表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/48

四八、

 諏訪が落ち着くまで、三十分ほどの時間を要した。嗚咽が徐々に消え、すんすんと鼻をすする音に変わり、最後は無造作に涙を拭く衣擦れに落ち着いた。その間、鹿島は誰かに諏訪を丸投げすることはせず、早くなきやめとせっつくこともせず、諏訪の好きなようにさせていた。できる限り優しく抱きしめて、小さな背中をさする。

 

「……ありがとう、鹿島」

「ん。落ち着いたか」

「もう大丈夫だ。ごめん、迷惑になってしまって」

「こんなの、迷惑のうちに入らんさ。おまえはひとりで抱え込み過ぎだ。少しは周りを頼れ。俺はいつだって諏訪の味方だから、何かあったら俺のとこに来い」

「うん……。覚えていたら、そうする」

「そりゃよかった」

 鹿島が、諏訪の頭をくしゃっと撫でた。


「あ、そういえば、八坂は」

 諏訪が目覚めた後も、八坂はずっと眠っていた。諏訪よりも神力を消耗している彼女は、まだ起きない。彼女の御霊は、黒幕であったゲネに大半を噛みちぎられた。その修復作業のために、神力が集中しているため、八坂の生命活動は必要最低限に押しとどめられているのだ。


 離れの床で眠る八坂を、諏訪はじっと見下ろした。隣に腰を下ろして、そっと寄り添う。八坂のかぼそい手を握ってみた。力なくだらんとした手が、何だか重い。

 艶やかな黒髪に触れてみた。さらさらと、指を通り抜ける。

 そんな諏訪の背中に己の背中をあずけるように、どっと鹿島が座り込んだ。体重が少し諏訪にかかる。こちらに寄りかかっているのだ。

 昔であれば、「離れろ、ばか」と押しのけていたが、今はそうする意思がない。むしろ、この体重がありがたいとさえ感じられる。八坂が目覚めるまでずっと不安に押しつぶされそうで、八坂を見守るのはひとりきりではあまりに怖かった。誰かが近くにいると分かるだけで、こんなに救われるなんて。



「大丈夫、起きるさ」

「……うん」

 鹿島は、それっきり話しかけてはこなかった。


「…………あ」

 諏訪がふと声を漏らす。かすかに、自分の手の中で、何かが動いた気がしたのだ。

 手の中には、八坂の手。それが動いたということは、八坂が目を覚ますしるしでもある。


 諏訪は姿勢をただし、じっと八坂を見守る。背後で、「うわっ?」と素っ頓狂な声が聞こえた。いきなり背もたれ代わりが動いたせいで床に頭をぶつけた鹿島だった。



 長い時間をかけて、ゆっくりと、八坂の瞼が開かれた。

 その瞳はややぼんやりしている。寝起きだからだろう。寝ぼけまなこの少女は、不思議そうに目をしばたたかせた。


「八坂……!」

 諏訪は歓喜を押し込めて、できるかぎり落ち着いて八坂の名前を呼ぶ。

 呼ばれた本人は、ゆったりと諏訪の方へ顔を傾けた。やんわりとした微笑を諏訪に向けてくれる。

「あら、建御名方……?」

「おはよう、八坂。よく眠れた?」

 泣きそうになるのをこらえて、諏訪は何でもなさそうに装う。八坂は少し間を置いて、手を握り返した。

「よく、覚えていないわ……。なんだか、とても長く眠っていた気がするの。ずっと、長い夢を見ていたわ……」

「夢?」

「そう。ついさっきまで覚えていたんだけど、きれいさっぱり忘れてしまったわ」

 そう言って、八坂は困ったように微笑む。

「そっか」

「でもね、きっといい夢だったと思うの。目が覚めた時、とてもすがすがしい気分だったから」

「うん」

「建御名方、少し疲れてる……?」

 八坂が諏訪の手から逃れ、彼の頬に触れた。かぼそい指先が諏訪の頬を掠め、するすると落ちていく。それを受け止めるように、諏訪はもう一度彼女の手をつかまえた。

「少しだけね。でも、もう終わったから」

「何か、大きなお仕事していたのね」

「うん。とても大きくて、重大な仕事だったよ。まだ後片付けが残ってるけど、ほとんどを終わらせることができた」

「そう……。貴方のことだから、きっと無茶したのね」

 はは、と諏訪は誤魔化した。無茶をしたのはもちろん、すべての元凶は自分にあったという自覚があった分、八坂の指摘は少し痛かった。

「まぁ、ね。でも八坂が、桃をくれたから」

「桃? ああ、食べてくれたのね。貴方、甘いものをよく食べるから、桃も好きかなって」

 八坂は当たり前のように答えを返す。それを聞いて、諏訪はほっとした。

 やっぱり、あの時のことは八坂だったのだと。


「起きられる?」

「うん。まだ少しだるいけど、動けばすぐにいつもの調子に戻るわ」

 そう言って八坂は上半身を起こす。


 それを待っていたように、諏訪は優しく彼女を抱き締めた。鹿島が自分にしてくれたように。

 八坂の黒髪が、ひらっと揺れて、落ちる。

「建御名方?」

「……おはよう、八坂」

 諏訪は穏やかな声色でそういった。

「うん。おはよう、建御名方」



 翌日、体調の回復がはっきりとした諏訪は、天照に挨拶して、八坂を連れて信濃へ戻った。

 穢れが過ぎ去った信濃は、荒れ放題だった。社はぼろぼろで、台風がきたらおそらく崩れるくらいに、柱が傷んでいた。それでも、信濃に吹く風は穏やかだった。


 信濃を一目確認し、次に向かったのは出雲だった。天照と手力の話では、地下に息をひそめて嵐が去るのをじっと耐えていたと聞いている。が、ゲネの気配が日本から抹消されたことを、地中と地上を仲介してくれた鼠により伝えられ、やっと陽光を拝めたということだった。諏訪が出雲へ着くころには、皆地上に出てきた。出雲は信濃ほどではないにしても、やはり穢れに侵食された痕がいくつかうかがえた。


 その痕を元通りにせんと、大国主はすでに働いていた。事代主や木俣たちに指示を出し、自分は穢れにより抉られた社の傷痕を、ひとつひとつ慈しんで癒していた。彼が何か短い言葉を呟いて、そっと触れると、たちまち癒える。柱や鳥居、しめ縄に木々などなど、そういった社を形作る要素すべてを、ひとつずつ大国主が癒していく。


 社に祀られている大国主自らがそうして働いているためか、出雲の皆々は全員、何かしら働いていた。力に覚えのあるものは重たい素材を運び、手先が器用な者はその素材を用いて社を修復する。女たちは飯炊きに地ならし、子供たちは木俣にしたがい、洗濯や飯運びなどの雑用。


 そんな健気な父親の背中を見守っていると、どうしても父に声をかけるのがためらわれた。兄ふたりも忙しそうに木材を運んだり土をならしたりしている。もう少し落ち着いてから顔を出すべきだっただろうか。


 意を決した諏訪は、「とうさん」と呟いた。せわしなさと騒がしさであふれていたはずなのに、大国主はその声を確かに聞き取った。手を止め、言葉も止める。すっとこちらをふりむいた。


 一瞬だけ、驚愕に目が見開かれたが、すぐに安堵に変わった。大国主はばたばたと駆け、修復もほっぽりだして、何も言わずにただ、諏訪を抱き締めた。強く、諏訪を掻き抱く大国主は、息子の生還を何より喜んだ。


 それを見つけた事代主が木俣に声をかけ、守矢を大声で呼ぶ。

 気づいた守矢は慣らしたばかりの地を駆け抜けて、諏訪に抱き着いた。ついでに、大国主を遠慮なく吹っ飛ばした上で、だ。

 諏訪は守矢の無事に、心底ほっとした。目の前で食われたはずの親友が、大なり小なり怪我をしてはいるものの、こうして生きていたのだから。どうして無事だったのか、守矢も分からないらしい。ただ、「まあ、神風が助けてくれたんじゃねえの?」とからから笑った。


 中つ国の誰もが無事で、元気に働いていることが確かめられた諏訪は、その日出雲に一晩止まって信濃へ帰った。信濃には、八坂が待っている。

 

 しばらくは、信濃の修復で休む暇がなかった。すべては自分が起こしたことだからと、諏訪は信濃で一番働いた。

 穢れによって腐敗した草木を癒し、ぼろぼろに刻まれた社のあちこちを治し、復興作業に疲れた人間や神々に寄り添い、頃合いを見て粥を自ら振舞った。そうして寝る間も惜しんで働く彼を、八坂がそっといさめた。夜が更けても働こうとする彼に唇をとがらせ、「今日はもう寝なさい。いいわね?」と母親のように優しく叱る。そんな、眉間に皺を愛らしく寄せる彼女に上目づかいで言われては、さすがの諏訪も従うしかなかった。


 

 そうして五日が経った。まだ復興か完了したとは言えないが、それでも信濃は今までの元気を取り戻している。人間たちは相変わらずせわしなく働き、自分たちにできることを率先して行う。働きづめだった諏訪をむしろ休ませようとさえしていた。


 人間達が働いて、自分だけのんびりするわけにもいかないので、諏訪は「じゃあ簡単な作業でもいいから」と食い下がる。すると、では粥を、と頼まれた。諏訪は厨房に消えて、そうしてじっくりと粥を煮ていた。



 さて、そんな五日め。信濃に客神がやってきた。いつも遊びに来てはちょっかいを出して飄々と去っていく男――鹿島である。


「よう、諏訪」

 今回は小さな紙袋を抱えての来訪だった。いつものようにからころと下駄を鳴らし、いつものようにつかみどころのない笑みを浮かべ、いつものようになれなれしく諏訪の頭をぽんぽん撫でる。

「どうした、鹿島。そちらの仕事はいいのか」

「あれ、今日は突っ返さないのな。普段だったら『何の用だ』っつって、嫌そうに睨むのにさ」

「別に、何もない。僕も丸くなったんだ」

「はは、嬉しいこった」

 ほら、と鹿島が紙袋を渡す。中身は焼き菓子だった。菓子を視認したとたん、諏訪の目が輝いた。甘いものが好きな諏訪は、こういう贈り物に一番強く反応する。

「どうしたんだ、このお菓子?」

「ここに来る途中でな、ちょうど通りかかった店で買ったんだ。なかなか甘い匂いがよかったから諏訪にあげる」

「あ、ありがとう……」

 諏訪は俯いて小さく礼を言う。菓子は、あとで食べようと大事に懐へ仕舞い込んだ。


「……それで、今日は菓子を届けにきただけか?」

 諏訪が鹿島を見上げる。

「いや、菓子はついでだ。俺の方も落ち着いて来た……っていうにはまだ少し遠いけど、伝えとくことがあって抜けて来た」

 

 鹿島は高天原の頼れる武神である。ゆえに、穢れにまみれた地上の復興にも協力している。高天原はかろうじて穢れの侵食を受けずにすんでいたため、主要の天つ神々は地上の復興を手伝っている。

 その中でも鹿島は一番忙しいと諏訪は思っていた。力もあってカリスマ性もある彼がいれば、すぐに人間や国つ神々のモチベーションも上がると言うものだ。そして復興も予定より早く終わらせることができるかもしれない。


 実際、鹿島は中つ国のあちこちで引っ張りだこだった。あちらの地域がひと段落したら次はそちら、そちらが終われば次はこちらというふうに、鹿島も休む暇がなかった。

「忙しい身なのだろう? 大丈夫なのか?」

「ほんとはよくない。でも、お嬢の指名でさ。諏訪に、今日中に必ず伝えろと」

「伝えるって、なにを?」

 

 諏訪がそう問うた。すると、鹿島は急に真面目な面持ちになった。息を吸って、それを伝えた。


「極西の三兄妹が、今日日本を発つってさ」


 そんだけ、と鹿島は付け加えた。


 その話を聞いて、諏訪は少しだけ胸あたりが締め付けられる思いがした。

 彼らをかくまい、日本を危機に陥れた自分にとって、三兄妹との別れは決して清々するものではない。かといって名残惜しいものでもない。

 複雑だった。自分がまんまと罠にはまっただけとはいっても、彼らは最初は敵だった。だけれど、マザーのことやゲネといった真実を見つけるうちに、すべてを嫌うことができずにいる。


「そう、だったのか」

「本当はもっと早めに伝えたかったんだけどな。俺も忙しくて遅れてしまった」

「……菓子を買う余裕はあったのに?」

「それは言わないでくれや」

 鹿島が苦笑する。

「で、だ。今行けばたぶん見送りくらいは間に合うぞ? 船とかの手配は済ませてあるし」

「どの港から発つんだ?」

「最初に来たとこ」

「…………って、信濃? 僕、何も聞かされていないぞ?」

「お前が多忙に多忙を重ねるもんだから、これ以上ストレスにならないように、信濃のモンらがみんな気を利かせて敢えて黙ってたんじゃねえの?」

「聞かされなかった方がよっぽどストレスだ……」

「で。行くか? お望みなら一緒にいってやんよ」

「ああ、頼むよ」

 諏訪は頭を抱えて、鹿島と一緒に港へ行く。



 すべての始まりは、ここからだった。

 ここの港に流れ着いた、異国の神々を拾ったことが、すべての発端だった。その神々を拾った諏訪により、地上が穢れに埋め尽くされ、果ては日本全土が穢れに堕ちるところであった。


 海から風が運ばれてくる。ひんやりと冷たい風が、諏訪の頬を撫でた。

 片手で抱えられるくらいに小さい荷物を各々抱えた三兄妹が、こちらを振り向いた。トトだけ、背に大鎌を負っている。小型の船はなかなかに新品らしく、陽光に当てられてぴかぴか光っている。天照が手配したらしい。


 よ、と鹿島が気軽く声をかける。

「……よう、雷神。風神も」

「何だい。見送りは結構だと断ったはずなのだけど」

 長子のラオが淡々と言う。

「誰ひとり見送りのない旅立ちなんて寂しいだけじゃんか。せめて喜んでくれよ、こちとら忙しい中わざわざ時間割いたのよ?」

「忙しそうには見えないけどなあ」

 シェンが怪訝の目を鹿島に向ける。

「ひっで。俺これでも人気者なんですよ?」

「世も末だね」

「まったくだな」

「お前ら兄妹そろって辛辣だな」

 鹿島は大げさに嘆いてみせる。


 そのやりとりを見守っていた諏訪に、トトが気づいた。

「なあ風神」

「っ、な、何、かな」

「んなおどおどすんなよ、あたしがいじめてるみたいじゃねーか」

「いや、僕が来て……その、そんな資格もないかと思って……」

「あん? 別に見送りに資格がどうとか関係ねーだろ。むしろあたしらが申し訳ないくらいだし」

「そう、か」

「そうだよ」

 トトはつとめて明るい声で諏訪を歓迎していたが、会話が途切れた途端、表情がしおれた。

 すぐに見抜いた諏訪は、首を傾げながら彼女を見据える。

「トト……?」

「……ん、いや、さ。あたし、さんざっぱらひどいことしてきたのに、詫びのひとつもしてなかったんだなって。ごめん。この場で謝ったって何にもなんないのはわかってっけど、ごめんなさい」

 トトが頭を下げた。ゆるく波がかった長髪が、ふわっと零れる。隣のラオは、帽子を脱いで小さく礼をした。シェンはそれを見て形だけ頭を下げている。

 諏訪は少しぎょっとした。謝罪も和解も、すべて終わっている。だからこれ以上、彼らが必要以上に罪悪感にとらわれる必要はないのだ。とはいえ、当事者たる彼らに、もう気にするなといったところで何の意味もないと諏訪も理解はしているのだけれど。


「……あの、頭をあげてくれ。こうなったのは僕が甘かったからにすぎない。君たちは、君たちの守りたいものを守ろうとしただけだろう。その形が、穢れを広げるという術だったってだけだ。僕はもう、君たちを恨むつもりはない。だからせめて……最後のお別れくらい、笑って終わらせよう」

 トトが頭をゆっくりあげる。今にも泣きそうに顔をくしゃくしゃ歪ませていた。きゅっと唇を引き結んで、眉間がハの字に下がって、目が若干潤んでいる。

「お前、意外と涙もろいのな」

 鹿島が茶化す。うっせ、とトトが頭をぶんぶん横に振った。


 おもむろに、諏訪が口を開く。

「……一年経ったら、また来てほしい。そのころには、もう復興も終わっているだろうから」

「いいのかい? 俺たちは日本を穢した神だよ」

「それはもう終わった話だ。敵意はねえし、お嬢は一年の入国禁止でいいってんだから、いいんだよ」

 それでもまた牙を剥くようなら次は容赦しないけどな、と鹿島は飄々と笑った。

「ありがとう、風神。雷神も、あんたらがきてくれてよかったよ」

「ぼくはきれいなおにいさんが来てくれればもっとよかったのになあ」

 シェンが唇を尖らせた。

「あいつはもっと忙しいんでな。雷のお兄さんと風のお兄さんで我慢しろ」

「ちぇー。ま、いっか。一年経ったらもっと大きくなって、またおにいさんのとこにいけばいいしね」

「その前向きさ嫌いじゃないな」


 言葉を交わして、それではと、ラオが妹弟を促す。いつまでも港で立ち話をしているわけにもいかない。

 三兄妹が船に乗り込むと、船は自然に動き出した。そしてゆっくり港から離れていく。


 ラオとシェンはこちらを一瞥して、それっきり諏訪の方を向かなかった。


 その中で、ただひとり、トトはずっとこちらを見つめていた。

 哀しげな表情を浮かべていたが、諏訪の言葉を思い出して、無理やり口端を釣り上げた。泣きそうになりながら、つとめて笑っている。


 諏訪と鹿島は、彼女を、見えなくなるまでずっと見守っていた。

 ぼんやりと、しっかりと、極西の神々の船出を見守っていた。


 だんだんと彼らを乗せた船は小さくなり、やがて水平線のあちらへと吸い込まれていった。

「……行ってしまったな」

「おうよ。けど一年なんてあっという間さ」

「一年経ったらすぐにこちらへ来てくれるというわけでもなかろうに」

「はは、言えてる」

 鹿島がふっと、諏訪の肩に触れて、抱き寄せる。何しやがる、と抵抗もせず、諏訪は鹿島の胸にすっぽりおさまった。


「帰るか、信濃に」

「うん。……あ、いや。鹿島に連れて行って欲しい所がある」

「ん? 構わんよ。どこ行きたい」

「経津主殿のところ。力を、返しそびれてしまった」

 諏訪は微笑んでそう告げる。鹿島は一瞬面食らったように目を見開いたが、すぐにいつもの苦笑を浮かべて、「はいよ、すわ」と諏訪に手を差し伸べた。諏訪はその手を取り、もう水平線を振り向くこともなく、港から去って行った。



   了

これにて『やさしさの境界線』完結となります。長かったです……! ここまでお付き合い頂き、ありがとうございました!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ