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Blade Blaze Online -太陽を抱く蒼穹-  作者: Allen
5章:王都襲撃と輝きの空
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84:突撃部隊












『エネミーの名前は『ヒル・ジャイアント』。レベルは38だ』

「……巨人族エネミーですか」



 ライトから通達された情報を耳にし、アマミツキは眉根を寄せる。

力尽きて倒れ込んでいた白餡の介抱をしていた彼女は、すぐさま持っている情報をヒカリへと向けて飛ばしていた。



「巨人族エネミーは、ドラゴン、ノスフェラトゥと並んで種族自体が・・・・・強力なエネミーです。他のエネミーで考えるならば、レベルを1.2倍換算した方がいいかもしれません」

『なるほど、思った以上に強力だな。ライ、大きさはどんなもんだ?』

『10メートルには届かないが、それでも十分すぎるな。ああ、あと言い辛いんだが……二体いるぞ、ヒル・ジャイアント』

「……マジですか」



 白餡に向かってジャバジャバと状態異常回復およびMP回復のポーションをかけていたアマミツキは、その情報に対して露骨に顔を顰めていた。

ヒル・ジャイアントは巨人族の中でも最も弱いエネミーである。

身長はおおよそ5メートルから8メートルほど。ただしライトの報告から考えれば、ボス用に強化された個体である可能性が高い。

しかも、それが2体だ。もしも正面から殴り合えば、単一パーティなどあっという間に全滅する事になるだろう。

火力でいえば、例え前衛型でも装甲の薄いダンクルトは一撃で倒されかねないような相手である。

無策に突っ込むのは危険すぎた。



『迎撃するか、こちらから打って出るか』

「策としては、打って出る方が良いと思います。恐らく――」



 ライトの言葉に対して、アマミツキはそう返答する。

そしてそれとほぼ同時、彼女の言葉を遮るようにして、背後にある街の中から大きな鐘の音が響き渡っていた。

その直後、誰のものとも知れぬ声が、周囲へと放たれる。



『南側に大型の魔物の存在を確認! 繰り返します、南側に大型の魔物の存在を確認! 各員は迎撃をお願いします!』

「……このように、アナウンスが入る可能性が高いと思った訳です。この場合、協定を結んでいる大型ギルドの方々は手を出せませんが――」

『それらに所属しておらず、俺達と協定を結んでいる訳でもないその他のギルドやソロプレイヤー達は、こちらに流れてくる可能性が高いって訳か』

「一応、ここのように通常エネミーを殲滅した訳ではないでしょうから、来るまでに多少の時間は掛かるでしょうけれども……あまり悠長にはしていられませんね」

『ふむ……良し、ならば打って出る事にしよう!』



 アマミツキの言葉を受け、ヒカリは力強くそう決定する。

手を拱いていては、折角の獲物を奪われてしまうかもしれないのだ。

ここまでの努力を水の泡にする訳には行かないと、ヒカリは拡声器を用いて周囲へと声を張り上げる。



『総員に告ぐ! ボスの出現には成功したが、これを倒さぬ限り未だ勝利とは言えない! そのため、これよりボスに対しこちらから攻撃を仕掛ける!』



 今までは迎撃をメインとした作戦を展開していたが、このボスは手早く倒す必要がある。

幸い、その他のエネミーは白餡の攻撃によってほぼ全滅しているのだ。

南に向かって直進するのはそれほど難しくは無い。

それよりも問題なのは、ボスエネミーの強力さそのものである。



『偵察からの連絡では、ボスエネミーはヒル・ジャイアントが二体。どちらもレベルは38だ。非常に強力なエネミーである事は間違いないだろう。故に、突撃作戦を辞退する者がいるならばそれも構わない』



 少々姉らしくない物言いに、アマミツキは僅かに目を細める。

普段のヒカリならば、全員を扇動してしまうような強い言葉を使うはずだ。

しかし今回、彼女は辞退を促すような言動をしていた。

それは恐らく――



(白餡のため、ですか)



 現在、白餡には殆ど戦闘能力が残っていないのだ。

【ドーピングドラッグ】の副作用による状態異常は、例え治癒のポーションを使っても効果を軽減する事しかできない。

更に龍の召喚も行えず、上級職として手に入れたスキルは全て使えない状況だ。

しかし白餡は流されやすい性格であり、例えこの状況であっても、ヒカリの強い言葉があれば付いて行ってしまった事だろう。

――付いて行く事すら辛い状況であるにも関わらず。



(まあ、付いて来られても護衛に人員を割かなければならない分、どうした所で足手まといですしね。自分から辞退できる環境を作ったという事ですか)



 軽く肩を竦め、アマミツキはそう判断する。

一応、他の面々にしてもそうだろう。もしもタンクでありながら一撃で倒されてしまうようなプレイヤーや、魔法攻撃ですらダメージを通せないようなプレイヤーがいれば、付いて来た所で何の役にも立ちはしない。

ヒル・ジャイアント――否、巨人族は、物理に対しては高い耐性を持っているが、魔法に関しても決して耐性が低いという訳ではないのだ。

対物理ほどの高い耐性こそ持ってはいないが、魔法攻撃が特に効きやすいと言う事もできない。

更に基本的には再生能力を持っており、並大抵の攻撃では倒せないのだ。



(……『碧落の光』と『コンチェルト』が協力し、全力で戦って、ようやく一体と互角。そんな所ですかね)



 小さな嘆息と共に、アマミツキはそう判断する。

この連合の中で最も高い実力を持つ二つのギルドが協力し、ようやく互角。

数の少ないギルドであるため、それを簡単と見るか難しいと見るかは判断の分かれる所ではあったが。



(幸い、ヒル・ジャイアントは巨人族の中でも知能は低い方……単純な戦法でも、何とかはなりますか)



 頷き、アマミツキは白餡を立ち上がらせる。

ほぼ脱力している彼女を運ぶのは少々骨が折れたが、陣の戦闘であるこの場に置いていても邪魔なだけだ。



「白餡、どうしますか? これからボスの所に向かう訳ですが」

「うぅ……悔しいけど、休んでます。今の私じゃ、やれる事はないですし……それに、私が抜ければちょうど6人ですから」

「……ええ、分かりました。MVPは貴方ですから、ゆっくり休んで下さい、白餡」



 白餡の一撃が無ければ、恐らくボスを南側に出現させる事は出来なかった。

この先、例えどのようにボスを倒したとしても、この功績が揺らぐ事は無いだろう。

そんなアマミツキの純粋な賞賛に、白餡は僅かながらに目を見開いてから、薄っすらと嬉しそうな笑みを浮かべていた。

そして、隊列から離れて行く彼女達に続いて、幾人かのプレイヤーが離脱していく。

彼らは総じて、レベルが25に満たないプレイヤーばかりであった。

BBOでは、レベルが20違ってしまえばまずダメージは通らない。ヒル・ジャイアントのレベルは38であるが、1.2倍換算すればおおよそレベル46となる。

ここまで差がある場合、例え弱点を突いたとしてもダメージは与えられないだろう。

尤も、経験値目当てに付いて来る25以下のプレイヤーも存在していたが。



『よし、では前衛部隊、前へ! 中央にいるプリスを先頭に魚鱗の陣を組む! 遠距離攻撃部隊は前衛部隊の後ろに入り込め!』



 一応ながら、迎撃以外の陣形もあらかじめ通達されていたため、陣形の変更はそれほどもたつく様子は無い。

白餡の護衛をしていたために、ちょうど全員の先頭に立っていたプリスが真っ直ぐと直進し始め、その後に続くようにしながら刃の切っ先のような尖った陣形を作り上げる。

そして先に進む彼らに続くようにしながら、遠距離攻撃部隊がその後ろに入り込む。

これは、前へ進軍する事を目的とした陣形だ。前衛部隊が敵部隊を喰い破って斬り開き、彼らに護られる形になる遠距離攻撃部隊がその援護を行う。

側面や背面からの攻撃には弱いものの、このイベントの性質上、エネミーは前方からしか現れない。

そもそも、大半のエネミーは白餡の一撃によって倒されていた為、あまり気にせずに進軍する事が出来た。

そうして先へと進んで行く彼らの背中を見送りながら、ヒカリは空を見上げる。



「……さて、ライはまだかな」

「もうじき帰ってくると思いますよ?」

「お、アマミツキ。白餡は運び終わったか」

「ええ。ついでに、私も一緒に兄さんに運んでもらおうかと」

「にはは! そーだな、今日はお前も頑張ったし、ライも許してくれるだろう」



 未だ門は閉じているため、とりあえず白餡を背負って門の上まで上ってきたアマミツキは、彼女を適当な場所に寝かせつつ笑みを浮かべる。

偵察に出ていたライトは、ボスの姿を確認してからすぐにフェルゲイトへと帰還を始めていた。

ユニーククラスを得てからのライトの飛行速度は非常に速く、全速力で帰還してきているのであれば、それほど時間をかけずに辿り着くだろう。



「流石に、指揮官が遅れっぱなしって訳には行かないからなぁ。ま、人数が多いし、それほど速いスピードで進める訳じゃないけど」

「兄さんが来ればすぐに追いつけるでしょう。個人的には、その他のギルドが追いつかないかどうかが心配ですが……今のところ、姿は見えないようですね」

「うちは一気にエネミーを殲滅したからな。仮にエネミーの供給が打ち止めになっていたとしても、全て倒しきるまでには多少の時間がかかるだろうさ」

「後は、その人たちが追いついてくる前にボスを倒せるかどうかって所ですね……」



 これほどの大人数で挑むのだから、それほど時間は掛からないかもしれないが――格上の巨人族となれば、そう簡単には行かないだろう。

少なくとも、数で圧倒していたからと言って油断できる相手ではないと、二人はそう判断していた。



「……それで、どうするつもりですか、姉さん?」

「二体同時に相手にする必要はない。ギルドで分けて、各個撃破だな」

「ふむ……私としては、『碧落の光』と『コンチェルト』で当たろうと思うのですが」

「そうだな。恐らく、正面からヒル・ジャイアントを抑えられるのはその面子だけだ。初めて戦う相手だし、その陣容で倒せるのか、はたまた時間稼ぎにしかならないのかは分からないが……それでも、残った他の面々でもう一体に当たれば、そっちは普通に倒せるだろう」



 片方を倒せたのならば話は簡単だ。

後は、残るもう一体に集中し、数の力で押し切ってしまえばいい。

決して油断できる相手ではないが、悲観するほどに不利な状況という訳でもないのだ。

ヒカリとしては、白餡が離脱している事が若干痛手ではあったものの、2つのギルドでも十分に対処可能であると判断している。



「正直に戦えば戦うだけ馬鹿を見る。ま、いくらでもやりようはあるさ……っと、ようやく来たかな」

「おー、流石姉さん、発見が早いですね」



 蒼く輝く風を纏い、一人の少年が飛来する。

門の上で待っていた二人の髪をはためかせながら、ライトは小さく苦笑を零していた。



「まさか、白餡に奥の手まで使わせるとはな。流石に、あれが飛んできたのは驚いたぞ」

「にはは、切るタイミングとしては良かったんじゃないか?」

「確かにな。ま、中々に壮観な光景だったさ。さて、行くんだろ?」



 笑みつつ、ライトは手を差し伸べる。

それに対して同じ笑みを浮かべたヒカリは、その手を強く引いてライトに近付くと、勢い良く地面を蹴り、彼の背中へと飛び乗っていた。

定位置に納まり、ヒカリが見せるのは不敵な表情だ。



「さて、軍団を率いる戦いはここまでだ。ここからは、いつも通りのあたしたちで行くぞ!」

「まだ一応仕事はあるんじゃないのか……? ま、俺はお前の指示に従うがな。それで、アマミツキも乗るのか?」

「はい、プリンセスホールドでお願いします」

「……久々に聞いたな、そのフレーズ」



 軽く嘆息を零しつつ、ライトはアマミツキの身体を抱き上げる。

ユニーククラスで得た飛行能力は、二人を抱えながらでも十分に飛べるほどの安定性を有していた。

ふわりと浮き上がり、進んでいく隊を見つめ、そちらへと向けて飛び始める。



「ヒル・ジャイアントもこちらへ向けて進んできている。あまり悠長にしてる時間は無いぞ」

「それなら、余計に急がないとな。あたし達は、あたしたちの仕事をしないと」



 正面から攻撃を受け止めるのが厳しい相手。

となれば、自分達のような回避盾が役に立てる。言外にそう告げて、ヒカリはライトの肩を叩いていた。

その手の暖かさを感じ、ライトはアマミツキを抱え込みながら力強く笑う。



「精々、やってやるとしようぜ。ユニーククラスの力、盛大に見せてやらないとな」



 そう告げて、ライトは仲間達を追うように飛行を開始する。

BBO初の大規模イベントは、今ここにクライマックスを迎えようとしていた。





















今日の駄妹


「うふふふふふふ、兄さんのプリンセスホールド、しかもこんなに近いです……永久保存確定ですよ」

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