俺、魔王に恋をします。
イスに座った少女は、最初、突然部屋に入ってきた俺たちをいぶかしんでいたが、俺たちの格好を見るにつれてその表情は華やかなものになっていった。
「貴方たちもしかして勇者?」
「そうだけど、もしかしてキミは、魔王…なのか?」
「ええ、そうよ。ようこそ、魔王の城へ。」
そう言って、少女は俺たちに全身を晒した。
その少女は、あまりにも魔王らしくない風貌をしていた。
艶のある黒髪を肩まで伸ばしており、目鼻立ちはすっきりとしている。
身長はイランより少し高く、173cmといったところだろう。
体は滑らかな曲線を描いており、陶器を連想させるほどに、肌は白い。
そんな、俺が今まで創造していた魔王とはかけはなれている少女相手に、俺は戸惑ってしまう。
それは、少女も同じようで、俺たちのことを物珍しげに眺めてくる。
俺は、ふと疑問に思ったことを尋ねてみた。
「キミは、ずっとっこにいたのか?」
「ええ、そうよ。」
少女はそっけなく答える。
「キミの仲間や、他の勇者たちは?」
「仲間なんていないわ。他の勇者たちなら、ここにたどり着く前に死んでるんじゃないかしら?」
…え?
「今、なんて?」
「だから、他の勇者なら、k「その前だよ。」えっと、仲間なんていないわ?」
そう、やはり聞き間違いではなかった。
彼女は『仲間なんていない。』といった。
「キミは、魔王だろう?それなのに、仲間がいないなんてことあるのか?」
「ああ、それはね…。」
それから、彼女が話してくれたとことは、衝撃的なものだった。
簡単にまとめると、次のようになる。
・曰く、魔王というのは世襲制らしく、彼女は前魔王の実子、つまり次期魔王だったとか。
・父親の死後、彼女は魔王になり、最初は部下のこともまとめられていたらしい。
・しかし、半年が経つ頃には、ゲルド将軍をはじめ、多くの部下が命令を聞かなくなっていったらしい。
・挙句の果てには、数年前にこの島に1人取り残され、それからずっと1人らしい。
「くだらない話でしょ?」
そう言って彼女は寂しげに微笑んだ。
俺は、言葉が出なかった。
そして、同時に彼女のことを助けたいと思った。
「なぁ、キミ。俺たちと一緒にこないか?」
「「「「え?」」」」
俺の言葉に魔王を含む女性陣が、驚いた。
「俺たちはここへは船で来たんだ。だから、それに乗って一緒に来ないか?」
彼女は俺のことばがあまりにも意外だったのか、少しの間沈黙していた。
「……む、無理よ。無理に決まってるじゃない。だって、貴方は勇者で私は魔王よ?そんなこと許されるはずが無いわ。」
「だったら、俺は勇者を辞めるよ。それで問題ないだろ?」
「「「「はぁっ!?」」」」
今度は更に驚いたらしい。
魔王の女の子は俺の言葉に心底驚いている。
「ど、どうして。どうして貴方はそこまでしてくれるの?私なんてただの他人で、しかも、敵じゃない。」
彼女は何かを期待する眼差しで、俺のことを見つめる。
どうして、か…。
俺はその答えをもう知っている。
彼女に同情したから?
自分は勇者だから悲しんでいる人は見捨てられないから?
彼女を助けたいと思ったから?
否だ。
それらの理由もあるだろうが、正確ではない。
もっと身勝手で、独善的で、我侭なものだ。
俺は、彼女に惚れてしまったのだ。
一目惚れだったのだろう。
そして、彼女の境遇を知ると、彼女を助けたいと思った。笑顔にしたいと思った。
だから、こんなことを言ってしまったのだろう。
しかし、俺は後悔なんてしていない。
彼女のことを、好きになってしまったから。
さて、答えよう。俺の解答を。俺の気持ちを。
「それは、キミのことを好きになってしまったからだよ。」
彼女はなにも言わない。
「キミのことを好きになってしまったから。キミの悲しむ顔が見たくないんだ。苦しむ顔じゃなくて、笑顔が見たいんだ。」
これが、俺の答え。俺の気持ちだ。
彼女は顔を俯けている。
迷惑だっただろうか。そんな思考が頭の中を支配しそうになるのを懸命に堪える。
しばらく経った後、彼女が不意に顔を上げた。
その瞳からは涙がとめどなく溢れているのに、顔は笑っていた。
しかし、彼女はなおも疑念を振り切れないのか、なおも質問してきた。
「ホントに、いいの?…私なんかで、いいの?」
その質問に俺は満面の笑みで
「ああ、いいにk「ダメに決まってるでしょ。」…え?」
不意に声が聞こえたかと思うと、俺の横を何者かが通り過ぎる。
ソイツは彼女に迫ったかと思うと、手に持っていたのであろうナイフを、彼女の心臓に突き立てた。