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5:

「あーっ! どろぼー!」

「やかましい!」


 返せ戻せ、と喚きながら正宗に飛びつくエリス。TENGYAを奪われまいとエリスを押し戻す正宗。二人が押し合いへし合いするうち、正宗の手からTENGYAがポロリ、と零れ落ちた。


「あ」

「い」


 TENGYAはぽこん、と軽い音を立てて床を跳ねてから転がり、マイの足元へと向かう。


「こ、これって……」


 マイは戸惑いつつも拾い上げ、左手を紅潮した頬に当てつつじっとTENGYAを見詰めた。


「草刈さん! それは君には必要ないものだ。それは、男の生理現象を治める為のもので、女性は使いようもない……」


 正宗はそこまで言って言葉に詰まった。


 受付票によれば、マイはまだ十八歳、当然ながら未成年である。そんな、いたいけな少女に、あのグッズをなんと説明すれば良いものか――

 

「それ、使い捨てオナホだから。マイちゃんにあげる!」

「アホかあんたはっ!!」


 いつの間にかマイの目の前に立って、あざといアヒル口でにんまりと笑ったエリスが端的で痴的な説明をしたのにブチ切れた正宗が怒鳴り突っ込んだ。


「なによう、なんでアホなのよっ!」


 すると、エリスが口を尖らして抗議の声を上げ、正宗の胸をポカポカと叩きだす。


「なんでもです! とにかく、それは女の子には必要ないものだ。さあ、僕に渡して……」


 エリスの肩をぐい、と押しのけ、正宗はマイに向かってそう言いかけた、が。


「これって、もしかしておなにぃぐっずですかぁ?」


 予想とは違うマイのセリフと、欲情に濡れて輝く大きな黒瞳に驚かされ、絶句してしまった。


「そうよん。とってもキモチ良いんだから!」


 正宗の後ろから、マイに応えて楽しそうな声で返事をするエリス。


(キモチ良いって、あんたも草刈さんも使えないだろうが!)


 正宗は、そんなセリフを吐こうとはした。だが、何かに射すくめられたかのごとく口も、体も動こうとしない。


 なんだ、この何とも言えない違和感は――


 正体不明の悪寒に襲われ、正宗はぶる、と全身を震わせた。

 この島に来た時から、そして何より、エリスと会った時から――

 自覚していなかったが、この違和感が続いていた事に今、気付いた。

 いつの間にか、エリスはマイの近くに立ってTENGYAについて熱く語っている。二人とも女性であるから、当然、


『つ い て な ど い な い』


はず、だ。つまり、男性用自慰具、一般的に『オナホ』と呼ばれるグッズであるTENGYAは使用できるはずがない。だが、エリスがマイに説明している内容は、実体験を伴ったものとしか思えない。


 いや、実際に使った男性のレビューなどを読んだり聞いたりしていれば、自分の実体験に近い感じで話を出来るだろうが、正宗の聞く限り、どう考えてもエリス自らの体験談としか思えないのだ。


「でね、中に出した後、抜くときは下を向けないとダラーッと垂れて来て、キモチワルいから気を付けてね!」

「はい! でも、私まだ初体験前なのに、こんなの使っちゃって良いのかなぁ……」

「そうねぇ、下手すると、本物よりもキモチ良いからね。あ、でも、少なくとも私はTENGYAよりキモチ良いって言われるよ! マイちゃんも、なんなら私でチェリー卒業しちゃう?」

「えーっ! ホント!? 良いんですか?」

「良いわよん♪ じゃあ、今から早速宿直室で……」


「待て。ちょっと待て。って言うか止めろ。今すぐ」


 地獄の底から響くような声で、正宗が二人を、と言うよりエリスを止めに入った。


「えー!」

「ブーブー!!」


 マイの落胆の悲鳴と、唇を尖らせたエリスのブーイングが診察室に響く。


「やかましい! エリス、診察時間中ですよ! 草刈さんも、バカ町長の口車に乗せられないように!」


 何か、どこかがおかしいと言う感覚を持ったまま、正宗は怒声を上げる。


「誰がバカ町長ですってぇ!?」

「……はーい」


 ほっぺたを膨らませて抗議するエリスに黙らっしゃい、と返し、しぶしぶ返事をしたマイにそれでよろしい、と微笑んだ正宗は、


「とにかく、女の子がチェリー卒業とか、この島で流行ってるスラングだとしたら下品極まりないから、今後慎むように……」


 と、そこまで言って、本当に何気なくマイの下半身に視線をやった。


「……!?」


 マイは現在、下着姿である。上半身はストラップの無い、フリルの付いた水色の可愛らしいブラ。下半身には、ブラとお揃いのショーツ。それ以外の所は、真っ白だが若さにあふれた瑞々しい肌が露出している。そこにはエリスのようなボリュームはないが、健康的な少女の魅力に溢れている。


 だが。


 だがしかし。


 一か所だけ、明らかに一般的な少女とかけ離れた箇所を、正宗は発見してしまった。

 それは、下半身。女の子の、ある意味一番大切なところを覆い隠しているはずの薄い布切れ。

 世の男性にとって、そして女の子自身にとっても最後の砦となるその布きれを押し上げ、猛り狂っているモノが有るのだ。

 本来ならば、女の子のそこには、そんな突起物は存在しない。

 だが、マイのそこには、その布切れの下には確かな存在感を持って、布きれを押し上げているのである。


「先生?」


 診察室を静寂が支配したのは数分か、それとも数十秒か。マイの可憐な声が、不思議そうな色を帯びていた。


「先生、どうしたの? 診察再開しましょ」


 少しだけ、笑いの色を含んだエリスの声が正宗を急かす。

 二人の声に我に返った正宗は、エリスの表情を伺う。そこには、魅力的な、そして悪魔的な色を含んだ嫌らしい微笑が浮かんでいる。

 その表情を確認した次の瞬間。

 正宗は一切のためらいを見せずにエリスのミニスカートをたくし上げた。


「え」

「あ」


 電光石火の早業に、マイもエリスも全く身動きが出来なかった。

 正宗は、エリスのミニスカートの中身


――ちなみに、履いていなかった――


を確認したのち、大きく深呼吸をしてから


「失礼」


 と尊大に謝罪した。

 正宗の目と脳裏には、エリスの股間に屹立する立派なモノが焼き付けられている。

 だが、正宗は覚悟の上での確認であったし、ある意味予測が当たっていたことで、奇妙な満足感と達成感を覚えていた。

 予想外だったのは、エリスがノーパンであったことと、モノが膨張していた事である、が。


 正宗は混乱しつつも確信した。この島に居る『純粋』な男性は、確かにじぶんだけであるのだろう、と。


 少しの間を置いて、マイが「ぴゃあああ!?」と言うキャアだかヒャアだか、良く解らない悲鳴を発した。それは当然だろう。普通なら警察沙汰になってもおかしくない行為が目の前で、あろうことか医師により看護師に対して行われたのだから。


 「やだもー! 先生のエッチ!」


 だが、被害者であるエリスは怒ることなく、いやどちらかと言うと嬉しそうな声を上げ、正宗の胸を右手の人差し指でつん、と突つく。


「わあ、わあ、わあ! エリスちゃんと先生、いつの間にそんな深い関係に……」


 その、まるで恋人同士の破廉恥プレイとも取られかねない状況に興奮したのか、マイが今度はきゃいきゃいと黄色い歓声を上げている。


 その、マイの股間は――

 

 先ほどよりも大きさも、恐らく硬さも増したモノがショーツを突き破らんばかりに押し上げていた。


「エリス、話が有ります」

「はい?」


 もはや悟った修行僧のような風情さえ見せる正宗の言葉に、エリスは可愛らしく首を傾げた。


「でもぉ、マイちゃんの診察を終わらせないと……」


 チラチラと正宗とマイを見比べつつ、甘え声で困ったふりをする。


「そうですね、では、草刈さんの体温と血圧、脈拍を測定して下さい。あと、白くない(・・・・)小水の採取と、血液採取もお願いします。とりあえず、それらの検査結果を精査したうえ、後日改めて診断をしましょう。それと、下着を着けて下さい。良いですね?」


 有無を言わせぬ正宗の迫力に、さすがのエリスも「はーい」と返事をして、マイを検査室へと連れて行く。

 正宗はカルテの打ち込みを終わらせたのち、自ら受付まで出て名簿を確認し、


「はい、次の方……桜木ミュセルさん、診察室へどうぞ」


 と、待合室で待っている患者の群れに向かって声を掛けた。



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