俺、幼なじみと和解します。
聖泉の祠の前まで来た俺たちは、一旦立ち止まった。
作戦と言えるほどのものではないが、何も考えないよりはマシだと思ったからだ。
内容は簡単なもので、俺が突っ込み、ゲルド将軍の相手をしている間にアミーが側面から回り込んで攻撃するというものだ。
サラは、ダガーで遠距離から俺たちのサポートするという形に落ち着いた。
この作戦にはチームワークが何よりも必要になる。
もし、俺がゲルド将軍を全然引き付けられなかったら。
もし、アミーの攻撃でゲルド将軍が倒れなかったら。
もし、サラのダガーが、俺たちのどちらかに当たったら。
考えただけでも嫌な汗が止まらなくなる。
そんなマイナスな思考を振り払い、俺はアミーとサラに向き直った。
俺は、何か言わなければと思い、口を開きかけたが、止めた。
アミーたちの目は覚悟を決めているような、そんな目をしていたからだ。
ここで何か言って、集中力を乱してしまったら元も子もないもんな。
俺たちは一度だけ頷きあうと、聖泉の祠へ足を踏み入れた。
俺は中に入ると同時に中を見回し、ゲルド将軍を探した。
……いた。
「うぉぉぉおおおおお!」
ゲルド将軍を見つけた俺は、一気に駆け出した。
最初は驚いていたゲルド将軍も、一瞬の後に冷静さを取り戻し、俺に相対する。
俺が剣を下段に構えると、それに連動するように、ゲルド将軍も拳を握る。
俺にカウンターを狙うつもりなんだろうが、そうはいかない。
何故なら、俺は攻撃をしないから!!
そう、俺は攻撃をしないのだ。
今回の俺の役目はゲルド将軍を引き付けること。
それを果たすには、守りを固めて、攻撃を凌ぐのが一番手っ取り早い。
名付けて『亀さんが犠牲になっている間に漁夫の利を』作戦である。(作戦名はサラが考えた。)
そうこうしている間に俺とゲルド将軍との距離が縮まる。
俺は、下段に構えていた剣を切り上げる
振りをして防御体制にはいる。
俺が剣を切り上げようとすると同時に動き出していたゲルド将軍の拳は止まらない。
俺の剣とゲルド将軍の拳がぶつかる。
ガンッという音が響いた後、俺は後方1mくらい飛ばされた。
分かってはいたが、なんて威力だ。まるで、牛の突進でもくらったような衝撃だった。
その後もダガーの援護を受けながら何度か打ち合い、ついに5合目に入ろうかというときに、
「はぁぁぁぁあああああああああ!!」
アミーが来た。
アミーは、ゲルド将軍の後ろにつくやいなや、持っていた剣で思いっきりゲルド将軍の腹を突き刺す。
アミーはその勢いのままゲルド将軍の腹を切りながら回転し、後方に飛び退った。
ゲルド将軍の腹からは、大量の血がまるで噴水のように飛び出る。
よし!!
アミーの攻撃が通じた今、後は、俺が退避するだけである。
後は、サラのダガーで遠距離から攻撃するなりなんなりで、ゲルド将軍を倒すことが出来る。
もし、ダガーが当たらなくても、あの出血量ならそう長くは持たないだろう。
そう思い、飛び退こうとした瞬間…
視界が揺れた。
おそらく、バックステップしようとしたときに足を絡ませてしまったのだろう。
俺の視界には、今が好機とばかりに口元を大きく歪ませながら、俺を殴る体勢に入っているゲルド将軍がうつし出されている。
そんな状況にも関わらず、俺は
イラン、今頃何してるかなー
などと、まったく関係の無いことを考えていた。
ゲルド将軍の拳が眼前に迫り、俺もいよいよ死を覚悟したとき…
「ロイ!!」
という声とともに、目の前に防御魔法が展開された。
この声は。
そして、この魔法は。
まぎれもなく、確実に、確信的なまでに、俺のよく知る幼なじみのものだった。
「イラン、どうして……」
「おしゃべりは後です!今はアイツを倒すことだけに集中してください!!」
その声とともに、またも繰り出されていたゲルド将軍の拳を防御魔法で防ぐ。
そこから先の展開は圧倒的だった。
もともと、ゲルド将軍がギリギリだったっていうのもあるが、イランの魔法も大層なものだった。
今回は、火の魔法ではなく、氷の魔法で、ゲルド将軍は氷漬けにされている。
戦いの後、俺とイランは両者とも謝りあった後に、今回は両方とも悪かったということで落ち着いた。
そこから先は記憶がない。
後から聞いた話によると、イランと和解した後に、俺は気を失ってしまったらしい。
そこから一晩中眠り続け、朝に至ったということだ。
ちなみに、アミーにまだ一緒に旅を続けるか聞いたところ、「当たり前だろ。」の一言で返されてしまった。
サラは、昨日の夜のうちに船を借りられるようにしてくれていたようで、海を渡る術が見つかった。
出発は昼ごろになる予定で、今はその準備中であった。
俺があらかた準備を終えてくつろいでいると、イランが部屋に入ってきた。
和解したとはいえ、昨日の今日だ。かなり気まずい。
俺が話題に悩んでいると、イランの方から話しかけてきた。
「いよいよですね。」
多分、魔王のことだろう。
「ああ、そうだな。」
知らず知らずのうちに、俺の声も硬くなる。
「勝てると思いますか?」
「どうだろうな。けど、そのために今まで頑張ってきたんだ。勝たなきゃな。」
そう、俺たちは勝たなければならない。
「そうですね。」
そう答える声は幾分か落ち着いたもので
「絶対、一緒に帰りましょうね。」
そう微笑むイランは、とても魅力的だった。
魔王、待っていろ。絶対倒す!!