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五、

「……そう。大国主殿は、ご無事なのね」

 天つ神の本拠地である社の社殿にて、八坂と天照は互いに現状報告をしていた。

「彼がご無事ならば、出雲はまず問題ないでしょう。ただ、彼は異形に対しての攻撃手段を持たない。防戦一方ではやられてしまうのもまた事実」

「はい。義父は祟りや縁結びによる攻撃能力は持っていますが、それらは異形に有効ではありません。異形討伐は義兄たちに任せています」

「出雲を脱出するのは、たやすくなかったのね?」

「はい。義父の力で、一時的に異形や穢れから身を守ってはいました。ですが、それも時間制限つきですので、穢れに覆われた地を抜けるのは至難の業でした。力が切れ、穢れに囲まれた状態で、空き家に避難していたところを、建御雷殿に保護されたというわけです。……わたしの報告は以上ですわ」

「ありがとう。今日は、ゆっくり休んで。といっても、おんぼろで申し訳ないのだけれど」

「いえ、充分ですわ。お心遣い、感謝します。天照様」

 八坂はそういって、社殿をあとにした。

 ふうっ、と天照は息を吐く。

 思っていたより、中つ国の穢れはひどい状態であるようだ。

 大国主が健在である限り、中つ国が最悪の道をたどることはないと確信している。だが、それも時間の問題だ。

 もうひとつ、最悪の道に至らないと、天照が確信している理由がある。

 それは、鹿島の存在だ。

 どういう経緯や経験をしてそうなったかは知らないが、天照の知る限り、鹿島は最悪の道を回避するためならばどんなことだってしてみせる。それがたとえ、神の道を外れるものだとしても。彼は、その手段を迷いなく行使する。

 大国主がいるかぎり、出雲の地は問題ないだろう。

 天照のいるこちら側は、鹿島がいるかぎりは、『最悪』は免れる。

 だから、鹿島を失ってはならない。


 鹿島だけではない。誰も、失ってはならないのだ。

 わけあって、記憶を落とした諏訪も、穢れに満ちた地を乗り越えてここまで来た八坂も、社で生活している中つ国の住人たちも、誰ひとりとして、失わせやしない。それが、自分の役目なのだから。

「お嬢」

 天照の後ろに、手力が立っていた。

「……あら、手力」

「めしですよ」

「ありがとう。すぐに行くから、先に行っててちょうだい」

 しかし、手力は動こうとしない。じっと天照の小さな背中を見守っている。

「手力?」

「一緒に行きましょう。お嬢の『すぐに行く』は信用ならんもんですから」

「あら、ひどいのね」

「お嬢」

「なに」

 茶化す様に言おうとする天照を、若干いらだたしげに手力が制する。

「きついのもわかりますが、食うもんはちゃんと食っといてくださいよ」

「それじゃ、まるでわたしが全然食べていないみたいな言い方ね」

「飯の時間になってもここにこもりっきりで、中つ国の状態をずっと見てるようなあんたをひっぱりださにゃならん私の身にもなってください」

「それはごめんなさい」

 手力は、天照の小さな手を強引に掴んだ。そのまま、引っ張り出す。天照は抵抗するでもなく、その力に従って社殿を後にする。

 自分を外へとひっぱりだしてくれるのは、いつも手力だ。ほかの誰でもない、手力が、彼だけが、天照を外へと連れ出してくれる。

 天照にとって、その事実は彼女の糧だった。手力がいるならば、この困難も乗り越えて見せよう。

「手力」

「なんです?」

「今日のごはん、何?」

「宇受女の粥ですよ。かぼちゃと梅がたっぷりです」

「それはおいしそうね」

 天照は、少しだけ笑った。


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