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12:

「ついて来て」

 そして、正宗の返事を待たずに部屋を出て行く。

 Tバックからはみ出したムッチムチでプッリプリな揺れるお尻を追うように、正宗はエリスに続いて歩き出した。


 エリスの部屋を出て一階に下り、ロビーを通り抜けて廊下のどん詰まりまでたどり着くと、エリスが壁に向かって右手薬指に嵌めたシンプルなプラチナリングをかざす。すると、今まで何もないように見えた壁に硬質な輝きを放つ金属製のドアが現れ、音も無く開いた。

「こっちよ」

 ドアの向こうは正方形の小さな部屋になっている。エリスに続いて正宗も入室すると、ドアが閉まって密室状態となった。エリスは正面の壁に埋め込まれたディスプレイに歩み寄り、タッチ操作を始める。

「お……?」

 と、僅かな浮遊感を伴い、部屋そのものが地下へ向かって降下し始めた。

「この部屋そのものがエレベーターなのか」

「そう。私は途中で降りるけれど、先生には最下層まで降りてもらいます。そこにあなたの親友がいるわ」

「エリスは付き合ってくれないのかい?」

「ええ、私は他に用事が有るから。ただし、あなたも刹那技師も常時監視させてもらうので、変な行動は取らないでね?」

「ああ、承知した」

 正宗の答えに満足したか、エリスはにっこりと笑って黙る。しばらくすると浮遊感が和らぎ始め、エレベーターが静かに停止した。

「じゃあ、先生。私はここで降りるから。刹那技師と心行くまで旧交を温めてね」

 くすくすと、何事かを期待するような忍び笑いを見せてエリスがドアの向こうへ消えた。エリスの白い背中越しに見えた外の景色は、無機質な白い壁が続く廊下だった。

「さて、ようやく会えるか」

 再びの浮遊感を覚えつつ、正宗は独言した。果たして、刹那の肉体がどんな変化をしているのか……? 下りる間際、エリスが見せた忍び笑いは恐らく刹那の変化に驚く正宗を期待してのものだろう。正宗はディスプレイに歩み寄り、数度タッチを試みたがロックされていて操作不能である、ちなみにロック画面が、高そうなクラシックレザーソファに寝転んだネグリジェ姿のエリスなのにうんざりし、今日だけで一体何度ウンザリさせられるのだろう、ともう一つおまけにうんざりしたが、エリスがワクテカしつつ監視しているのを本能的に感じ、敢えて無反応を貫いた。

 かなり長い間エレベーターは降下を続け、少しだけ感じる減速感と共に最下層へとたどり着く。スッと静かに開いたドアの向こうは、薄暗くだだっ広い部屋……と言うより、空間だった。

「暗いな」

 降り立った正宗を迎えたのは、仄暗い照明と、照明の届かない一面の闇。

 廻りを見廻しても、左右の壁はしばらく続いたのちに暗闇へと飲み込まれ、見上げてみると天井も暗闇の中で、いったいどれほどの高さかも解らなかった。

「俺の感覚では、ワンフロアの高さが5メートルとしてエリスが降りた階が地下50階ほど、ここは300階、ってところだが」

 単純計算すれば、エリスの降りた階は地下250メートル、この最下層は1500メートルほどになる。

「だがまあ、実際には少なくとも3000メートルを超えてそうだな」

 正宗はそう言うと、さてどちらへ行ったものか、と少し悩んだ。

『お疲れ様、先生。そのまま真っ直ぐ行けば彼の元へたどり着くわよ』

 と、どこからかエリスの声が聞こえて来た。正宗はスピーカーを探してみるが、暗くて見つけることが出来ない。

「こっちの声は聞こえるのか?」

 ためしに、少し大き目な声で尋ねると

『ええ、聞こえるわ。普通の声で大丈夫。そのまま、まっすぐね。五分も掛からないから』

 少し笑いを含んだエリスの返答が返って来た。

「では、行くか」

 別にエリスに聞かせようと思った訳ではないが、なんとなく口に出してそう言ってから正宗は歩き出す。

『言うまでもないと思うけど、暗いから足元に気を付けてね』

「了解」

 エリスの注意に頷くと、正宗はトコトコとコンクリートの上に硬質ラバーを張ったらしい床の上を歩き出した。

 相変わらず薄暗いが、正宗が進むたびに向かう方向の床に仕込まれた照明が灯り、道案内をしてくれる。三分ほど歩くと、前方の暗闇の中にぼうっと明るくなっている箇所を発見した。

「あそこ、か?」

 明かりをめざし、正宗の脚が早まる。辿り着いたそれは、だだっ広い空間の中にぽつん、と小屋の様に突出した部屋の入口のドアから漏れる光だった。

 ドアは半開きで、光はそこから漏れている。少し考えてから正宗がドアをノックしてみると、

「どーぞ」

 と、場違いに長閑な声が返って来た。

「失礼」

 正宗はそう言ってから、半開きのドアを手で開けて入室する。本来は自動ドアらしいが、部屋の主が空気入れ替えの為か電源を切っているのだろうか。

 部屋の照明自体は暗く、外の空間より多少マシなくらいだ。だが、正面の壁に多数のディスプレイが設置されており、それらが放つ光で部屋の中は煌々と照らされていた。

 明るさに目が眩んだ正宗は、思わず手でディスプレイからの光を遮る。少し経ち、明るさになれた正宗の目に映ったのは、こちらに背を向けて座る一人の男だった。


インフルで死にそうDEATH(死)

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