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Blade Blaze Online -太陽を抱く蒼穹-  作者: Allen
5章:王都襲撃と輝きの空
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72:調印











 BBOには、契約書と呼ばれるアイテムが存在する。

正確に言えば、そういったものを作成して貰える施設が存在するのだ。

あまり有名と言うわけでもなく、普通にゲームをプレイしている以上あまり活用するタイミングの無い施設であるが、ギルド間ではたまに利用される場所であった。

例えば、共同でイベントに挑む際、あらかじめアイテムの配分を決めておくような約束事。

中の良い相手であれば口約束で済むかもしれないが、あまり馴染みのない相手と協力する際に、揉め事を防ぐ為には有用なシステムなのだ。

そしてそんな施設の中、契約内容を決める為に利用される会議室のような場所に、何人かの人影があった。



「やりそうだとは思っていたけど、まさか本当に連合を立ち上げてしまうとは……凄いのね、ヒカリさん」

「にはは、大規模ギルドを運営している貴方達ほどじゃないですよ」



 半ば呆れすら混じった感心を吐露しながら、《A.O.》のギルドマスターである瑪瑙が小さく微笑む。

そんな彼女に対して屈託無く笑いながら、瞳の奥で相手の様子を観察しつつ、ヒカリは謙遜の言葉を返していた。

ヒカリの言葉に嘘は無い。組織の運営の難しさを知っているが故に、瑪瑙たちの事を素直に感心していたのだ。

しかし、だからといって感心してばかりではいられない。

ヒカリにとって、この場は既に戦場なのだから――相手が理解しているか否かに関わらず。



「しかしよぉ、ここまで大仰な事をする必要があんのかよ?」

「当然だ。我々の活動規模は非常に大きい……彼女・・の集めた連合も、既にお前達の連合に届きかねないほどに肥大化してきている。それほどの規模では、口約束で済ませる訳には行かないだろう」



 愚痴るレオポルドに対し、クライストは軽く嘆息しながらそう声を上げる。

そしてそんなクライストの言葉に、ヒカリは内心で苦笑を浮かべていた。

彼は既に、ヒカリの事をただの子供であるとは見ていない。それどころか、対等な扱いで対応すべきであると判断しているようだったのだ。

それを光栄だと思う反面、余計に厄介になったと感じ、ヒカリは軽く肩を竦める。

とはいえ、それも最初から想定していた状況の一部。笑みを絶やす事は無く、ヒカリは改めて声を上げた。



「人数が多い分、揉め事を起こす人間も多くなる。だからこそ、あらかじめ領分を決めておかなければならない……ま、そんなガチガチに固めるつもりはないので、安心して下さい」



 ――告げた言葉に視線を細めたのは、やはりクライストであった。

ここにいるメンバーの中で、唯一副官を連れて来ていない彼は、両肘を机に突きつつ組んだ手で口元を隠しながら、じっとヒカリの瞳を見つめている。

真意を見極めようとするその視線にやりづらさを感じながら、しかしそれを表情に出す事はなく、ヒカリは続ける。



「別に、共同戦線で戦おうとしている訳ではないのだから、戦闘における細かな役職の取り決めなどは必要ない。要するに、何処までが自分達の領分であるかを決めればいい訳です」

「つっても、それは担当する門とやらじゃねぇのか?」

「ええ、その通り。けど、何処から何処までが明確に担当領域であるという取り決めがあるわけじゃありません。だから、そこの所を明確化しておこうという話です」



 言いつつ、ヒカリは背後にいるアマミツキへと合図をする。

ライトに代わり、ヒカリの副官としてこの場に同席しているアマミツキは、取り出したメモを各ギルドマスターへと配布していた。

彼らがそれに目を通し始めた事を確認すると、アマミツキはその読み上げを開始する。



「一つ。ギルド『シルバーレギオン』(以下甲)、ギルド『ビーストキング』および『A.O』連合(以下乙)、中小ギルド連合(以下丙)は、リオグラス王都フェルゲイトの東西南北の門の内一つをそれぞれが担当する。これは問題ありませんね?」

「場所の取り決めはどうするのかしら?」

「それは契約の前に行います。何処を取っても大して変わらないはずですからね」

「何故そう言い切れる?」

「一箇所や二箇所に固まって攻めてきた場合、どう足掻いても混戦になりますからね。当然、上手く戦えずに運営に対するクレームが発生する事も考えられます。その辺りのリスクは運営も避けるでしょう」



 無表情にそう言い放つアマミツキであるが、実際の所、その言葉に具体的な根拠がある訳ではない。

しかも正確に言うならば、自分達の場合は何処を選んでも変わらない、と言う事になる。

《賢者》常世思兼や、《霊王》菊理――彼女達が、行動をし始めたヒカリやライトを放置するはずがないとアマミツキは考えていたのだ。

尤も、それは《タカアマハラ》の者達の性質や行動を想像した上でのメタ視点的なものであるため、他のギルドマスターたちに想像できるはずも無かったが。



「質問が無ければ続けます。二つ。甲、乙、丙は、自陣とした門以外の門の付近ではエネミーの討伐を禁止する」

「討伐、か。攻撃を当てる程度ならいいってか?」

「偶然の流れ弾まで考えると難しいので。まあ、距離も離れてるのでそんな事は無いでしょうけど、一応保険です」



 レオポルドの疑問にヒカリはそう答え、軽く笑みを浮かべる。

王都はかなり大きく、門と門の間はそれなりに距離が離れている。

その為、偶然攻撃してしまうような事はまずないだろうが、それでも確実であるとは言い切れない。

戦い方次第では、門を大きく離れてしまう事もありえるのだ。

そういった場合のための条件に、レオポルドと瑪瑙は納得した様子で頷く。

そしてクライストは――沈黙を保ち、口を挟む事はなかった。



「三つ。甲、乙、丙は、自陣とする門に向かってくるエネミーを担当討伐対象し、自陣内部で戦闘を行う事とする」

「つまり、護っている門へと向かってくるエネミーを殲滅しろと言う事か」

「その通りです。二つ目の条件と加えて、このエネミーたちが各ギルドの担当となります」



 契約書には図が添付されており、何処までが自陣になるかを示している。

この場合、王都フェルゲイトを東西南北で×の字に四分割し、その分割した線の延長線上のある程度の距離までを自陣としていた。



「要するに、自分たちの護る門へと向かってくるエネミーは、他のギルドに邪魔される事なく討伐する事が出来るって事ね」

「あたし達がお互いに邪魔する事はない、って事ですね。流石に、連合に所属していないギルドに関しては関知しません」

「ま、そりゃそうだわな。ま、問題はねぇだろ」



 自分達の副官と頷き合いながら、レオポルドと瑪瑙はその条件に了承する。

この条件ならば、他のギルドと混戦状態に陥ることも無く、向かってくるエネミーの群れと戦う事が出来る。

取り決めが無い状態よりも、安心して戦う事が出来るだろう。

そして――その様子を見て、ヒカリは胸中で会心の笑みを浮かべていた。

表情を変える事も無く、ひっそりと。



(唯一の懸念は……この男も気付いているって事か。ま、それも予想してたけどな)



 ヒカリはちらりとクライストの顔へと視線を向けて、そう内心で呟く。

彼は、その視線に一瞬だけ視線を返しながら、瞳の内に理解の色を示していた。

ヒカリが企んでいる事に関し、彼は気付きながらも指摘してこなかったのだ。

彼がヒカリの魂胆を読んだのならば、やる事は簡単に予想が出来る。



(あたしたちと同じく、この状況を利用するつもりか……気づかない方が個人的に嬉しかったのは確かだが、悪くはない)



 クライストが何処までヒカリたちの優位性を読みきっているのかは、ヒカリには判断できなかった。

しかし、彼がここでこの条件に言及しなかった以上、ヒカリの目標はほぼ大半が達成されたと言っても過言ではない。

後は本番、何処まで思ったとおりの戦場を作り上げることが出来るかどうか。

故に、ヒカリは改めて気を引き締め直しながら、アマミツキに続きを促していた。



「四つ。二の禁止事項に抵触した場合、各勢力は、200万リールを他の二勢力に支払う」

「これに関しちゃ、要相談と言った所ですね。あたしたちには重い金額でも、貴方がたにとっては軽いものかもしれない」

「おいおい、勘弁してくれよ。金はあくまでギルドメンバーの個人資産だ、ギルド共有資金はそこまで多いもんじゃねぇ」

「私の所もそういった感じね。イベントに際して多少の徴収は納得して貰えたけど、それを払うにはメンバーからお金を集めないといけないわ」

「……我々にとっては不可能な額ではない。だが、私の一存だけで動かせる額ではないのも確かだ。罰則としては十分ではないか? だが……これに関しては、少々問題がある」



 言って、クライストはじろりとヒカリを睨み据える。

その言葉が来る事は分かっていたため、ヒカリもまた笑顔でその視線を受け止めていた。



「そちらと違い、あたしたちは所属ギルドがバラバラだ……つまり、外からそのプレイヤーの所属ギルドを確認しても、あたし達が協定に反しているかどうかが判別できないという事ですね」

「そうだな。私は生憎と、お前と言う人間の人となりを知らん。上辺だけの言葉は信じんぞ」

「ええ、勿論。なので、うちの連合に参加したギルド、およびプレイヤーの名簿は、メンバーが確定し次第貴方がたに提出するつもりです。また、契約違反判定の更新をイベント開始直前に行うつもりですので、そちらも確認してもらって構いません」



 中小ギルド連合は、その性質上、外見からでは所属メンバーであるかどうかが分かりづらい。

また、この場で交わせる契約では、ギルド全体をその条件で縛る事も可能なのだが、漏れがある可能性も否定はできないのだ。

今尚所属ギルドが増え続けている連合では、今この場で登録したとしても、イベント開始時には更に人数が増えてしまっている可能性も高い。

その為、イベント直前での登録更新が必要となるのだ。



「ま、こちらが虚偽の記載をした場合を指摘されてはどうしようもないですが……正直な所、あたしはそこまでする事へのメリットを感じられませんね」

「ふん……成程な、いいだろう。私も、その条件で構わない」



 虚偽の記載をしてまで、他のギルドを動かして妨害行為に及ぶ事、それによって得られる利益、そして発覚した際に発生するであろうデメリット。

それらを比較してみれば、あまり旨みの無い行為である事は瞭然である。

それが分かっているからこそ、クライストもそれ以上の指摘をする事は無かった。



「とりあえず、契約の草案としては以上になります。何か、追加するべき事項などはありますか?」



 淡々と、変わらぬ表情でアマミツキは周囲を見渡す。

実際の所、契約書としては穴だらけであると言えるだろう。

ガチガチに固めてしまっては逆に動きづらくなる事も事実であるのだが、突き詰められる要素はまだある。

しかし、それでも反対意見が上がるような事はなかった――ヒカリが読んでいた通りに。


 レオポルドは戦闘の事ばかりに意識を集中させてしまっている。副官は多少冷静であったが、それでも条件を追加できるほどの切れ者という訳ではなかった。

 瑪瑙は単純ではないが、女子供に甘い性質を持っている。女性プレイヤーや子供への対応が好きな為に、幼い外見のヒカリの事を子供と侮っていたのだ。尤も、それを誘発するために、ヒカリはアマミツキのみを連れてきていたのだが。

 クライストは切れ者であるが、その為にある方向性においては非常に読みやすい。彼は、己のギルドの利益を優先するのだ。現状の場合、この条件を崩さない方が、ギルドにとっての利益となりやすい。その為、彼はこれ以上口を挟む事はなかった。



(さて、後は……最後の関門、か)



 残る決定事項はただ一つ。

担当する門の位置のみだ。これに関して、望む位置を確実に手に入れる為には――



「さて、後は担当の場所を決める訳ですが……一つ、お願いしても構わないかな」

「おう、何だ?」

「あたしたちの担当は、『シルバーレギオン』の反対側にして貰いたい。中小規模なりに、意識しすぎている連中が多いみたいなもので……隣だと、ちょっと緊張が勝りそうなんですよ」

「なるほど……では、我々と大規模ギルド連合で場所を決めると言う形で構わないかな?」

「ええ、それで問題ありません」



 ヒカリが付けた条件に、クライストはすぐさま己が利益を求めて条件を付け足す。

そんな彼の貪欲な姿勢に内心で苦笑を零しながら、ヒカリはその言葉に頷いていた。

位置に関しては、何処でも問題はないと判断していたのだ。



「では、我々は北を担当したい。問題は無いか?」

「応よ。俺たちは東にしとくとするか」

「あ、ちょっと……はぁ、まあそれでも構わないけど」

「よし、それなら、あたしたちは南の担当になる訳だ。それじゃあ、この条件で正式に契約書を作成するとしましょう」



 頷き、ヒカリは立ち上がる。

正式に契約を交わすには、設定した条件で契約書を作成し、サインしなくてはならない。

その処理を行うカウンターへと一同を促しながら、ヒカリは舌戦での勝利を噛み締めていたのだった。





















今日の駄妹

「さてさて、気付かれなかったようですね。まあ、後々の問題もありますし、最後まで気付かれないようにやりたい所です」

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