俺、仲間を助けに行きます。
「…ん、んん。」
目を覚ました俺は、まず周りを見回した。
どうやら俺は、木製のベッドで寝かされていたらしい。
しかし、何処を見ても見覚えの無いものばかりだった。
…ここは?それに、俺は何で寝ていたんだ?
ひどく記憶が曖昧だ。
たしか俺はゲルド将軍のところにいったはずなのに…
それに、アミーやサラ、イランがいない。
……っ。そうだ、思い出した。
俺たちはゲルド将軍を倒しに行ったんだ。
そこでアミーとサラが倒されて、それで…
「行かなきゃ。」
そうだ、行かなきゃ。
村人を苦しめたアイツを、アミーの大切なものを奪ったアイツを、何より、俺の大切な仲間を傷つけたアイツを、殺しに。
そう考えた俺は、旅の準備を始めようと、ベッドから立ち上がった瞬間小さなノックとともに、扉がひらかれた。
「物音が聞こえましたけど…ロイ、目を覚ましたのですか?」
「イラン?」
入ってきたのは、木綿のワンピースを着たイランだった。
「あぁ、ロイ、やっと起きたのですか。お寝坊さんですね。」
そう言って微笑むイランに癒されたのか、さっきまで俺の頭の中を埋め尽くしていた『ゲルド将軍を殺す。』という思考は、きれいさっぱりなくなっていた。
「それよりイラン、俺はどうしてここに?それに…アミーやサラは?」
俺のこの問いに、イランは綺麗な笑顔で
「ロイがここにいるのは私が魔法で連れてきたからですわ。あの娘たちがいないのは……」
イランが珍しく言いよどむ
どうしたんだ?イランが言いよどむなんて
「どうした?」
「あの娘たちがいないのは、私が連れてこれなかったからです。」
…え?
「どうしてだ?イランなら、俺たちまとめて連れて来ることも可能だろ?」
「ええ、まぁ、それは可能だったのですが…」
「だったらどうしてだ?」
イランが彼女たちを連れてこなかった理由が分からなかった俺は、頭一杯に疑問符を浮かべた。
「…すみません、見逃してしまいました。」
「見逃した?」
「ええ、ロイを助けるのに手一杯で彼女たちを助けることは出来ませんでした。」
「…そうか。」
「申し訳ありません。私が不甲斐ないばかりに。」
「いや、イランは悪くないよ。助けてくれてありがとね。」
そうか、アミーとサラはまだアイツのとこに。
だったら、助けに行かないとな。
俺がイランにアミーたちを助けに行こうと提案するより早く
「彼女たちのことは残念ですけど、次の町にいきましょうか。」
と、言って俺の手を掴んできた。
「なに言ってるんだ?サラたちのことはどうするんだよ、助けないと。」
「いえ、彼女たちのことは残念ですが、諦めましょう。」
俺はイランの言っていることが理解できない。
いや、理解したくないのだ。
だって、それじゃあ、まるで見捨てるみたいじゃないか。
俺は、反射的にイランの手を振り解いてしまった。
「……え?」
イランは俺の行動が予想外だったのか、唖然とした顔で俺のことを見つめている。
「…っ、ごめん。けど、俺はアミーとサラを助けに行くから。」
「ど、どうして?ねぇロイ、どうして私を拒絶するの?」
「き、拒絶したわけじゃ…」
嘘だ。
俺は怖いと思ってしまった。嫌悪してしまった。
アミーとサラを見捨てると言ったイランのことを怖いと思ってしまったのだ。
たとえ無意識でやったことであろうが、俺がイランを拒絶してしまった事実には変わりない。
いや、むしろ無意識であればなお悪いだろう。
それはイランも分かっているのか
「嘘よ、どうして拒絶するの?ねぇどうして?答えてよ。」
「だから、アミーたちを助けに行かないと。」
「無理よ。ロイも見たでしょう?ゲルド将軍の強さは異常です。今度こそ死んでしまうかもしれませんよ?」
そんなことは分かっている。
ゲルド将軍の強さは大トカゲ部隊の比ではないだろう。今度こそ死んでしまうかもしれないってのは、俺が1番分かっている。
けど、俺は…
「けど、俺はやっぱり見捨てるなんて出来ないよ。死んでしまうかもしれないけど、なにもしないよりはマシさ。」
「やめて、行かないでください、ロイ。貴方がいなくなっては私は…」
俺は、どうすればいいんだ。
イランの言いたいことも分かる。俺に死んでほしくないって気持ちは痛いほど伝わってくる。
でも、やっぱり、俺には仲間を見捨てるなんてことは出来ない。
俺が悩んでいる間にも、
「ねぇロイ、お願いですから、考え直してください。私と一緒に次の町に行きましょう?」
イランはそう言って、近づいてくる。
「と、とにかく!俺はアミーとサラを助けに行くから。」
俺はそう言ってイランを押しのけ扉へ向かう。
結局、俺はイランから逃げるようにして外へ出ようとした。
俺は、悩むことを放棄してしまった。
扉を閉める直前、ギリッという音がした気がするが、俺にはその意味を考える余裕はなかった。