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Blade Blaze Online -太陽を抱く蒼穹-  作者: Allen
5章:王都襲撃と輝きの空
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83:龍の咆哮











 戦場を睨み、アマミツキは思考する。

五つに分割した思考の内の三つを情報伝達に使い、残る二つを利用して、アマミツキはひたすらに現状の分析を行っていた。

考える事はただ一つ。どうすれば、このイベントを制する事が出来るか、という題目だ。



「前衛部隊、交代してください。《プロヴォック》のリキャストタイムは随時報告、ずれの無いようにお願いします。それから遠距離攻撃部隊、先ほどのようにMPが回復する訳ではないので、調子に乗って撃たないように注意を促してください」

(イベントの終了条件はボスの討伐。ならば、私達がボスを討伐する事が出来れば、紛れも無く勝利したと言う事が出来るでしょう)

(エネミーの能力上昇の幅はそれほど大きくはない。それならば、白餡のアレの方がより効率よく出来るでしょうね。となると、そろそろ準備をさせた方がいいかもしれません)



 口に出す言葉と、二つの思考は全く異なるもの。

もしもアマミツキの心を読む事が出来る者がいたならば、彼女の姿はとても奇妙なものに見えていたであろう。

表情は一切変えず、直立不動で身じろぎすらしないまま、その眼球だけが忙しなく動き回っている。

目に入るもの全てを咀嚼し、己の中へと取り込んでいくかのように。



「次の増援までにはもうしばらく掛かります。ええ、それまでは同じように……はい、それで構いません」

(ならば、ボスの出現条件が何になるのか。時間経過? 一定数のエネミーの殲滅? それに、出現位置が何処になるのかと言う問題もありますね)

(姉さんの魔法攻撃は……今は必要ないですね。そもそも、白餡の攻撃とは合わせ辛いですし)



 周囲の観察、情報の判断、情報の伝達、そして二つの思考。

恐るべき速さで様々な情報を処理しながら、アマミツキはこのイベントの勝利方法を模索する。

求めているものは、あくまでも勝利なのだ。最大のギルドたる『シルバーレギオン』に勝利するためには、ただ戦うだけでは足りない。

だからこそ、戦闘方法を模索したのだ。陣を敷き、作戦を立て、利益を上げながらも効率よく敵を倒す。

しかし、まだ足りない。手を伸ばせば届く範囲まで近づく事が出来たとはいえ、まだ決定だとは言い切れない。

その先を模索する事こそが、アマミツキの仕事であった。

情報処理が一段落し、口を噤んで思考を増やしながら、アマミツキは僅かに視線を細める。



(出現位置に関しては、恐らく条件は限られる。あらかじめ一箇所に固められているという事はないでしょう。恐らく、エネミーたちの視点で最も手強かった場所に来るはず)

(白餡に奥の手を使わせたとして、その後にボス戦が発生した場合はどうしましょうか。あれ、半分ネタの領域ですし)

(兄さんは小回りが利きますけど、ボス戦ではあまり意味が無いですかね)



 口に出せば一つでも、思考ならば複数並べて同時に行う事ができる。

音声に出力されていれば不気味極まりないであろうが、生憎と彼女の内心を読める者はこの場にはいなかった。

戦況は常に動いている。ダンクルトが引き連れてきたエネミーの殲滅も完了し、現在はライトが再び遠征に出ている段階である。

だが、今回の遠征が意味を成すかどうかは半々だと、アマミツキはそう考えていた。



(時間経過にしろ討伐数にしろ、各門のうちトップの討伐数に達していれば、ボスは出現するはず)

(一度撃てば、白餡はもう戦力にならない。けれど、それだけの価値はある)

(――この戦場はおあつらえ向きですね。これはあまり、作為の気配は感じませんが)



 イベントが開始してから、そろそろ30分になろうとしている。一つの区切りがあるとすれば、このタイミングであろう。

ならば、ここで一手を打つ。このまま戦っていても『シルバーレギオン』には勝てないのだ。それならば、ある程度の賭けは必要となるだろう。

――分の良い賭けであるとは言えない。だが、それも悪くないと、アマミツキは僅かに口元を歪めてヒカリへのチャットを開いていた。



「姉さん。一つ、作戦を提案します」

『ん、聞こう、アマミツキ』

「白餡を、ソルベを使います。これ以降は戦力にならなくなってしまいますが、それだけの価値はあるかと」

『……なるほど、あれを使う訳か。タイミング的にも、確かにベストかもな……よし、許可しよう。通達はこちらでやる、そっちは白餡に準備を進めさせてくれ』

「了解です」



 主体性の無い性格の白餡は、細かな指示がなければ動けない。

それだけに扱いやすいのだが、と胸中でにやりと笑い、アマミツキは白餡へのチャットを開く。

彼女は現在遠距離攻撃部隊の一員として活動しているが、今はちょうど後ろに下がった所であった。



「白餡、聞こえますか」

『あ、はい。何ですか、アマミツキ?』

「前衛攻撃部隊の方に向かって下さい。プリスさんたちと合流、そのまま最前線で待機」

『……あの、アマミツキ? もしかしてそれって――』

「ええ、あれを使います。戦況的に、このタイミングがベストと判断しました」

『え、いやでも、あれって流石に目立ち過ぎちゃうと言うか……ああうん、分かってる、ごめんなさい。元々それが目的だものね』

「物分りが良くて助かります。この戦場の形態からも分かりますが、大火力の攻撃を放つのであれば白餡の攻撃がベストです……やってくれますね?」

『……うん、やります。やらせて下さい。ヒカリさんがあそこまで考えて用意してくれた戦場、無駄にする訳にはいきませんし』



 このイベントに参加したのは、珍しいクラスを手に入れた『碧落の光』メンバーを衆目に晒す事も目的の一つである。

他でもないヒカリの口から告げられたその言葉を、白餡は決して忘れてはいなかった。

自分一人では抱えきれず潰れてしまっていたかもしれないそれを、ヒカリは全て受け止めてくれたのだ。

そんな彼女の作戦を前にしてまで、甘えた言葉を口に出す事は、白餡には出来なかった。



「では作戦通り、前線部隊に合流。その後、最前線に出たら準備を開始して下さい。そろそろ、姉さんから全軍に通達が行くはず――」

『――全軍に通達! 戦闘行動を継続しつつ傾注せよ!』

「っと、来たみたいですね」



 門の上、若干離れた場所に立つヒカリが、拡声器のアイテムを口元に当てて大声を上げている。

これから行う作戦は、味方に何の通達も無く行う訳にはいかない。

その意味が分からなければ、味方にとっては損をしたように感じてしまう恐れがあるからだ。



『イベント開始から30分が経とうとしている。このイベントの終了条件はボスの討伐だが、その出現条件は明らかになっていない。そしてこのままでは、『シルバーレギオン』の所にボスが出現する可能性は高いだろう』



 周囲がざわつき始める。そのボスを倒さねば、『シルバーレギオン』に勝利したとはいえないのだ。

だが逆に言えば、そのボスをこの陣まで引き寄せて倒す事が出来れば、明確に『シルバーレギオン』に勝利したと宣言できるだろう。

追い詰められてはいるが、逆にチャンスでもあるのだ。



『故に、一手を打つ。30分になる前に、ここから大量の敵を殲滅する。そのため、一時的に稼ぎが出来なくなってしまう事は了承して貰いたい。また、方法については実際に見た方が早いだろう。遠距離攻撃部隊は火力を上昇させ、エネミーを近づけさせるな。それでも抜けてきたものがいれば前衛部隊が相手にしろ。以上だ』



 そんなヒカリの言葉を聞きながら、アマミツキはそれぞれの隊長から届く報告へと耳を傾ける。

若干の不満があるプレイヤーも存在する様子であったが、それでもここまで戦場の指揮を行ってきたヒカリに対する信頼もあるのだろう。

おおよそ、問題があるほどの負の反響は存在しなかった。

その事に満足し、アマミツキは門の上からロープを伝って地上へと降りる。

他でもない、白餡のサポートをするためだ。

そうしてアマミツキが向かった先では――アマミツキからの指示を受けた白餡が、既にその場で準備を開始していた。



「――《召喚:ソルベ》」

『クォオウ!』



 白餡は《召喚魔法》のスキルから、契約した召喚龍である氷古龍ソルベを召喚する。

クラス『ドラゴンサモナー』が契約できる龍は一種だけであり、契約した龍の召喚コストは非常に少なくなる。

故にこそこのクラスを得てからは、白餡も比較的多くソルベを利用するようになっていた。

――つまり、『ドラゴンサモナー』のスキルの中でも、契約龍を強化する類のスキルを取得していたのである。



「良し、次にこれ……うう、何でわざわざ味が不味いんだろう」



 ソルベを地面に下ろし、白餡はインベントリから一つのアイテムを取り出す。

それは、『ポーションマイスター』のクラスを得たアマミツキが新たに作り出した薬品系アイテム。

その名も、【ドーピングドラッグ:INT】であった。

このアイテムは、その名の通り基本ステータスの一つをブーストするという効果を持っている。

効果はおよそ10分間。その間は、特定のステータスが2倍になるという非常に強力なアイテムだ。

だが――その名称のいかがわしさからも想像できるように、このアイテムには副作用がある。

効果時間を過ぎた場合、そのステータスが本来の5分の1まで減少する上に、様々な状態異常を発生させてしまうのだ。

おまけに味も不味く、白餡としてもあまり使いたくないアイテムである。

だが、この場では躊躇うわけには行かないと、覚悟を決めてそれを飲み下していた。



「うぇ……っと、急がないと。次、《ドラゴニックサークル》!」



 次に白餡が発動させたのは、『ドラゴンサモナー』スキルの消費軽減を行う陣地作成魔法だった。

その宣言と共に、白餡とソルベの足元には翼を広げる龍の紋章が蒼く輝き始め、ゆっくりと周囲に広がり始める。

ドラゴンサモナーのスキルは、消費が激しいものが多い。そのため、多少の軽減でも馬鹿には出来なかった。

と――そこに、到着したアマミツキが声をかける。



「おお、ちょうど良さそうなタイミングですね」

「はい。アマミツキの補助がないと、ちょっと難しいですしね」

「ええそうでしょうとも。はい、周りで興味深そうに見てる人たち、今は自分の仕事をしてください。すぐに派手なのが見れますから」



 白餡の護衛をしている者たちへと声をかけつつ、アマミツキはいくつものポーションを取り出し始める。

それらは全て、拡散効果のあるMPポーションだった。

これから白餡が行使するスキルは、大量のMPを消費し続ける事になる。

その状態の中でも、白餡のMPを常に上限近くで維持し続ける事が、アマミツキの仕事であった。



「準備はいいですよ。それでは、始めて下さい」

「ん、ではまず、【氷精の永氷杖】!」



 言って、白餡がインベントリから取り出したのは、蒼白く輝く長杖だった。

先端には蒼白く輝く宝珠が埋め込まれ、常に冷気を撒き散らすそれは、非常にランクの高い装備である事が伺えるアイテムであった。

その見た目に違わず、これは現状確認できる中でも最上位の装備である。

雪山のダンジョンで倒したアイス・エレメンタルのレアドロップ、【氷精霊の核結晶】をメインとして、その他現状ではレアドロップと呼べるアイテムばかりを使用し、ゆきねが創り上げた最高傑作。

その性能は、現状の白餡のステータスでは決して装備できないと言う本末転倒な結果に終わっていた――が、装備する方法が無い訳ではない。

そう、それこそが、【ドーピングドラッグ:INT】を使用した理由だったのである。

このアイテムが効果を及ぼしている10分間だけならば、白餡は【氷精王の永氷杖】を装備する事が可能だったのだ。



「そして、行きます! 《オーバード・ドラグノール》!」

『クゥ――――ォォォオオオオオオッ!!』



 第二の準備――スキル《オーバード・ドラグノール》。

一言で言うならば、それは『召喚龍に全力を出させるスキル』だ。

そのスキルを発動した場合、短時間ながら召喚龍は大幅に強化される。

さらに、通常召喚では小型化されている上位クラスの龍は、本来の姿を取り戻す事が出来るのだ。

ソルベは未だ子供の龍であったが――その姿は、体長5メートルほどまで急激に巨大化していた。

発動中はずっとMPを消費し続け、発動時間が過ぎるかMPが空になるまでこの状態は維持される。

当然、今の白餡にはきついMP消費ではあったが、それをカバーするのがアマミツキの仕事であった。



「はい、ポーションポーション。最後の仕上げですよ、やっちゃいなさい」

「あ、でもまだ前の人たちの退避が――」

『準備は完了した! 戦闘中の前衛部隊は、速やかに後方へ退避しろ!』

「……だそうです」



 響き渡ったヒカリの言葉に、アマミツキと白餡は軽く苦笑する。

ともあれ、これで準備は整った。後は、最後のスキルを発動させるだけである。

白餡は一度深呼吸を行い――最後の一撃を、宣言した。



「行くよ、ソルベ――《オーバード・ドラゴンブレス》」



 ――それは、『ドラゴンサモナー』にとって最終奥義とも呼べるスキル。

習得に必要なSPは10点、大龍グレーター以上の属性龍との契約が必須で、更に同属性ランク7以上の杖を装備していなければ発動できない。

リキャストタイムは24時間、さらに発動後1時間は契約龍の召喚が行えなくなる、紛れも無い最後の手段。

その宣言を受け――ソルベは、アイシクル・エンシェントドラゴンとしての真の姿を解放していた。



『グォォォォオオオオオオッ!!』



 親であった氷古龍には及ばないものの、その半分は優に超える巨体。

氷の棘が突き出た尻尾や、振るうだけで家を吹き飛ばしそうな程の巨大な翼。

蒼白い体毛に包まれた、狼のような巨大な龍。

全力を解放したソルベは、白餡の持つMPのほぼ全てを吸収し、その口を大きく開く。

天を仰ぐように口を上に向け、その中に、眩く輝く蒼白い光球を作り上げる。

そして、その輝きは――



「撃ち抜いて、一直線に! エネミーたちを全て、凍てつかせて!」

『――――――――――ッ!!』



 ――白餡の宣言と共に、容赦なく放たれていた。

閃光の如く駆け抜ける、蒼白い光の奔流。吹き飛びそうになる風圧は凍えるほどに冷たく、周囲は霜が降りて白く染まっていた。

けれど、その中で音はない。まるで吸収されてしまったかのように、音だけが響かず、ただ眩い光が周囲のプレイヤー達の視界を塞いでいた。

そして、光が収まって――



「……流石、文句なしの威力です」



 何処までも続いていたはずのエネミーたちの行列は、全てが白く凍りつき、地面から突き出した氷の柱と同化していた。

動くものは一つも無く、味方すら一言も声を発せられない。

ソルベの姿は消え、力尽きた白餡が地面に座り込んでも、それは変わらなかった。



『――来たぞ、ヒカリ、アマミツキ。恐らく、あれがボスだ』



 ――ただ一つ、遠征に出ていたライトの報告を除いては。





















今日の駄妹


「撃破数トップは白餡ですかね。流石私、いいスキル選択です」

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