表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/48

七、

「そうか。『彼』を見つけたか」

 ほの暗い、古びたお屋敷。あかりは行燈が二つあるだけだ。

 漆黒の装束に袖を通したその青年は、そう呟いた。

「おー。いっちょまえに記憶失ってやがんのよ! おかげさまで、解呪もできなかったしよぅ。ほんとどうしてくれんだ!」

「落ち着け、トト。解呪が難しいならば、呪いをかけた原因を絶ってしまえばいいだけのことだよ」

 じだんだを踏んで怒るトトを、青年――ラオがいさめた。

「けどよぉ、ラオ? あいつは風神ですぜ? よしやろうか! って言って簡単に殺れる相手じゃねえよ?」

「それについては心配ないさ。敵を知り己を知れば百戦危うからずとはよく言ったものでね」

「小難しい言葉であたしをゴマかそうってのか? 裂くぞてめー」

「知力の足りない君が悪い。……先日拾った男を見ただろう?」

 ラオはふいっと後ろに目を向ける。トトはつられてそちらをうかがった。

「……あいつか? 血だまりに寝てたやつ。アレ拾ったん? いいシュミしてんねえ」

 はっ、とトトは鼻で笑う。

 ラオの背後には、その血だまりに寝ていた奴とやらが、静かに控えていたのだ。


 赤銅色の髪に、丈の大きい法被、首と額、右手首左足首には痛ましげに包帯が巻かれている。

 目には生気が宿っていないようにも思える。

「んで、ラオ? そいつがなんだってえの?」

「彼は、八百万の神々の仲間だよ」

 簡潔なラオの答えに、トトは一瞬息をのんだ。

「マジかよ。敵じゃん」

「そう、敵側のものだ。だが、彼はこちらにつくと言っている」

「は? てことは何、裏切りでもしてるってわけ?」

 トトは赤銅の男の顔を覗き込んだ。

「彼の名は火之迦具土。わけあって父親に斬られた経歴を持っている」

「こらこら。そういうことは自分の口から言いたかったのに。ラオはおしゃべりだねえ」

 カグツチという男は、楽しそうに笑っている。目に生気は宿らないまま、ラオやトトの言葉に反応している。

「トトは初めて君に会うからな。シェンは昼に顔を合わせたからね」

「へーあたしは最後かよ」

 トトはむくれた。

「んで? そのカグツチ君はあたしらに何してくれんの?」

「八百万の神々の情報を流してあげよう」

 さらりとカグツチは答えた。

「マジで裏切りかよ。えげつねーえなー。あんた、仲間に未練とかないわけ?」

「実の父に斬られた私に、未練があるとお思いかねえ?」

「だよなー」

「その情報をあんたらが活用すれば、呪いを解くことだってわけないだろう? いくらでも私を利用すればいい。どうせ捨てられた身なのだからさ」

「そこまで投げやりかよ。裏切り者は一味違うねー」

 トトは苦笑してカグツチにそう飛ばす。

 さて、とラオが口を挟む。

「そういうわけだ、トト。これからはカグツチを通じて八百万の神々を崩していく。敵を知れば、それだけ対策もできるからね。力任せに戦って勝てる相手じゃないのだから」

「けっ。わーってますよ! ラオ兄様!」

 トトは不機嫌そうに吐き捨てた。この兄は、自分が単身で建御雷に挑んだことも御見通しらしい。

 一室をずかずかと乱暴に去っていったトトを尻目に、ラオはカグツチに向き直る。

「では、頼むぞ、カグツチ」

「ふふん? おまかせ、あれ」

 カグツチは、おどけるように一礼した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ