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Blade Blaze Online -太陽を抱く蒼穹-  作者: Allen
5章:王都襲撃と輝きの空
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87:接近戦











 ギルド『碧落の光』にとって、接近戦と言うものは少々勝手が異なる戦闘となる。

このギルドの接近戦担当であるダンクルトと旬菜は、常にフレンドリィファイアの危険を考慮しなければならないからだ。

上空からの爆撃、およびヘイト収集による回避盾という特殊なスタイルを確立しているライトとヒカリの戦闘は、接近戦プレイヤーが参加しづらいと言う弊害を抱えている。

事実、二人がユニーククラスを手に入れるまで、同時戦闘ではかなり気を使う状況となっていた。

しかし、上空の二人が精密な爆撃方法と、一撃でエネミーを倒しきる火力を手に入れてからは、二人も比較的自由な戦闘が可能になっていたのだ。

《エアクラフト》によって吹き飛ばされたエネミーを二人が迎撃するか、或いは二人が吹き飛ばして一箇所に集めたエネミーをヒカリがまとめて消し飛ばす。

ただしその戦法も、大型のエネミーが相手となれば話は別であった。



『――変身!』



 地に手を突き、うつ伏せに倒れる形となったヒル・ジャイアントを前に、ダンクルトと旬菜はそう宣言する。

それと共に二人は変身アイテムであるベルトとペンダントを使用し、その効果を発動させていた。

ダンクルトは全身を覆うバトルスーツと、顔を隠すバイザーを。

旬菜は学校の制服じみた、ブレザーのような衣装を。

どちらもゆきね謹製のカスタム装備であり、性能も現時点ではトップクラスのものとなっている。

共に武器はなく、徒手空拳での戦闘法。それ故に、相手の能力による武器の消耗を考えずに済むというのは、大きな利点であった。



「一応、あいつの能力で防具が損耗する可能性もあるから、耐久値には気をつけて戦ってね! 直すの大変だから!」

「分かってるって! さあ、いくぜ旬菜!」

「あいさ~」



 宣言し、地を蹴ったのはダンクルトだ。

クラス『アクセルファイター』は、素早さと攻撃力に能力を特化させた前衛クラスだ。

それ故に、トップスピードに乗った際の移動速度は、凄まじい基礎ステータスを誇るプリスに勝るとも劣らない。

ダメージ判定には攻撃のスピードも考慮されているため、とにかく速く、強力な攻撃を絶え間なく叩き込む事こそがアクセルファイターの戦い方なのだ。

変身し、まず飛び出したダンクルトは、その加速を存分に活かした飛び蹴りをヒル・ジャイアントの手甲に叩き込んでいた。

本体と違い、手甲には残り耐久力が表示されていないため、どれだけの攻撃が必要となるのかは分からない。

故にこそ、波状攻撃を叩き込む必要があった。



「《ブーストアップ:バーニング》」



 ダンクルトに続いたのは、両手に炎を宿した旬菜である。

クラス『メモリーファイター』の持つエンチャントスキルは、これまで旬菜が使用してきたものよりも効果時間、上昇率共に高い。

武器を装備せずとも、攻撃の手数と威力で補う。それが、メモリーファイターの特徴であった。

地を蹴った旬菜は、ダンクルトの後を追うようにしてヒル・ジャイアントに接近し、その拳を振るう。

炎を宿した拳は、ダンクルトの一撃ほどの威力はないものの、次々と放たれて手甲の耐久度を削っていく。

総合的に見れば、ダンクルトと旬菜の間には与ダメージ量の差はあまり存在していなかった。

そもそも、クラスごとに極端な火力の差など出ることはない。火力が高いクラスというのは、それ相応のデメリットを背負っているものなのだ。

――ただしこの場において、その通説を覆せる人間が一人存在していたが。



「お兄ちゃん、エネミーの監視、お願いね」

「応よ、妹の頼みを断る兄などいない! 行ってこい!」



 一振りの刀を手に、胴着袴姿の少女が巨人の前に飛び込んでゆく。

まるで地面と平行に飛んでいるかのような前傾姿勢、自らの体重すら移動の勢いに乗せているその走法は、スキルではなく己の技術の身で再現したものだ。

そのスピードはダンクルトに追随するほど速く、あっという間にヒル・ジャイアントとの距離を詰めていた。

少女――プリスは、ヒル・ジャイアントの拳の傍まで接近すると同時に、《闘氣解放》のスキルを発動させる。

刹那、輝く黄金のオーラが彼女の身体を包み込み、その輝きと共に刃を抜き放っていた。



「まだ、まだぁッ!」



 居合いの要領で一閃、黄金のオーラを纏う刃は、即座にその軌道を変えて横薙ぎの一閃と化す。

逆袈裟、唐竹割り、足払い、突き、斬り上げ、袈裟、薙ぎ払い――流れるように切れ目なく、プリスは凄まじい速さで刃を振るう。

プリスはブレイドアーツを使用しないため、瞬間的な火力はあまり高くない。

しかし、ひたすらに上げられた基本ステータスと、格上を相手に戦う事による《天秤の剣》の効果によって、常時火力は他のプレイヤーの比ではない。

元より、火力の高いクラスであるサムライなのだ、一定時間内に与えられるダメージの総量を考えれば、彼女は間違いなく全プレイヤー中トップとなるだろう。

しかし、今この場に限っては、同時にリスクを抱えている事に他ならなかった。



「やっぱり、どんどん耐久度が減ってくなぁ……」



 視界の端に表示させておいた装備欄を横目で確認しながら、プリスは苦い表情で呟く。

現在プリスが使用しているのは、ゆきねの製作したミスリル刀【霊銀】である。

ゆきね達がレベリングに使用したのはミスリルゴーレムをボスとしているダンジョンであり、当然ながらメンバー達はボス狩りを行っていた。

結果として、彼らは大量のミスリルを手に入れる事となり、『碧落の光』と『コンチェルト』はダンクルトのような一部を除いて、ほぼ全員がミスリル装備に身を包んでいたのだ。その内の一つが、プリスの持つ刀である。

スピリット系エネミーにもダメージを与えられ、武器としての威力も中々に高い。

しかし一つ弱点として、装備の耐久度が他の金属と比べて若干低いという点が存在するのだ。

攻撃力、防御力は十分に高いが、損耗の早い素材であると言える。

そのため、このヒル・ジャイアントは、現状のメンバーにとっては少々戦いづらい相手であると言えた。



「ゴッ、ガアアアアアアアッ!」



 直接身体に攻撃しているわけではないため、ヒル・ジャイアント自身へのダメージは少ない。

だが、それでも拘束されたままでこの巨人が黙っている訳がなかった。

地面に埋まった足を、拘束された腕を引っこ抜こうと暴れ、叫び声を上げている。

その様子を見て、仕掛け役であるケージは苦い表情を浮かべていた。



「そろそろ抜けるぞ! このデカブツ、鎖の耐久度まで下げてやがる!」



 ケージにとっての誤算は、ヒル・ジャイアントの腕を拘束した鎖がその手甲に触れてしまっていた事だ。

鎖の動きを精密に操作できる訳ではない以上、不可抗力である面が強いのだが、厄介な事態である事に変わりはない。

耐久度の高い鋼で作られた鎖であったのだが、ヒル・ジャイアントが暴れるたびに、鎖の耐久度は見る見る減少していっていた。

あと数秒で拘束から抜けられる事を察知したケージは、入れ替わり立ち代り手甲への攻撃を繰り返す三人を、すぐさま呼び戻すため声を上げる。

それに反応し、三人は跳躍しながら後ろに下がり――その直後、ヒル・ジャイアントの右腕を拘束する鎖が砕け散っていた。

右腕の自由を得たヒル・ジャイアントは、そのまま力任せに左腕の鎖を引き千切り、地面に埋まった足を引っこ抜く。

拘束から抜け出した巨人は、その怒りの視線をプリスの方へと向け――



「――《サンライトスピア》!」



 ――その背中から、光り輝く五つの槍によって貫かれていた。

拘束中は前衛メンバーの邪魔にならぬよう、詠唱しつつ待機していたのだ。

更に、高い攻撃能力を持つプリスの方へとヘイトが向く事を警戒し、彼女の方へと攻撃が向く前に再度《サンライトスピア》を発動させたのである。

意識をプリスの方へと向けていたために、ヒル・ジャイアントはヒカリの魔法に反応する事が出来ず、今回は手甲による防御すらも出来ない状態で直撃していた。

四肢と胴を貫かれ、ヒル・ジャイアントの動きが再び止まる。

そしてその隙を、プリスは決して見逃しはしなかった。



「《闘氣の霊刃》!」



 《闘氣解放》の派生スキルであり、効果を中断する代わりに攻撃の威力とリーチを短時間だけ大幅に増加するスキル。

眩い黄金の輝きを放ち、普段の倍以上の刀身を形成したプリスは、跳躍して巨人の膝を蹴り、肩を足場にし、槍に貫かれ拘束された腕を駆け抜ける。

《サンライトスピア》の持続時間はそれほど長くない。数秒程度で消え去り、ヒル・ジャイアントは自由を取り戻すだろう。

けれど、それよりも僅かに速く――プリスは、腕の先まで辿り着いていた。



「はあああああああッ!」



 裂帛の気合と共に、プリスは刃を振り下ろす。

黄金の残光と共に振りぬかれた刃は、ヒル・ジャイアントの右手を手甲ごと深々と斬り裂き――その骨甲を、完全に断ち斬っていた。

斬り裂かれ、砕けた手甲と共にプリスが着地するのとほぼ同時、《サンライトスピア》が完全に消滅する。

少々無茶な特攻ではあったが、そのリターンは確かに大きいものであった。

刀の耐久度を確認し、再び油断なく構える彼女の背中に、様子を見守っていたゆきねは思わず感嘆の吐息を零す。



「すっご……流石は百人斬りか。これでボクも、結構やりやすくなったよ」

「けど、両方を壊さない内はアレを使うつもりはないのでしょう?」

「まあねぇ。流石に、ボクの戦い方は若干相性が悪い。だから――」



 手甲の破壊された右腕を呆然と見つめているヒル・ジャイアントを見上げながら、ゆきねは笑みと共にぱちんと指を鳴らす。

それと共に出現したのは、三体のゴーレムと、一台の巨大な弓――大型弩砲バリスタであった。

急いでそれをセットし始めるゴーレムたちの様子に、アマミツキは思わず半眼を向ける。



「……いつの間にそんなモノを作ってたんですか」

「あっはっは、いやまぁ、大型のエネミー相手に使う機会があるかもと思ってね。流石に、こんなに早く出番が来るとは思ってなかったけど」



 『設置兵器』に分類されるアイテムは非常に珍しく、プレイヤーが自作できる物はかなり少ない。

その中でも、バリスタは比較的簡単に作成できるアイテムであった。

設置兵器は非常に高い威力を持つ武器であるが、扱い方が非常に難しいアイテムでもある。

まず、設置兵器はインベントリに収納する事は可能だが、取り出してから使用するまでにある程度の準備が必要となる。

また、使用可能状態にしてからは移動する事は不可能であり、定点からの攻撃が絶対条件となってしまうのだ。

アイテムとして珍しい事もあるが、それ以上に扱いが困難なアイテムであるため、使用している目撃例はほぼ皆無と言う代物であった。

ゆきねとしても使用する機会はまずないと考えており、とりあえず練習がてらに作ったアイテムであったため、所有しているのはこの一台だけである。



「人生、何があるか分からんもんだねぇ。とりあえず、使える物は使っとこうって所かな」

「相変わらず、無茶苦茶なもん作ってますね……とりあえず、あっちの腕も壊すまではそれで戦うって事ですか?」

「そうそう。あの手甲には触れたくないからねぇ。でもまぁ……ちょっと、面倒そうな感じだけどさ」



 組み立てられていくバリスタを横目に、アンズの言葉に答えながら、ゆきねはヒル・ジャイアントの巨体を見上げる。

自らの手を見つめている巨人は、足元を攻撃されても反応すらしていない。

その異様な反応は、どこか嵐の前の静けさを思わせるものだったのだ。

上空の二人も巨人の動きを警戒し、魔法を待機させながら様子見に徹している。

初見のボスを相手にする場合、慎重になりすぎるに越した事はないのだ。



「……あれ、そろそろ来るんじゃないの?」

「巨人族、ですからね。下位種ですし、出来れば持ってないで欲しかったんですが……」

「前衛、下がれ! そろそろ、向こうも仕掛けてくるぞ!」



 足に攻撃を繰り返していたプリスたちへ、ケージが半ば怒鳴り声と化した警告を飛ばす。

その言葉に、『折角のチャンスなのに』などと駄々をこねるようなメンバーは一人としていなかった。

三人は即座に後退し、ヒル・ジャイアントとの距離を空ける。

瞬間――



「グゥォオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアア――――――――ッ!!」



 怒りの篭った巨大な咆哮が、物理的な衝撃すら伴って周囲に叩きつけられていた。

思わず吹き飛ばされそうになる衝撃に耐え、アマミツキは思わず目を見開く。

最も距離が離れた後衛組でさえこれだけの衝撃を感じたのだ。それよりも近い位置にいた前衛組が受けたものは、これの比ではないだろう。

事実、上空にいたライトの《オートガード》はただその衝撃だけで粉砕され、前衛の三人も耳を押さえながらその場に動けなくなっていた。

予想以上の効果に舌打ちしながら、アマミツキは周囲の仲間へとチャットを飛ばす。



「《バーサーク》です! 所謂発狂モードで、防御ステータスと知能を落とす代わりに攻撃力を大幅に増幅させます! 注意して下さい!」

「ただでさえ面倒な相手だってのに……バリス、リカバリに入れ! 三人のスタンが解けるまで、何とか時間を稼ぐんだ!」

「了解! ようやく俺の出番って訳だ!」



 中衛にてサポート要因として控えていたバリスが、アンズの支援を一身に受けながら前衛へと飛び込んでいく。

一応はタンクとしてのビルドとなっているため、バリスの体力は非常に高い。

ある程度の時間稼ぎは出来るだろうと判断し、ケージは再び声を張り上げていた。



「次なる目標はもう片方の手甲! だが、これまでとは異なる動きで襲い掛かってくる可能性も高い! まずは観察に徹し、相手の動きを読め!」



 ヒル・ジャイアントの攻撃力は高く、僅かな油断が命取りになりかねない。

出来る限り慎重に、相手にダメージを重ねていかなければならないのだ。



「もう一度、相手を拘束しなけりゃならないだろうな……キツイ戦いだが、やるっきゃないか」



 呻くように呟き、ケージは構える。

その口元には、どこか楽しげな笑みが浮かべられていた。





















今日の駄妹


「あるとは思ってましたが、やっぱり強化ありのボスでしたか……何と面倒な」

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