表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Blade Blaze Online -太陽を抱く蒼穹-  作者: Allen
5章:王都襲撃と輝きの空
95/167

90:死闘












「……ダ、ン?」



 目の前で吹き飛んでゆくダンクルトの姿を呆然と見つめ、旬菜は小さく呟く。

視界の端に映るパーティメンバーのHPバーでも、ダンクルトのHPは完全に削りきられ、戦闘不能状態である事が示されていた。

冗談か何かのように高々と蹴り上げられ、地面へと叩きつけられたダンクルトは、そこに倒れ込んだまま沈黙している。

戦闘不能状態に陥ったプレイヤーは、その場に留まって蘇生処理を待つか、直前に立ち寄った街の噴水まで帰還するかを選ぶ事が出来る。

ダンクルトの姿が消えていない事から、彼が蘇生待ちをしている事は分かるが――にもかかわらず、旬菜は彼の姿を見つめたまま呆然と硬直していた。



『――アマミツキ、蘇生処理! アンズはバリスを即座に回復、前線維持を! 旬菜、一旦距離を取って体勢を立て直せ!』

「…………」

『旬菜? おい、旬菜! っ……プリス、巨人に対する攻撃の前に旬菜を回収して欲しい! あたし達が奴の注意を引く!』

『わ、分かりました!』



 ダンクルトを蹴り飛ばし、地面を踏みしめ体勢を立て直していたヒル・ジャイアントは、近くにいる旬菜へと視線を向けている。

旬菜を救援するつもりで、ダンクルトに続いて巨人へと接近していたプリスは、先ほどとは違った形ながらも旬菜の元へと駆けつける。

若干距離があったものの、ヒル・ジャイアントの眼前にライト達が躍り出た事で、二人は巨人の注意から外れていた。

赤い紋様の浮かんだヒル・ジャイアントを挑発するように魔法を放ちながら、ライト達は立て直し中の面々から引き離すように、徐々に距離を開けていく。

その間に、プリスは地面に座り込む旬菜の元へと辿り着いていた。



「大丈夫ですか!? ダメージは……旬菜さん?」

「あ……ぁ……」

「旬菜さん、どうしたんですか!? 旬菜さん!」



 呆然とした表情の旬菜は、一方向――地面に倒れたダンクルトを凝視したまま硬直している。

普段は眠そうに半分閉じられている目蓋は限界まで見開かれ、口からは浅く速い呼吸が零れる。

明らかに様子がおかしい。何かに怯えるようにも見えるその表情に、プリスはすぐさまチャットへと声を投げかけていた。



「ヒカリさん、ライトさん! 旬菜さんの様子がおかしいです! 何か怯えたような感じで、声をかけても応答がありません!」

『っ、さっきのが相当ショッキングだったか……? でも、いつもはダンクルトがやられた程度じゃ眉一つ動かさなかったが……』

『ライ、回避に集中しろ。ひょっとしたら、あたし達が踏み込んじゃならない話かも知れん。プリス、手間をかけさせて悪いが、旬菜をダンクルトのところに連れて行って欲しい。事情を知ってそうなのはあいつだけだ。それからゆきね! ディオンをさっさとこっちに!』

「はい、了解です!」

『せめて消耗してる装備ぐらいは交換させてよ……』



 頷いたプリスは刀を鞘に納め、愚痴るゆきねの声を聞きながら、未だ呆然としたままの旬菜を抱き上げていた。

特に反応らしい反応も無く、旬菜は大人しくプリスの腕の中に納まる。

そんな彼女の様子に対し、僅かに心配げな表情を浮かべながら、プリスはダンクルトの方へと向けて駆け出していた。


 蘇生処理には、それ専用の回復アイテムが必要になる。

一般的なNPCショップで売られているものは【アウェイクポーション】という名称であり、純粋な復活のみを目的としたアイテムだ。

HPが1の状態で復活するという最低限の性能だけを有しているものの、その値段はそれなりに高く、序盤のプレイヤーが買い揃える事は若干難しい。

とは言え法外な値段というほどのものではなく、慎重なプレイを心がけていればそれほど世話になるアイテムではないため、アマミツキもいくつか在庫を有していた。

また、ポーションマイスターとなった事で自力での生産も可能となり、一人を復活させる程度であれば全く問題がないと言う状況であった。

とはいえ、カスタマイズした復活アイテムもいきなりHPが全快になるような物ではなく、その後もある程度の回復が必要となるため、一瞬で戦線復帰という訳にはいかないのだが。

ともあれ、既に復活して起き上がっていたダンクルトは、変身を解除した状態でアマミツキによる回復を受けながら、プリスたちの方へと視線を向けていた。



「大丈夫ですか、ダンクルトさん」

「おう。ゲームだから痛みはなかったが、軽くジェットコースター気分を味わったぜ。酔いそうだったがな」



 くつくつと笑い、ダンクルトは肩を竦める。

彼の様子の仲に、戦いに対する怯えのようなものは見えず、プリスはとりあえず安堵の吐息を零していた。

と――そこで、ダンクルトは上げていた視線を僅かに下ろす。

その先にいるのは、プリスの腕の中で身を硬くしている旬菜だ。



「そっちは、無事だったみたいだな」



 彼女の姿を確認し、ダンクルトはどこかほっとしたように笑みを浮かべながらそう告げる。

そんな彼の言葉に、旬菜は思わず身を硬くしていた。



「……ん、で」

「おん? 何か言ったか?」

「何で……あんな、事」



 普段飄々とした、下手をすればアマミツキ以上にマイペースな彼女は、そんな普段の調子を完全に失ったまま声を上げる。

その言葉に、ダンクルトは僅かに視線を逸らし、頭を掻きながら苦笑交じりの声を上げていた。



「あんな事、ね。まあ確かに、あんまり褒められた行動じゃなかったかもしれないが……何でやったのか、なんてのはお前が一番よく知ってるだろ?」

「……ダン」



 地面に下ろされた旬菜は、屈み込んでダンクルトの目を覗き込む。

対する彼もまた、その視線を逸らす事なく真っ直ぐと見返していた。

まるで、その中にある何かを探すかのように。

と――そこでふと、ダンクルトが相好を崩す。



「ま、何だ……あんな程度で、呆然とすんじゃねぇぞって事だな。魔法少女は諦めないのが信条だろ?」

「む……ダンの癖に、生意気」

「ははははっ、普段はやられっ放しだからな、お返しだよ」



 軽く旬菜の頭を叩き、ダンクルトは笑む。

殆ど撫でているのと変わらぬようなその仕草を、旬菜は若干不満げな表情を浮かべつつも受け入れていた。

その様子を見届け、旬菜が正気を取り戻した様子に安堵しながら、プリスは軽く息を吐き出し――ふと、声が響いた。



『ちょっと、そこの前衛組さん達!? いい加減、こっちの方を手伝って欲しいんだけど!?』

「ぅおっ、ゆきね!?」



 大音量で流れたチャットに、ダンクルトはびくりと肩を跳ねさせる。

そしてそれとほぼ同時、その場に固まっていた面々の横を滑るように、ディオンがひび割れた楯を片手に現れた。

大剣こそ形を保っていたものの、ヒル・ジャイアントの攻撃を受け続けた楯は破損寸前まで追い込まれてしまっていたのだ。

プリスが旬菜を運んできたために、現在前衛で戦っているのはライトたちとディオン、そしてバリスのみであり、前線を支えきる事ができなかったのだ。

ヒカリが一度魔法を当てているため若干HPは減っているものの、今度は全ての攻撃が当たり切った訳ではないために五発目の槍が発動せず、減った量は以前よりも少なくなってしまっている。

少なくとも、悠長に話している余裕は無い――そう判断し、その場にいた面々は即座に立ち上がっていた。



「すぐ加勢する! 悪いな、前衛任せちまって!」

『いいから、さっさとしてよ! ほら、向かってくる!』



 若干離れた位置にいるため装備の換装が間に合わない事に舌打ちしながら、ゆきねは声で視線を促す。

怒れるヒル・ジャイアントは、全身に赤い紋様を輝かせながら、一直線にディオンの方へと向かってきている所だった。

ライト達が目の前を飛び回り、その動きを阻害しようとしているものの、若干鈍らせる程度で動きを止める事はできていない。

その攻撃目標が、完全にディオンの方へと向いてしまっているのだ。



「ヘイトはヒカリが一番稼いでるハズ……」

「何か他にも行動アルゴリズムがあるんですかね。まあ、私はまた下がってます」

「おう、サンキュー。さて、それで……あれ、止められるか?」



 接近してくる巨人の巨躯を見上げながら、ダンクルトはぼやくように呟く。

その圧倒的な質量は、ただ歩いてくるだけでも膨大な圧迫感を覚えさせるほどのものなのだ。

それが走って来るとなれば、思わず一歩下がってしまうほどの圧力になるのも無理はない。

しかし、迫る圧迫感などものともせぬように睨み据えながら、プリスはその場から一歩も動く事なくゆきねへと問いかけていた。



「正面から止められるのは、ゆきねさんのゴーレム位ですけど……一度、正面から止められますか?」

『出来なくはないけど、多分楯は壊れるよ? そうなると、流石に正面から渡り合うのは厳しくなるんだけど』

「装備換装の時間程度なら稼ぎます。私も、正面から行きますから」



 プリスの発した硬い声に、その場にいた面々は思わず息を飲む。

普段温厚な彼女らしからぬ強い感情に、誰も言葉を発する事ができなかったのだ。

プリスにとって、仲間を護る事は何よりも重要視すべき事なのである。

ゲームをプレイする中で多少慣れたとは言え、彼女は未だに味方が倒れることを善しとしない。

しかし、そうであるにもかかわらず、今回はダンクルトが倒れてしまったのだ。

プリスにとって、それは決して赦せる事ではなかった。



「この状況、長期戦にすればするほど不利です。多少無理をしてでも、畳み掛けた方がいいと思います」

『……あまりお前らしくない提案だが、その通りだろうな。恐らく、その方が最終的な被害は少ない』



 ケージの同意を得て、プリスは頷く。

戦いは既に消耗戦の様相を呈し始めている。下手に均衡が崩れれば、あっという間に押し込まれてしまうだろう。

ケージの同意を得たプリスは、すぐさま移動し、楯を構えるディオンの肩の上に乗っていた。

飛び回るライト達を鬱陶しそうに払いのけようとしているヒル・ジャイアントは、それでもそれなりの勢いでディオンへと向かってきている。

狙いを定めた巨人は、その右の拳を振りかぶり――一直線に、強大な一撃を叩き込んでいた。

ヒル・ジャイアントの一撃は巨大なゴーレムを揺るがし、罅の入っていた【タワーシールド】を打ち砕く。

ディオン本体に大きなダメージこそ入らなかったものの、今の一撃によって有効な防御手段が失われてしまった事を示していた。


 ――だが、楯が砕けるよりも僅かに速く。



「乗れ、た!」



 ディオンの肩口より跳躍していたプリスは、見事ヒル・ジャイアントの腕への着地に成功していた。

激しく揺れる腕に刃を突き刺してバランスを取り体勢を安定させたプリスは、全速力で足場とした腕を蹴り、ヒル・ジャイアントの顔面へと肉薄する。

安定しない足場である以上、一箇所に留まる事は不可能だ。

それを理解しているからこそ、プリスは一気に接近し、その刃を振るっていた。



「はああッ!」



 狙うは眼球。いかなるエネミーにとっても最大級の弱点となる場所を狙い、プリスの刃は一直線に奔る。

攻撃の直後で動きが鈍く、仮に反応できたとしても目を瞑る程度。

そして――目蓋程度の厚さを、プリスの刃が斬り裂けない筈もなかった。

横薙ぎに振るわれる体重の篭った一閃は、反射的に閉じられた目蓋ごとヒル・ジャイアントの眼球を深々と斬り裂き――そして、半ばまで斬った所でプリスは刀を放していた。



(既にこの刀も限界に近い! 壊れちゃうのはちょっと惜しいけど――)



 ――それ以上に、今はこの敵を倒さねばならない。

思い切りの良さを発揮したプリスは、刀を手放したままその場で跳躍していた。

そしてほぼ同時、痛みにもがくようなヒル・ジャイアントの絶叫が響き渡る。



「ゴ、ガッ、ガアアアアアアアアアアアアッ!?」



 傷を押さえようと反射的に伸ばされた手から逃れ、プリスは空中で予備の刀をインベントリより取り出す。

突き刺さったままの武器は、相手に対して継続ダメージを与える事が出来る。

最大の弱点に突き刺さった高威力の武器は、少ないながらも無視できる量ではないダメージをヒル・ジャイアントへと与え続けていた。

だが、まだ足りない。ヒル・ジャイアントを倒し切るためには、後一歩が足りない。

――そう、プリスが考えた、その瞬間。



「総員、総攻撃ぃッ!!」



 力強いヒカリの言葉が、号令となって周囲に響き渡っていた。





















今日の駄妹


「さあ、ここからはずっと私たちのターンですよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ