランは俯いていて、表情がよく見えない。
やがて、イランは顔を上げて
「分かりました。サラの同行を認めましょう。あと、サラは私も守ります。ロイだけに任せておけませんからね。」
と、サラの同行を許してくれた。
こうして、俺とイランに加えて、サラも一緒に旅に出るのだった。




